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死霊の黒騎士グリザスの結婚生活⇒こんなはずじゃなかった。

死霊の黒騎士グリザス・サーロッドと、正騎士になったクロード・ラッセルは、結婚して3か月が経とうとしていた。


結婚して、こんなはずじゃなかったと思うカップルは実は多いのではないだろうか。


真夏の暑い真昼、グリザスは騎士団見習いの剣技の指導を終え、王宮の門から自宅へと歩き出す。買い物をして帰らないと、今夜は何をクロードに食べさせたら良いのだろう。

顔馴染みの食料品店に行けば、野菜や肉、果物。色々と売っているのが、いつも頭を悩ませていた。


結局、長いパンと、鳥肉、豚肉と野菜を買い、それを持っていた背負い袋に押し込んで、

自宅へ戻る。自宅は、クロードの姉、サルダーニャが買ってくれた二階建ての白い屋敷だ。


干してあるクロードの洗濯ものを取り込んで、広い屋敷を雑巾とモップと箒を駆使して端から端まで掃除を始める。


なんて家の事をするのは大変なのだろう。

それにしても暑い…


死霊で主婦業をやっているのって俺位な物だろう。


クロードにメイドを雇ってくれと頼んだ。

しかし、嫌がられた。


「グリザスさん。若い女の子大好きだよね。だから、俺、焼きもち妬けるんだ。

駄目だよ。許可しない。」


それならばクロードに少しは手伝ってくれって頼んだ。

そうしたら。


「俺は正騎士で一日中働いて、夜勤もあるんだよ。グリザスさんは午前中で仕事終わりだよね。当然、グリザスさんにやって貰いたいな。俺の奥さんだし。」


言いくるめられてしまった。


食事を作れば作ったで。


「いつも同じスープばかりじゃ、俺、飽きるんだけど。

今日のスープは味がしなかったし…この間のは塩辛かったよ。」


死霊は味見出来ないのだが…なんせ、鎧の下は骨なのだ。舌がある訳ではない。


ともかく、暑い…雑巾をかけながら、ついにグリザスは床に座り込んだ。


あまりにも悲しいので、家出をしよう。

そうだ…親友のモリスディンの所へ家出して、愚痴を聞いてもらおう。


グリザスは、クロードに置手紙を置くと、モリスディンの刀剣が売っている店へと出かけた。

今夜はモリスディンに泊めて貰って、クロードには少し反省して貰おう。


日差しがじりじりと照り付ける中、刀剣が売っている店へ行けば、奥さんが出て来て、


「すみませんね。夫は買い付けに出かけていて、帰るのは3日後なんですよ。」


「ああ…それなら、出直してくる。」


モリスディンがいなかった…あああ、どこへ家出しよう。

フォルダン公爵家のフローラやユリシーズの所か?


