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まつとし聞かば  作者: 夏野
第一幕 少女、雪中花の如く
7/202

 翌日、朝。

 辰巳は久方ぶりに、陽の光を浴びた。


 ずっと家にもったままでは気が滅入るので、辰巳は雪が出かけている隙に、外へ出たのであった。

 見つかったところであの遠慮深い女は何も言わないだろうが、と内心思ってもいる。


 遠出をするつもりはなかった。

 また襲撃にあったとして、怪我をしている自分に太刀打たちうちできる自信がない。

 とりあえずは外の空気を吸いたかったのと、井戸の水を浴びたかった。


 井戸はどこかと視線を巡らす。

 長屋は二棟が南北に向かい合い、それぞれに四軒ある。雪の家は南側の長屋にあって、二棟の間の通路が行き止まりとなる一番東側にあった。

 家を出て右は板壁があり、それ以上先はなく、左を向けばちょうど二棟の真ん中ほどにある井戸の姿が見えた。


 時刻は昼過ぎ。水を浴びるにはちょうど良い時間帯だ。

 長屋にある井戸は長屋の住人しか使わない。だから辰巳が使えば、そもそも辰巳がいることは、住人に怪しまれることになる。

 誰かに見られる前に早く浴びてしまおうと手を急がせるが、運が悪かったようだ。


「ちょっと誰だい。見ない顔よ」


 辰巳に話しかけるには遠い距離、そこには三人の、おそらく長屋の住人であろう女たちがいた。

 二人は三十、四十くらいの歳で、一人は雪と同じくらいの少女だった。


 辰巳は気づいていないというように、井戸水を浴びる。

 狼狽(うろたえ)れば(かえ)って怪しまれると、静かにやり過ごすことにした。


「あたし見たよ。お雪さんの家から出てきたんだ」


 まずい。

 雪の家に得体の知れない男がいたという噂が広まれば、雪に迷惑がかかる。

 辰巳は自身の保身よりも、雪を案じた。


 軽率な行動をしたと悔いたところで、もう遅い。


 どうしようかと思案していると、信じられない言葉が聞こえてきた。


「またあの子の病気が始まったみたいだね」


「今度は家にも男を連れてくるようになったよ。ほんと、ろくでもない娘ね。まあ親が親だもの。あんたは雪みたいにならないようにね」


「わかってますよー」


 雪を小馬鹿にしたような少女の笑いが、耳にこびりついて離れなかった。

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