闇竜退治
ディオン皇太子は、自室に戻る途中、ミリオンとファルナードに声をかける。
「闇竜が出た。すぐに現場に向かう。スーティリアに連絡してくれ。」
ミリオンはすぐに通信魔具でスーティリアを呼び出す。
彼女なら、行ったことの無い場所でも、転移してくれるからだ。
動きやすい服装にディオン皇太子が着替え、聖剣を手に王宮の広間に飛び出すと。
白銀の鎧を着けたローゼンが、ゴイル副団長と近衛騎士30名、竜騎士リンドノールを連れてくる。
その中には、シリウス・レイモンドや、アンリエッタの兄のルイス・シャルマンもいた。
スーティリアが魔法陣を展開して現れた。
「皆さんっ。揃ってるーー?」
転移鏡でディオン皇太子の私室の隣室に転移してきたのか、勇者ユリシーズと、フローラが一緒に広間に走って来た。
ローゼンが驚いて。
「フローラ、君は公爵家で待っているように言ったはずだ。」
「私も聖剣を持っています。だから役に立ちたいですわ。」
廊下をクロードと黒騎士グリザスが走って、広間に現れて。
「俺達も行きます。」
ディオン皇太子は頷いて、
「スーティリア、転移してくれ。」
「それじゃ行きますよーーー。スーティリアにお任せよ。王都周辺に現れた3匹の闇竜の元へ案内して頂戴。」
羽の生えた小さな天使が数人、掲げた水晶玉の周りをクルクル回る。
水晶玉を床に投げつければ、巨大な魔法陣が展開して。
「準備出来ましたー。」
ディオン皇太子が皆に声をかける。
すると、別の魔法陣が近くに展開して、
「わらわ達も力を貸そう。」
第一魔国魔王サルダーニャ、第三魔国魔王シルバ、第五魔国魔王ロッドが現れた。
クロードが、ディオン皇太子に説明する。
「3人に知らせたんだ。凄く嫌な予感がしたから。」
「そうか。助かる。行くぞ。」
全員、スーティリアの魔法陣に飛び込む。
飛び出た先に治安隊のザビト総監が遠くから闇竜を眺めていた。
治安隊員達を指揮して住民を危険から避難させているようだ。
黒く巨大な闇竜、四つ足であり、ゆっくりと王都へ向かって動いている。
闇竜の通り道にあった森の木々はなぎ倒され、家は潰され悲惨な状況だった。
ディオン皇太子達が転移してくると、ザビト総監は、
「今回のは以前のと比べ、特にデカい。それに鱗が生えている。」
サルダーニャが、
「誰かが魔法をかけて、より邪悪に強くした可能性があるのう。これは…」
ロッドが眉を寄せて、
「魔族の陰謀か?何が目的だ?」
ディオン皇太子はハタと思い当たった。
「ミリオン。ファルナードに注意してやってくれ。ジュエル帝国の陰謀かもしれん。
第六魔国魔王ジルギュルト。ジュエル帝国と組んでいる奴の陰謀なら、ファルナードが危ない。」
「解った。ファルナード。俺から離れるな。」
「了解した。兄はまだ俺を諦めていないのか…」
ディオン皇太子は皆に指示を出す。
「ミリオンはファルナードを守って待機、グリザスは俺と一緒に、右の闇竜を、
クロードは俺達の補助、ローゼンとリンドノール、ユリシーズは真ん中の闇竜を、フローラはその補助だ。サルダーニャ達、魔族は左の闇竜をよろしく頼む。他の者達は、住民の避難誘導に加わってくれ。」
ファルナードは叫ぶ。
「俺も戦いたい。勇者ファルギリオンの名にかけて。」
「解った。ファルナードとミリオンも俺達に加わってくれ。」
ミリオンが大剣を背負い、
「戦いながら、ファルナードに気を付けておくよ。」
「それじゃ行くぞ。」
ディオン皇太子の掛け声に、皆、闇竜の元へ向かった。
ミリオンが走りながら嬉しそうに。
「前も一緒に闇竜を片付けたが、今回は、より頼もしい伴侶と、友が増えた。
腕が鳴るぜ。」
ディオン皇太子も走りながら、
「そうだな。俺はお前と共に戦うと力が倍増する。」
