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魔界のお祭り(後編)

やっとこの子達に会えた。やはり一番好きな子達だな。

魔族の角を着けて、魔族に見えるようにしてディオン皇太子は、クロード、フローラを先頭に、背後にルディーンとミリオンを連れて、魔族達でごった返す、第一魔国の街を歩く。


祭りなので、あちらこちらで、魔族達による催しものが開かれており、店も沢山、出ていて賑やかだ。


ルディーンの別荘では、スーティリアが魔法で大きくした水晶をテーブルに置いて、ミリオンが手に持ってカメラのように使っている水晶と繋ぎ、5人が歩く街の様子を、テラスでお茶を飲みながら、セシリア、リーゼティリア、フィーネ、ファルナード、ローゼン、グリザスに見せている。


スーティリアがミリオンに、


「聞こえる?こっちの声。」


「ああ、聞こえるぜ。これから、色々な店を見て回るから、欲しい物があったら言ってくれ。」


「了解しましたーー。」



ディオン皇太子は、ミリオンの水晶に向かって。


「女性陣の買い物の代金は俺につけておいてくれ。全て奢りだ。」


スーティリアが、礼を言う。


「有難うございまーす。」


聖女リーゼティリアが、セシリア皇太子妃に、


「いいのですか?セシリア様。」


「ええ。ディオン様がそうおっしゃっているのですから。」


フィーネがぺこっと頭を下げて。


「有難うございます。」


クロードが、黒騎士グリザスに向かって。


「グリザスさーん。聞こえる?」


「ああ。聞こえている。クロードの姿も見えているぞ。」


「欲しい物があったら言ってね。買って行くから。」


「有難う。そうさせて貰う。俺の小遣いの範囲だな。」


周りは金持ちだろうが、グリザスとクロードは騎士団で働いている身なのだ。

贅沢は出来ない。


フローラが騎士団長のローゼンに向かって手を振って。


「ローゼン様も欲しい物があったらおっしゃって下さいませ。買って行きますから。」


「有難う。フローラ。」


こちらは公爵であり、騎士団長でもある金持ちだ。


優雅に赤ワインを飲みながら、見物している姿だけでも絵になる美しきローゼンである。


ローゼンがファルナードに向かって。


「ファルナード殿下は頼まないのですか?ミリオンに。」


「ミリオンは言わなくても、解っているだろう。」


水晶の向こうから、ミリオンが。


「俺もファルナードも小遣いの範囲内だな。金持ちが羨ましい。」


その時、スーティリアが水晶を見ながら、


「あ、串焼きっ。それお願いーー。美味しい闇竜の串焼きじゃない。買ったらすぐにこちらへ転送ね。」


ミリオンが頷いて。


「了解。」


串焼きを14本、こちらへ転送してくれた。


黒騎士で死霊のグリザスは今は食べられないので、後で人になる魔法をかけて貰い食べる事にして、スーティリアやセシリア、リーゼティリア、フィーネ達女性陣とローゼンとファルナードは飲み物と共に、串焼きを堪能する。

