表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/10

いきなり結婚申し込み・・・それもいいんじゃないか。

始まりの勇者の死体を盗み出す計画は、一旦、日を置くことになった。

神殿に行ったことのある、ジュエル帝国から亡命してきたファルナードと、竜騎士リンドノール、他にもジュエル帝国に留学していて、神殿の事を知っているという令嬢がいるので、

この3人に見取り図を描いて貰ってからという事になったのだ。


図を描くのは近衛騎士シリウス・レイモンドに任された。彼は設計図を描くのが得意分野なのだ。


ディオン皇太子殿下の元、4名は客間に集合した。

ファルナードを警護し、伴侶のミリオンも勿論、傍で見守っている。


三人ずつ別れて対面でソファに座り、


まずは、シリウス・レイモンドが自己紹介をする。


「近衛騎士、シリウス・レイモンドと申します。3人の方々から聞き取りを行い、神殿の図を描くことを任されました。よろしくお願いします。」


次にファルナードが自己紹介をする。


「ジュエル帝国、第三皇子ファルナード・ギリオン・ド・ジュエルだ。神殿には3度、行った事があり、始まりの勇者は1度拝見させて貰った事がある。」


次に竜騎士リンドノールが自己紹介をする。


「ファルナード様付きは、今は外れましたが、竜騎士リンドノールです。騎士団で副団長の補佐をしています。私もファルナード様の付き添いで3度、神殿には伺いました。よろしくお願い致します。」


そして、最後に自己紹介をした令嬢は、金髪の美しく品のある令嬢であった。


「アンリエッタ・シャルマンと申しますわ。ジュエル帝国で留学した時に、1週間程、神殿で学ばせて貰った事がありましたの。勇者様の遺体はその時に拝見いたしましたわ。微力ながらよろしくお願いします。」


ディオン皇太子は4人に向かって。


「勇者アクストの遺体を盗み出すのに、神殿の内部が解っていないと、手間取るだろう。

3人は思いつく限り思い出して、シリウスに伝えてくれ。頼んだぞ。」


3人は、解りました。と答えて、シリウスに、神殿の内部を思い出すように話し始めた。


ファルナードが、まず口を開く。


「確か、広い正面玄関から入って右側に神官達の控室があったような…」


リンドノールも頷いて、


「そうですね。広い階段が正面にあって、そこから二階と地下へ行けるようになっていました。階段の裏はトイレですね。」


アンリエッタも同意して。


「左側は大聖堂。神官様が人々を集めて祈りを捧げる場所ですわ。地下の階段を下りて行くと、大食堂、そして、倉庫があるのですが、確か勇者様が安置してある場所は…さらに下へ降りていかなければならなかったような…」


ファルナードも困ったように。


「どこにあったか。あの小さな階段は…目立たない所にあったな。」


シリウスが図を描きながら、


「大きな階段を下りて、左側はまず何がありますか?」


アンリエッタが思い出すように、


「大食堂があります。右側は倉庫。まっすぐに行くと行き止まりですわ。」


リンドノールがイライラして、


「あああ、じれったい。どこだったか…失礼…つい口調が。考えられるのは倉庫の先?」


ファルナードが首を振って、


「いや食堂の並びだろう?」


アンリエッタが、


「倉庫の先ですわ。私、倉庫の中を見せて頂いた事がありますが、大食堂の方が広さがありました。」


シリウスが、図に階段を書き添える。


ディオン皇太子はその図を覗き込んで。


「その階段を下りて行ったところに、始まりの勇者アクストの遺体が安置されているというのだな。」


シリウスが3人に、


「安置されている部屋の中の様子を詳しく、広さはどのくらいですか?」


アンリエッタが今いる客室を見渡して、


「この客室位ですわ。あまり広くありません。」


ミリオンが口を挟む。


「魔法陣が描きにくいか…あまりにも狭いと…描けない事はないが。部屋に転移避けの防御魔法が施されていたら、棺を部屋の外へ出さねばならねぇな。」


ディオン皇太子が、


「部屋の中に棺を運び入れているんだ。運び出せるだろう?何だったら、破損しないように、遺体を背負って運び出すか?」


「誰が背負うんだ。誰がっ…」


「ガタイのいい、俺かお前か、グリザスあたりだろう?それともローゼンにやらせるか?

