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4本の聖剣が岩に刺さっているとは…

夏、真っ盛りのとある日、マディニア王国の皇太子、ディオンは今、幸せを満喫していた。

愛する皇太子妃セシリアが懐妊したのだ。結婚して数年間、子が出来なかったのでとても嬉しかった。


子が出来なかったのは200年前のアマルゼとの大戦関連の呪いの影響だったようだが、鎮魂祭が成功したので子が出来たのであろう。


30年前に勇者ユリシーズによって封印されていた黒竜魔王の討伐にも100名にも渡る人員を投入し、三日三晩攻撃し続け、倒すことに成功した。


ディオン皇太子はセシリア皇太子妃が懐妊した為、男の愛人のルディーンに捨てられそうになったのだが、関係を持続する事が出来た。

(このディオン皇太子、有能で腕も立つ、非常にイイ男なのだが、愛人に対してはかなりポンコツになる。とりあえずそれは置いておき…)


今は悩みも何もない平和なひと時だった。

しかし、その悪夢は再び起きた。


早朝の目覚めは気持ちがいい。

ディオン皇太子は王宮の私室から身体を鍛える為に鍛錬をしようと庭に出た。

セシリア皇太子妃は、メイドに命じて、皇太子が鍛錬が終わったら程よく冷えた茶を出すように指示を出す。気が回る良い妃なのだ。


庭に出た途端、異様な光景に目まいを覚える。


立ち尽くしているディオン皇太子を、セシリアが心配して声をかけた。


「どうしたのです?ディオン様。」


「ああああ…あれはなんだ???何事だ??」


庭に岩があるのだが、そこに4本の剣が突き刺さっていた。


1本目は銀色のいかにも聖なる光を放っている大きな剣。

2本目は鈍い銅色の中位の剣。

3本目は黒に金色の装飾が施されている中位の剣

4本目は鮮やかな桃色に桜の花の装飾が施されている小さめの剣


「神イルグは聖剣の持ち主を探せというのか…また…」


そう、このディオン皇太子という男、破天荒の勇者で有名なのだが、

7つの聖剣を得た男としても有名なのであった。

7つのうち、6本は持ち主をディオン皇太子が探して、今は聖剣はそれぞれ、該当者の手にあるのだが、別に聖剣を持っているからと言って、うち5人は勇者という訳でもない。

国民からは、聖剣を拾いすぎだろうとか、陰口を叩かれてそれはもう頭が痛かった話なのだ。

聖剣を授けるなら、直接本人に渡るようにしろよーー。

って言いたいところだが…


仕方がないので、岩から聖剣4本を手際よく回収する。

ディオン皇太子のみ、他人の聖剣に触れることが出来るのだ。


「あの、イルグの野郎っ…。黒竜魔王を倒して、聖剣を使う脅威は去ったのではないのか?

ともかく、この持ち主を探さねばならん。また、悩みが増えたな。」


その言葉を聞いていたセシリアは。


「それだけ、イルグ様に信頼されているのでしょう?ディオン様。もし、又、聖剣を必要とする脅威が起こるというのなら、貴方なら立ち向かう力があると私は信じておりますわ。」


「セシリア…。また、共に走ってくれるか?」


「勿論です。お腹の子の為にも、この国の為にも協力を惜しみませんわ。」


「有難う。」


本当に自分にはもったいない位の妃である。


ディオン皇太子は、担いでいた聖剣を地に置くと、セシリアを優しく抱きしめた。



ともかく、情報を集めねばならない。

だが、今日は大事な式典があるので、ディオン皇太子は忙しかった。


王都の中央広場に、黒竜魔王討伐に参加した人達の名前が彫られた石板と、ディオン皇太子の銅像が出来上がったので、そのお披露目の式典に参加しなければならないのだ。


セシリア皇太子妃は懐妊中なので、ディオン皇太子と、国王陛下、王妃、弟のフィリップ殿下、討伐に参加した人達で参加出来る者、他に見物人の国民達が大勢集まり、派手に式典をやる事になっていた。