なかなかカリカリしていて美味しい。


リーゼティリアがセシリアを気遣う。


「食べられますか?セシリア様。」


今、セシリア皇太子妃は妊娠しているのだ。つわりとかあって食べられないかもと気遣うリーゼティリア。


セシリアは美味しそうに串焼きを食べながら。


「大丈夫よ。リーゼ。美味しいわ。フィーネ。食べてる?」


聖女見習いのフィーネは串焼きにかぶりつきながら。


「食べてます。凄く美味しい。」


「良かったわ。」



ディオン皇太子達も、歩きながら串焼きを堪能する。


「なかなか美味いな。」


ルディーンがディオン皇太子に、


「歩きながら食べるって、貴方には未体験の事でしょ?」


「いや、外遊先でそういう体験はあるぞ。俺は色々な所へ行ったからな。3年間。

セシリアには苦労をかけた。時にはついてきて貰い、時には王国へ戻って貰った。

俺は好き勝手やっていたからな。」


ルディーンは呆れて。


「皇太子殿下らしい話ですねぇ。」


ミリオンが周りを水晶で映し出して。

魔族達は皆、黒の衣装を着て、灯りの下、祭りを楽しんでいるようだ。


ふと、ディオン皇太子がミリオンに尋ねる。


「魔族の正装は黒だろう?今、皆が着ている服も黒。黒以外は着る事はあるのか?」


ミリオンが説明する。


「黒は黒でも色々な黒があるんだ。真っ黒から、赤が混じった黒、青が混じった黒…まぁ正装は真っ黒だが。人間には区別つかないよな。きっと。」


ルディーンが空を見上げれば、空は真っ暗、灯りが所々灯っていて。


「魔界は地下にありますからねぇ。ただでさえ、暗い。俺達には黒の微妙な違いが判りますが。」


ディオン皇太子は、魔族達の衣装を見ながら、


「俺には区別がつかんな。」


ふと、前を見れば、クロードとフローラが仲良く先を歩いている。


ミリオンがそれを見ながら、


「あの二人、ちょっと間違ったら、結婚していたかもしれないな。」


ルディーンも頷いて。


「アイリーンの存在があったから、結婚出来なかっただけで、そうでなかったら、結婚していたかもしれないですね。」


その会話を水晶越しに聞いていた、グリザスとローゼンは内心穏やかではなくて。


グリザスはふと思う。

死霊の黒騎士である自分と結婚して本当にクロードは幸せなのか。

子供なんて望めない。周りの目も、幸い、優しい人ばかりだから、皆、認めて祝ってくれたが、本当はクロードはフローラみたいな女性と結婚した方が幸せだったのではないだろうか。アイリーンは過激で束縛する女性だった。しかし、フローラはどうだろう。

勿論、フローラは今やローゼン騎士団長の婚約者である。だからフローラみたいな女性とグリザスは思ったのであるが。それになんだか…ちょっとああして仲良くしている二人を見ていると焼きもちが妬けてしまう。そんな自分にグリザスは凹んでしまって。


ローゼンは赤ワインのグラスを手にして、ぼんやりと思った。

フローラに望まれて、こうして今、婚約者になっている。

フローラのお陰で、彩のない人生に彩が生じて、とても幸せな生活を送っている。

そう、例え、男としてのプライドが地に落ちてしまったとしても。

この出会いに後悔はないのだが。

もし、フローラと出会わなかったら…マリアンヌとの婚約は継続していたはずだ。

彩のない人生。

そちらの方がぞっとする。

ああ…フローラに今すぐ触れたい。どうか、クロードに微笑みかけないでくれ。

珍しくローゼンの心に嫉妬の炎が芽生えた。

何だか胸が苦しい。


その時、クロードと話をしていた、フローラが水晶に向かって話しかける。


「ローゼン様。お揃いのカップを買いませんか?とても素敵な花の模様のティーカップを見つけたのですわ。」


骨董品の店が出店を出していて、フローラが掲げたカップは、見た事もない魔界の花だろうか?金色のランプのような形をしていて。その模様が付いたカップをローゼンに掲げて見せた。