ローゼンなら嫌とは言わないで、何でも背負ってくれるぞ。」


するといきなり、アンリエッタが二人に向かって。


「ローゼン様がいない所で、決めるのは失礼に当たると思いますわ。」


そして、ミリオンに向かって叫ぶ。


「皇太子殿下に貴方も仕えるのなら、率先だって死体を背負ったら如何?」


「うわっ…な、何だ??確かにその通りかもしれねぇけど…。」


ディオン皇太子が楽し気に笑いながら。


「そうだな。ミリオンに背負って貰おうか。」


「死体を背負うって、背筋が寒くなる話だな。ローゼンなら顔色一つ変えずにやると思うぜ。」


「ですからっ…」


アンリエッタが立ち上がる。


「どうして貴方はローゼン様に押し付けようとするのです?」


「何なんだ?さっきから。ローゼンの事になるとムキになるな。ローゼンの事が好きなのか?ええ?ローゼンはフローラの婚約者だろうが。」


ミリオンも立ち上がって睨みつける。


ファルナードが立ち上がり、ミリオンを諭すように。


「ミリオン。今は神殿の構造に集中するべきだ。喧嘩をしている場合ではないだろう。」


「そりゃそうだが…」


不機嫌にソファに腰かける。


アンリエッタもプイっという感じでソファに腰を掛けた。


3人の証言で、神殿の内部がどのようになっているか、シリウスが描き終わり、


ディオン皇太子が、立ち上がって。


「今日はここまでにしよう。日も暮れて来た。また、日を改めて。ファルナード、リンドノール、アンリエッタ。協力有難う。シリウスも協力感謝する。」


アンリエッタが立ち上がって。


「いえ、それでちょっと皇太子殿下にお願いがあるのですが。」


「ん?なんだ?」


「私、宮殿の外務官になりたいのです。募集していないでしょうか?いきなり外務官は無理でしょうけれども…」


「何故、外務官に?シャルマン公爵家と言えば、名門だ。公爵令嬢と言えば、釣り合う家の男と婚姻し、両家の為に尽くすのが普通の生き方ではないのか?」


アンリエッタはまっすぐディオン皇太子を見つめて。


「父は私に好きなように生きていいと言ってくれました。だから、ジュエル帝国に留学も致しましたし、そこで知り合った貴族の方と婚約いたしましたわ。でも、破談になりました。

浮気されたのです…。私は、もう結婚したいと思わなくなりましたわ。だから、仕事に生きたいと…」


ディオン皇太子はチラリとアンリエッタを見つめながら。


「ローゼンに執着していると、情報が入っているが?」


アンリエッタは笑って。


「ローゼン様を愛でる会の事ですか?ローゼン様に付きまとった事もありましたわ。

でも、ローゼン様は今はフローラ様を愛していらっしゃるのが良く解りましたから、

ローゼン様を愛する人達と愛でる会を作って、愛でているだけですのよ。

それ位の楽しみがあっても良いではありませんか。」


「アンリエッタの言う事はよく解った。俺から、外務官の事務局に入れるように、手配してやろう。」


その時、シリウス・レイモンドがアンリエッタに向かって。


「君は仕事に生きてしまうのか?もったいない…」


「え?シリウス様?」


「アンリエッタ…。君はあの夏の日にローゼン騎士団長に恋をしていたようだが、恋をしていたのは君だけではない。俺も恋をしていた。騎士団に良く遊びに来ていた、夏空のような明るい令嬢にね。その後、思いはあれども君に結婚を申し込むことが出来なかった。君はジュエル帝国へ行ってしまった。それに、俺はフォルダン公爵派だ。君の家はアイルノーツ公爵派。対立派閥だから。だが、好きに生きて良いと言われているのなら、俺との結婚も選択の一つに入れて貰えないだろうか?

両親を早くに亡くし、公爵になった俺にとっては、領地経営もせねばならず、結婚相手を探すところでは無かった。生憎、姉妹もいない。俺程、社交界に縁遠い男もいないだろう。

君が俺と結婚してくれれば、社交を君に任せる事も出来る。何より、明るい君が俺の傍にいてくれたら、どんなに素晴らしいか。」


アンリエッタは困ったように。


「近衛騎士は騎士団で30名しかなれないエリート騎士。オモテになるでしょう。信じられませんわ。私の兄なんて、とっかえひっかえ女性と付き合っておりますもの。」


ディオン皇太子が、


「アンリエッタ。外交官の仕事は大変だぞ。公爵令嬢のお前に務まるかどうか。かなりの覚悟が必要だ。シリウスと付き合ってみたらどうだ?それから決めても遅くはない。」


アンリエッタは頷いて。


「解りましたわ。シリウス様。お付き合い致しましょう。それから、結婚するか決めたいと思います。シャルマン公爵家の事は気にしないで…。私は好きに生きて良いと言われていますから。大丈夫ですわ。」


「アンリエッタ…有難う。必ず、俺と結婚したいと言わせて見せる。」



ソファに座っていた、ミリオンとファルナードとリンドノールは、あっけに取られていた。


シリウスにエスコートされてアンリエッタが出て行った後、


ミリオンが、


「まさか、ねぇ…。こんな所でカップルが…」


ファルナードが甘えるようにミリオンに寄りかかって。


「いいじゃないか。良い物を見させて貰った。逃げまくっていたミリオンにやっとプロポーズをして貰った事を思い出した。」


「ハハハ…。ま、まぁあれは皆がグルになって俺をだましたんだよな。」


リンドノールが肘で、ミリオンを突いて。


「お前がいつまでたってもファルナード様から逃げているからだ。」


「はいはい。友情に感謝しているぜ。」


ディオン皇太子はそんな友達を見ながら、微笑ましく思った。



日が傾いて、今日という一日が終わろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