彫刻家のハルクは自信作が出来たと言っていたが、どのような銅像と石板なのであろうか…


王家の馬車に4人は乗り込み、式典へ出発し、広場へ着けば、沢山の国民達が歓声で出迎えた。


先に来ていたフォルダン公爵が、


「ディオン皇太子殿下の人気は凄いですな。さぁ、皆様こちらへ。」


中央広場の中心に幕がかかっている場所があって、そこに銅像と石板があるのだろう。

近くには討伐に参加したフローラ・フォルダン公爵令嬢や、クロード・ラッセル騎士団員、

勇者ユリシーズ、ローゼンシュリハルト・フォバッツア騎士団長、ミリオン・ハウエル、

勇者ファルナード等、聖剣の持ち主等が集まっていて。

国王陛下と王妃、そしてディオン皇太子とフィリップ殿下は、傍まで行き、

国王陛下がまず皆に声をかける。


「めでたい式典に集まってくれて皆の者、有難う。破天荒の勇者ディオンの銅像と石板。

これから公開する事になる。さぁ、私達と共に歴史的瞬間を、見ようではないか。」


「「「「わぁあああああーーーー。」」」」


国民達が拍手をして歓声をあげる。


皆が注目する中、いよいよ銅像と石板の公開になった。

彫刻家ハルクが幕を外すと、そこに現れたのは…


上半身裸で剣を持つ、ディオン皇太子の銅像である。

胸と背中の黒百合の大きな痣は少し浮き出て、強調されていて。

表情は引き締まっている中にも男の色気に溢れていた。

国民はわぁああああーーーっと歓声をあげた。


石板は何のことはない、その横に鎮座している普通の石板である。


ディオン皇太子だけが焦った。


「おい、ハルク。何で上半身裸なんだ??服を着せろ。服を。」


「皇太子殿下。皇太子殿下であることを証明するものは何でありましょうや。胸と背中の黒百合の痣でしょう?それを表現できなくてどうするんですか?」


「しかしだな…。」


「作り直しは国民が反対すると思いますが…。皆、喜んでおりますでしょう。」


国王陛下もその銅像を見上げて。


「よい出来だ。色気もあって、なかなか良い。」


フィリップ殿下も。


「兄上らしさが出ていますねぇ…。さすがハルク。素晴らしい腕前です。」


王妃もホホホと笑って。


「ディオン。観念しなさい。国民の受けもよいでしょう。作り直しは許しませんよ。」


「母上…」


その時、ミリオンがクロードに。


「あの痣に触ったらご利益ありそうだな。」


「確かに。台座によじ登らないとならないけどね。」


「前の痣と後ろの痣、どちらがご利益あるんだ?」


「さぁ…どうなんですか?皇太子殿下。」


ディオン皇太子は頭を抱えて。


「お前ら、変な事を言うな。触る輩が出たらどうするんだ?」


すると、その会話を聞いていたスーティリアという魔族の少女が、ぴょんと台座に飛び乗って、ディオン皇太子の銅像の胸にさわさわしながら、


「前を触れば恋愛運が、後ろを触れば健康運が授かりまーす。皆様、ペタペタ触って愛でてあげましょう。」


「スーティリア。やめてくれっーーー。」


国民全員が納得したようだ。


幸運が授かると言われている勇者ディオンの銅像。この日以降、台座によじ登り、さわさわする人が絶えなくなったという。


ま、まぁこんなことで胃が痛くなっては皇太子なんて務まらない。


式典が終わって、王宮に帰ってきた頃にはどっと疲れが出て、ゆっくりしたかったが、

4本の聖剣の件があったので、クロードとフローラ、ローゼン、ミリオン、ファルナード、スーティリア、グリザス、ユリシーズという、顔見知りを客間に呼んで、情報をまず集めることにした。特にクロード、フローラ、ミリオン、スーティリアは魔族である。特別に何か知っているかもしれない。

聖剣を持ってきて、壁に立てかけ、皆に見て貰ってから、ソファに座って貰う。

メイドが紅茶と茶菓子を持ってきた。


クロードが茶菓子を食べながら。


「よく授かりますねぇ…聖剣。以前も連日道路に突き刺さっていたんでしょ?7本の聖剣。今度はまとめてですか?」


「ああ、そうなんだ。朝、庭に4本刺さっていた。神イルグはどういうつもりなんだ?

ともかく、4本の聖剣の持ち主を探さないと。」


フローラが紅茶を優雅に飲んで。


「困りましたわね。心当たりがあれば良いのですが、今はまったくありませんわ。」


ディオン皇太子はミリオンとスーティリアに、


「お前らは魔界に詳しいだろう?どうだ?魔界に該当者はいないのか?」


ミリオンが考え込むように。


「俺とクロード、フローラ、アイリーンは聖剣を授かったけど、多分、該当者は魔族で無くて人間だと思う…4本の持ち主って、勇者じゃないのか?」


ローゼンが皆を見ながら、


「普通、勇者は各国に一人しか現れないが…。他国の勇者って事か。」


勇者ユリシーズが頷いて。


「俺はアマルゼ王国出身だし、ファルナード殿下はジュエル帝国出身だし…。この間、魔王討伐に関わったネリウスはニゲル帝国出身だったよね。」


勇者ファルギリオンこと、ファルナードも納得したように。


「って、事は他国を探すしかないのではないか?」


これまで黙っていた死霊の黒騎士グリザスが、聖剣を見つめながら。


「あの銀色の剣には古さを感じる。もしかして、古い時代の勇者なのではないのか?200年前の死霊の俺がこの時代に存在出来ている特例があるのだ。」


ファルナードがふと思い当たったように。


「ジュエル帝国の神殿に、始まりの勇者と言われているアクストの死体が保存されている。300年前の死体だが、その死体が銀の剣の持ち主ではないのか?その死体を見た事があるが、銀髪の男だった。」


