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まつとし聞かば  作者: 夏野
第五幕 草の縁
181/202

三十四

「ここか……」


 伊吹は今、御子柴道場の門前にいた。

 道場に入るより前に、道場の中の様子を見ようと、格子窓を探す。


 御子柴道場の師範代は辰巳であると、伊吹は雪から聞いているので知っていた。

 辰巳はもう覚えていないのかもしれないが、伊吹の方はといえば、辰巳のことをしっかり覚えていて、しかも二度もにらまれたことがあるから、大変苦手な存在なのである。

 正直、辰巳には会いたくないので、彼がいるのかを確かめたかったのだ。


(怖気づいてる場合じゃない。今度こそ、お雪ちゃんを助けてあげないと)


 伊吹が御子柴道場を訪れたのは、鈴彦という人物に用があったからである。


 雪のあらぬ噂を耳にして、噂の根源を探った伊吹は、鈴彦に辿(たど)り着いていたのだ。


「あんたもここに用?それとも入門希望者?」


 背後から問いかけられた声に、伊吹は思わずびくりとしてしまいそうだったのを、かろうじて(こら)えた。


「えっと、その、俺は……」


 伊吹は声をかけてきた男を見たことがあるような気がしたが、思い出せなかった。

 やましいことをしているわけではないものの、雪の一件は、他人には決して口外できることではないので、答えはしどろもどろになってしまう。


「あ、ちょうどいい。辰巳!入門希望者だって!」


 折よく道場から出てきた辰巳は、和泉の声に反応した。


「誰が入門希望者だって?」


「あれ……?」


 和泉が声をかけた男は、辰巳の姿を見るなり一目散にいなくなってしまった。


「まさかお前が入門したいとは言わないだろうな」


「俺は道場破りに来たんだ。手合わせを……」


「冗談言ってねぇで、さっさと用件を言え」


「まったく。相変わらずつれないなぁ……と、確かにそんなこと言っている暇はないか。お雪ちゃんの噂を流した人物がわかった」


 二人の顔は、引き締まった。


「ここの門下生の、鈴彦って奴だ」


「何で、あいつが……?」


「理由までは……何処(どこ)に行くの?」


「鈴彦のところに決まってるだろ」


 今日はまだ鈴彦は道場にいなかったので、辰巳は一路鈴彦の家へと向かったのである。


「鈴彦はお雪ちゃんの義弟(おとうと)だ……って、もういないか」

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