闇竜の傍に行くと、以前は鱗など生えていなかったのだが、鱗が生えて、
口をクワっと開け、衝撃波を放ってきた。
5人は慌てて避ける。
クロードが、
「道に大穴が開いたよ。これくらったら、マズイかも。」
ディオン皇太子は、皆に向かって。
「四方から一斉攻撃。行くぞ。」
緑の聖剣を持ち、飛び上がり、闇竜の首に向かって、斬り付ける。
ガキっと音がして、跳ね返された。
間を置かず、グリザスが魔剣で、首元を斬り付ける。
それも跳ね返される。
闇竜が嫌がって暴れ、衝撃波を放つ。
皆が避ければ、地に大穴が開く。
ファルナードが飛び上がって、眉間に炎の巻く黒の聖剣を思いっきり叩き込んだ。
― ぐああああああっーー。―
闇竜が悲鳴をあげる。
ミリオンが感心したように。
「凄い。さすが勇者ファルギリオン。一味違うな。俺も負けてはいられねぇ。」
暴れる闇竜は更に衝撃波を放ちまくる。
ミリオンは、聖剣の大剣で、闇竜の頬を思いっきり殴りつけた。
闇竜がのけぞるも、ミリオンに向かって衝撃波を放つ。
グリザスがミリオンを突き飛ばして、共に地に転がる。
「サンキュー。助かったぜ。」
「礼には及ばない。」
ディオン皇太子が今度は聖剣で、闇竜の顎下から殴り上げた。
- グアアアアッーーーーーー -
闇竜がよろける。
そこへ、ファルナードが首を伝って駆け上がり、飛び上がると、
上から聖剣を闇竜の眉間に叩きつける。そして、そのまま、真っ二つに斬り下げた。
ドドドーーーンン。
闇竜が眉間から真っ二つになり、ファルナードは首の途中まで斬り下げて、そのまま、聖剣を右へ払えば、ベシャっと、首の途中から斬れた闇竜が地に転がる。
クロードが感心したように。
「俺、出番なかった…凄いな。ファルナードは。」
その頃、ローゼンはユリシーズとリンドノールと共に、闇竜と戦っていた。
放つ衝撃波を避けながら、ローゼンは飛び上がり、金の聖剣をその首に叩きつける。
同じくユリシーズも、リンドノールも次々と、闇竜の首に攻撃を加えていく。
そのたびに、闇竜は暴れまくり、衝撃波をまき散らす。
フローラは聖剣を持って、3人に力を与え続けていた。
衝撃波を受けないように、ちょっと離れてである。
ローゼンは焦っていた。
「決定打が与えられない。」
ユリシーズも頷いて。
「嫌がってはいるみたいだけどね。」
リンドノールが、
「目を狙ってみます。」
飛び上がると、闇竜の目を狙い、剣を突き立てる。
- ぎゃああああああああっーーー。 -
目に刺さった剣を掴んだまま、振り落とされないように、暴れる闇竜にしがみつくリンドノール。
ローゼンが聖剣を光らせて、黄金の網を展開し、闇竜の動きを封じる。
「ユリシーズ、もう片方の目を。」
「了解。」
ユリシーズも飛び上がり、闇竜のもう片方の目に聖剣を突き立てた。
- グアアアアアアアアアアアッツ ―
そして、その聖剣を抜くと、眉間に突き立てる。
― ギャアアアアアアア -
ドドドーーーーーン。
闇竜は倒れた。
もう一匹は、
サルダーニャが業火の槍を、ロッドが稲妻を、シルバが氷の槍を次々と繰り出す。
最初はダメージを受けている様子はなかったが、徐々に鱗が剥がれていく。
ロッドが叫ぶ。
「鱗が剥がれたところを重点的に狙えっ。」
「了解じゃ。行くぞ。」
サルダーニャが業火の槍を投げれば、ついに突き刺さり、闇竜の身体が燃え始める。
シルバが氷の槍を手に持ち、襲い掛かる闇竜の衝撃波を魔法の盾で防ぎながら、
投げつければ、氷の槍は口の中に刺さり、そのまま頭を貫いた。
三匹目もドドーーンと音を立てて倒れる。
ディオン皇太子はその様子を見て、
「無事に倒せたようだな。」