いや、アイリーンがいて、きっと馬鹿にされるだろう。


ギルバートやカイルは騎士寮に入っていて、助けを求めたら助けてくれるだろうが、

泊まれるような広い寮でもなく迷惑はかけられない。


ミリオンは王宮の客室でファルナードと暮らしているし、

ルディーンは魔界の工房で籠りきりらしい…


仕方が無いので、最後に頼れるであろうローゼン騎士団長の屋敷にグリザスは向かった。

ローゼンはまだ戻っていないというので、戻るまで図書室で待たせて貰う。

この屋敷のメイド長とは顔見知りなので、すんなり通して貰って有難かった。


図書室で本を読んでいたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。

ローゼンが戻って来て、揺り起こされた。


「お前が訪ねてくるとは珍しい。以前、預かった時以来だな。」


あの時は、治安隊に嫌がらせを受けて、牢獄へ投獄された後だったので、

クロードが魔界へフローラと出かけた時に、グリザスはローゼンの屋敷に滞在させて貰ったのだ。


「騎士団長。俺は家出してきたのだ。しばらく置いて欲しい。」


「家出?クロードと何かあったのか?」


図書室のソファにローゼンは腰かけて、グリザスに理由を聞いてきた。


グリザスは説明をする。


「掃除に洗濯、料理…俺には無理だ。メイドを雇って欲しいと頼んだのだが、断られた。

若い女の子のメイドは焼きもちが妬けるとか言われて。そもそも俺は死霊なのだ。

若い女の子が興味を持つのはクロードの方だと思うが。」


「それならば、年配の女性を雇ったらよいのではないのか?通いで主婦業をやってくれる人なら探せばいるだろう?我が家のメイド長に捜して貰おうか。彼女は顔が広い。

紹介をしてくれるだろう。」


グリザスはローゼンの手を握り締めて。


「有難う。騎士団長。紹介をしてほしい。本当に助かる。」


「いや…。それにしても、クロードには困ったものだな。迎えに来るだろうから、私から一言注意してやろう。」


その時、図書室の扉が開いて、クロードが入って来た。


「やはり、ここにいた。グリザスさん、帰るよ。」


ローゼンが立ち上がり、


「待て、クロード・ラッセル。話がある。」


「何ですか?騎士団長。」


「年配の女性の通いのメイドを雇ったらどうだと、グリザスに勧めた。主婦業がキツイそうだ。グリザスは男で死霊だ。出来ない事もあるだろう?もっとグリザスの心に寄り添ったらどうだ。このままでは愛想をつかされてしまうと私は思うが。」


「夫婦の事に口出さないで下さい。俺はグリザスさんに世話をしてもらいたいんです。

だって俺の奥さんですから。」


グリザスはクロードに向かって。


「俺に主婦業は辛い。メイドの件。許可してはくれまいか?」


「嫌だ…もっともっと俺の事を思って。もっともっと…俺の為に尽くしてよ。

もっともっと…がんじがらめにしたい。グリザスさんを俺で…縛り上げたい。」


ローゼンがクロードの肩に手をかけて。


「過剰な愛は、相手を苦しませるだけだ。グリザスだって受け止めきれないだろう。

グリザスはしばらく私が預かる。少し、頭を冷やせ。」


「騎士団長は…フローラの過剰な愛を受け止めたくせに…。男としてのプライドを投げ捨てて…」


ローゼンは返す言葉に困ったのか、しばらく沈黙した。


困ったように、ため息を吐いて。


「私はどうすればよかったのだ?フローラと別れればよかったのか…。

いや、もう…私はフローラを愛している。プライドよりも…フローラの愛を取る程に。

グリザスだって、男としてのプライドを捨ててまで、お前を愛しているではないか。

それでは駄目なのか?」


グリザスはクロードに近づき、身体を抱き締めて。


「俺はお前を愛している。でも、主婦業は俺には辛い。せめて料理をやってくれる人を雇ってはくれないか?味見をする舌を持っていない俺には料理は負担なのだ。」


クロードは頷いて。


「うん…ごめんね。グリザスさん。俺、不安なんだ。もっともっと俺を愛して欲しい。愛して欲しいって…どうしようもなく不安で。」


「魂が繋がっているから…俺達は離れる事はない。」


「でも家出したよね。魂が繋がっているからって、居場所がすぐ解る訳じゃないんだ。お仕置きかな。」


ローゼンが呆れたように。


「仕置をするならば、家に帰ってからにしてくれ。ともかく、通いのメイドが欲しければ、我が屋敷のメイド長に口利きを頼んであげよう。それでいいか?クロード。」


クロードは仕方がないと言う風に。


「解りました。お願いします。若い女の子は駄目です。後。若い男の子も…。歳がある程度取っている女性にしてください。よろしくお願いします。」


「解った。そう伝えておこう。」


グリザスはローゼンに礼を言う。


「迷惑をかけてしまった。有難う。お陰で助かった。」


「いや…いつでも頼ってくれ。お前とクロードは身内みたいなものだ。」



ああ…騎士団長はいざという時に頼りになる。本当にいい人だ。


クロードと共に結局、その日は家に帰った。


そして、クロードが料理を手伝ってくれた。


「俺も料理ってあまりしないんだよね…。塩加減はこんな感じかな…」


スープを自分で味見して、グリザス自身は食事はしないので、クロード用の皿とグラスをテーブルに並べ。


テーブルについて、クロードが食事を始める。


「あああ…ちょっと塩辛いや。やっぱり、メイドさん、必要だね。」


「そうだな…。」


そう言うと、クロードの正面に座り、グリザスは。


「俺の事を信じて欲しい。俺の心はいつでもクロードと共にあるから…

ちょっとは、他に愚痴をこぼしたくもなるが…。」


パンを食べる手を止めてクロードはグリザスを見つめ。


「今回の事、反省してる…。でも…グリザスさんと、永遠に一つになれるといいのに。

二度と離れないように…。俺、怖くて怖くて仕方がない。グリザスさんを失う日が来るんじゃないかって。」


「アマルゼの呪いは解決した…。こうして俺は存在出来ている。だから…そんなに不安にならないで欲しい。」


「そうだね…ごめんね。」


その夜、クロードと魂の世界で、激しく愛し合った。


愛されながらも、何だかクロードが泣いている。そんな気がした。


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