フローラがまぁと言いながら。


「死体が持ち主だなんて、信じられないわ。」


クロードがグリザスをちらりと見ながら。


「でも、俺の嫁さんのグリザスさんは、死霊だし…有り得るよね。」


ミリオンもチラリとグリザスを見やり。


「確かにな…ファルナードの話から死体の勇者が持ち主で間違いないだろうよ。」


ディオン皇太子は両腕を組んで。


「しかし、ジュエル帝国の神殿が、死体であるとはいえ、勇者アクストを渡すとは思えない。

また、盗むのか…。」


魔国の魔王達の協力を得て、ファルナードの聖剣をジュエル帝国の庭から盗み出したのを思い出す。


ローゼンが冷静に。


「今度は死体ですから、盗む時に破損しないように注意せねばなりません。恐らく防腐処理が施されているのでしょう。でも死体は死体。腕がもげたり足がもげたりしないとも限りません。」


スーティリアが青くなって。


「怖すぎるから、棺ごと盗むしかないのではーー。」


ユリシーズも想像するように。


「腕や足がもげたら、うわっーーー。怖いっ。」


ミリオンがからかうように。


「腕や足ならともかく、首がもげたら。」


「「「ひえっーーー。」」」


クロードとフローラ、ユリシーズが揃って悲鳴を上げる。


ディオン皇太子がミリオンに。


「あまり脅すな。スーティリアの言う通り、棺ごと盗む方がよさそうだが、

また、人手が必要だな。棺を持ち上げるのに重い。」


スーティリアは頷きながら。


「そこに魔法陣を書ければいいんですけどーー。もしかして、阻止魔法がかけられているかもしれないしーー。」


ファルナードが、ディオン皇太子に。


「申し訳ないのだが、神殿から勇者を盗み出す事、俺は外れて構わないだろうか?

ジュエル帝国に足を踏み入れたくはない。兄に、もし出会ったら、恐怖で立つこともかなわなくなるだろう。」


「ああ、ファルナードは外れてくれて構わない。ミリオン。お前も外れていいぞ。

ファルナードはまだ、ジュエル帝国から狙われているからな。傍にいて守ってやってくれ。」


ミリオンはファルナードを優しく見つめながら。


「俺はどうしたらいい?お前が決めてくれ。俺としてはディオンの役に立ちたい。友だからな。だが、俺がいない間に、お前がジュエル帝国へさらわれてしまったら、後悔してもしきれない。」


ファルナードはフローラに。


「フォルダン公爵に守って貰えないだろうか?ミリオンがいないその日だけでいい。」


「解りましたわ。父は最強ですから。ミリオンより頼りになりますわ。」


にっこり笑ってフローラが言えばミリオンはハハハと笑って。


「フォルダン公爵は化け物だからな。ファルナードの事、その日だけは頼む。

よし。これで安心して、ディオンの役に立てるぞ。」


ディオン皇太子は嬉しそうに。


「ああ、お前がいると心強い。その日だけ、ミリオンを借りるぞ。ファルナード。」


ファルナードは頷く。


クロードが。


「ロッドやシルバの手を借りましょうか?俺、頼んでみますけど。皇太子殿下。」


「彼らには頼ってばかりいる。今回はこのメンバーでやりたい。」


「確かに。仮ばかり作る訳にもいかないですよね。」


フローラが慌てて。


「私は無理ですわ。ジュエル帝国の時は協力しましたけど、あまり役に立ちませんでしたし。」


「女性に協力を頼むわけにも。スーティリアは別だが。頼りにしている。」


スーティリアはウインクして。


「私の転移魔法は、ミリオンより上ですからーー。行ったことのない場所だってOKーってね。」


クロードが感心したように。


「スーティリアがいなかったら、今までだって、結構、大変だったんじゃないかな。一番頼りになる?もしかして。」


「もしかしなくても私は頼りになりまーす。」


ディオン皇太子は頷いて。


「ああ、お前がいなかったら苦労しただろうな。これからも頼むぞ。」


「はーーーい。」



皆とその日は解散して、改めてジュエル帝国の神殿に眠る死体の始まりの勇者を浚う事にした。どうなるのであろうか?


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