ローゼンは返事をする。


「素敵なカップだな。金は後で払うから、立て替えておいて欲しい。」


「わたくしが買いますわ。そして差し上げますから。二つ、ローゼン様のお部屋に置いておいて下されば。一緒にお茶する時に使いましょう。」


フローラが嬉しそうにそう言うので、ローゼンは頷いて。


「それならば、別の物を君の為に私は買いたい。何か欲しい物があったら言ってくれ。」


「まぁ有難うございます。ローゼン様。」


ローゼンはほっとした。

フローラの愛が感じられる。


クロードはどうしているだろう。ふとローゼンが水晶越しにクロードを見て見れば、

クロードは、ディオン皇太子と模造剣を見ているようで。


「よく出来た細工ですね。ディオン皇太子殿下。飾っておくには丁度いいかも。」


「確かに。さすが魔界の細工は、凝っているな。」


値段を見れば、とても高い。


クロードはため息をついて。


「うわっ。高いや。とてもじゃないけど、小遣いの範囲で収まらない。」


ディオン皇太子が笑って、


「ルディーン。結婚祝いにクロードに買ってやれ。」


「え?結婚祝いはあげたはずですが…。それに結構高い値段ですよ。これ。」


「ソナルデ商会の会長が、そんな器の小さい事を言うのか?」


クロードがハハハと笑って、


「ルディーンとは従兄ですから、貰う訳にはいかないですよ。」


グリザスは水晶越しに見て思った。

クロードが欲しがる模造剣、買ってあげたい。

しかし、グリザスもそれ程、金持ちと言う訳ではないのだ。


すると、ローゼンが、クロードに向かって。


「私から結婚祝いの追加という事で、買ってやろう。」


グリザスがローゼンに向かって、


「いいのか?申し訳なくて受け取れない。」


「お前達は私の家族同然だ。ただし、クロード。あまりフローラとイチャイチャするな。

婚約者として私は許せなくなる。」


クロードは驚いたように。


「騎士団長でも焼きもち妬くんだな。解りました。」


フローラが真っ赤になって。


「やだわ。私はクロードとはお友達以外の感情は一切ないのに。愛しているのはローゼン様だけですのよ。だから安心して下さいませ。」


ローゼンは頷いて。


「勿論、解っている。解っているが。」


何とも言えず心境は複雑で。

ディオン皇太子が、水晶越しにローゼンに向かって、


「俺が監視しておいてやるから安心しろ。ローゼン。女性陣には何か可愛い土産を買ってやりたいが。」


フローラが、金色のランプを型どった飾りを手にして、


「これなんて如何でしょう。部屋に飾っておいたら可愛いですわ。」


セシリア皇太子妃が、フローラに。


「それを4つお願いしますわ。いえ、5つ。フローラの分も我が王家から買いますから。」


「有難うございます。今日の思い出として頂きますわ。」


他にも色々と買い物を楽しんでいたのだが、ふとディオン皇太子は背後から見知らぬ魔族に声をかけられる。


「これは、上玉だな…お前、本当に魔族か?人間の匂いがプンプンするわ。」


「確かにな。いい身体しているじゃねぇ?お兄さん。俺達の相手をしてくれよ。」


ディオン皇太子は二人の魔族を睨みつけて。


「お前達変態か?何で男である俺に声をかける?」


ルディーンがディオン皇太子の前に進み出て、


「この男は俺の持ち物だ。俺は第一魔国の王族であるルディーン。王族の持ち物に手を出したら、どうなるか解っているんだろうな。」


二人の魔族は真っ青になって逃げて行った。


ディオン皇太子はルディーンに向かって。


「俺はお前の持ち物扱いか?」


「まぁそう言う事になりますね。」


ミリオンはディオン皇太子に向かって、


「だから、魔族と人間は完璧に相容れる事は難しいんだ。魔族は人間の魂に干渉出来る。

人間を支配する事も出来る。魔族に完璧に支配されたくはないだろう?」


「俺は…ルディーンに支配されて、後悔はない。」





「魔族なんて…いなかったらいいのに…」


ポツリと言ったその言葉。涙をポロリと流してそう言ったのはセシリア皇太子妃で。


スーティリアが宥めるように、


「ごめんなさい。ごめんなさい。セシリア様。辛いよね。」


リーゼティリアもセシリアの背を撫でながら。


「お身体に触りますわ。セシリア様。あちらで少し休みますか?」


「そうさせて頂くわ。」



その様子を水晶越しに見てしまったディオン皇太子。


ああ…それでも俺は…ルディーンの事を。


ディオン皇太子はルディーンに抱き着いた。


「愛している。どうか俺の前からいなくならないでくれ。」


「大丈夫ですから。ディオン皇太子殿下。だから、今は…セシリア様の元へ帰りましょう。

ね?」


ミリオンも頷いて。


「帰ろうか。もう買い物も済んだだろう?」


クロードとフローラも、買い物をした物を手に抱えながら。


「うん。戻ろう。」


「セシリア様が心配ですわ。」



皆で、ルディーンの別荘に戻るのであった。


戻ってすぐ、ディオン皇太子は寝ているセシリア皇太子妃を気遣う。


「具合はどうだ?セシリア。」


「大丈夫ですわ。わたくしこそ、ごめんなさい。変な事を言って。」


「お前は悪くない。悪いのは俺だ。本当にすまない。だが俺は…」


「解っております。貴方のお気持ちは。ルディーンの事、大丈夫ですから。」


他の皆は、買ってきた土産物を見て楽しんでいて。


ファルナードはミリオンが買ってくれた、上着を着ながら。


「なかなか軽くて暖かい。有難う。良い物を買ってくれて。」


「俺だってちゃんとファルナードの事を考えているんだぜ。」


「優しいな。ミリオンは。」


ローゼンはフローラとイチャイチャと、カップを見て、楽しんでいる。


「素敵なカップだな。フローラ。一緒にお茶をするのが楽しみだ。」


「ええ、ローゼン様が好きそうな素敵なカップだと思って。私も楽しみですわ。」



クロードはグリザスの傍に行き、


「グリザスさんも焼きもちを妬いた?」


「俺は大丈夫だ。」


「嘘つき。ちゃんと伝わってきたよ。俺達、魂が繋がっているんだから。」


「本当に俺と結婚して後悔はないのかと、思ってしまった。」


「後悔なんてないよ。でも、ああ…もっともっと、グリザスさんを鳴かせたい。

俺の思うがままにもっともっと支配したい。」


スーティリアが、一言。


「クロード様ってヤンデレ?ちょっと病んでいるよね。」


「うん。俺って病んでいるかもしれないね。不思議だよね。アイリーンが恋人の時は、言いなりだったんだけど、グリザスさんが恋人になったら、凄く支配したいって気持ちが強くなったんだ。何でだろう。」


「相性ってものじゃないの?」


グリザスは困ってしまう。


「クロード。何度も言うようだが、あまり酷い事はしないでくれ。俺はお前を愛しているのだから…。」


「解っているよ。」


フィーネは疲れて寝ているようで。

ルディーンはリーゼティリアに頼まれて、風邪を引かないように、フィーネをベットに運んで寝かせて。


リーゼティリアはルディーンに、


「貴方も辛い立場で大変ですわね。」


「まぁ、今に始まった事ではないですから。皇太子殿下が別れたくないって、泣きそうな顔で縋って来るんですよ。こうしてしまった責任は取らないとね。」


「貴方も何だか泣きそう…。でも、セシリア様を不幸にしたら許しませんわ。」


「解っていますよ。」


それぞれの思いと共に祭りの夜は終わって、皆、客間で眠りについた。


静かに魔界の夜は更けていくのであった。


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