その時である。魔法陣が現れて、ファルナードの身体が魔法陣から出て来た何十本にも渡る触手に絡めとられ、引き込まれようした。
ミリオンが素早く見つけ、上段斬りに触手を斬り、ファルナードを突き飛ばして助ける。
フローラが叫ぶ。
「ファルナードはここにいるわ。」
転がっていた丸太をファルナードに変化させて、思いっきり魔法で投げつけた。
しかし、皆、見てしまった。
変化させた丸太のファルナードが白目を剥いて、ホラーな顔をしていたのを。
そしてまるで似ていない。
再び伸びて来た触手にベシっと弾かれてしまった。
クロードがぼそりと、
「フローラ…。どう見てもファルナード様に見えない。」
シルバが呆れたように。
「ふん。相変わらず変化のセンスがないな。」
「私だって一生懸命やったのよ。ほら。何とかしなさいよ。」
ロッドが、
「フローラ。見本を見せるからよく見るがいい。」
三本の丸太をファルナードに化けさせて、再び触手の魔法陣に投げつける。
皆、見てしまった。3人のファルナードの顔が、タダカツベアのようなつぶらな瞳で、
とても可愛い顔をしているのを。
触手が3人のファルナードをぺシペシと叩いて、投げ捨てる。
シルバが、氷の塊を10個、作りだして。
「ロッド。お前には失望した。俺が見本を見せてやろう。」
10人のファルナードを作り出し、触手の魔法陣へ投げ入れた。
顔は、似ているがマネキンみたいである。
人数が多かったのか。触手がわさわさと蠢いて、悩んでいるようだ。
サルダーニャが立ち上がり、
「まどろこしいのう。わらわが見本を見せてやろう。」
大木に魔法をかければ、巨大なファルナードが出現し、
本物そっくりなファルナードは聖剣を構え、魔法陣へ突入し、
触手ごとそれを破壊した。
クロードが感心して。
「さすが姉上、見事だね。それに比べて…」
サルダーニャはフローラとロッド、シルバをチラリと見やり、
「お前達は、魔法の勉強が足りぬようだのう。」
ディオン皇太子が、
「恐ろしいファルナードを見たような気がするが、ともかく、闇竜を倒して、
ファルナードを狙う魔法陣も破壊した。魔界の魔王達には借りを作ってばかりだな。
どう返したらいいんだか…」
「気にするでないわ。いい運動になった。今度。酒の相手でもしてくれれば良い。」
妖艶にサルダーニャは笑って。
ロッドとシルバも、
「気にしなくていい。」
「俺達が好きでやっている事だ。」
ディオン皇太子は3人に、
「本当に助かる。有難う。」
被害状況を、近衛騎士と、治安隊に調べさせて、
家を失った人が居れば、ひとまず仮に住める場所を紹介するよう手配をし、
ディオン皇太子や他の人達は、王宮へスーティリアの魔法陣で転移し、それぞれ家に戻ったのであった。
王宮に戻ったディオン皇太子は、視察から戻って来ていた国王陛下、フォルダン公爵。アイルノーツ公爵に事のあらましを報告してから、自室に戻る。
セシリア皇太子妃が心配して待っていてくれた。
「御無事で何よりですわ。」
「ああ、本当に疲れた。膝枕してくれぬか?」
「ええ…」
ソファで膝枕をしてもらう。
セシリアのお腹を優しく撫でながら、
「まだ目立ってこないな。男の子か女の子か…待ち遠しい。」
「やっと授かった子ですもの。どちらでも私はいいと思っていますわ。」
ああ…セシリアと共にいる時がとても幸せなのに、どうしてルディーンを俺は求めてしまうのか…。そう言えば、忙しくて、工房に様子を見になかなか行けない。
様子を見に行かないと…
疲れが出たのか、ディオン皇太子は眠ってしまった。
「そう言えば、ディオン様。ルディーンから言付けを…あら…眠ってしまいましたわ。起きたらご報告しましょうか。」
大変だった昼間が嘘のように、夜は静かに深けていくのであった。