二十八
雪に似ている。特に目元がそっくりだ。
留五郎を初めて見た辰巳は、そう思った。
若い時分の留五郎は、今も面影はあるが、見目のいい男だったのかもしれないとも。
「私の、旦那様です」
雪が二度目に留五郎の家を訪ねたとき、旦那に会ってみたいと留五郎に言われ、今日は辰巳も留五郎の家に来たのであった。
辰巳は留五郎の刺すような視線に、身体が強張る。
表情こそ険しくはないが、値踏みされているような、疑われているような、まだ娘の旦那として受け入れるかどうかを思案しているようだった。
「恥ずかしながら、雪にはたくさん苦労をかけてきました。でも、そんな俺でも大切にしてくれる雪のことを、幸せにしてあげたいと努めています」
留五郎に取り繕って言っているわけではなく、それは辰巳の本心であると、雪はわかった。
雪は、辰巳が人に媚びるようなことは絶対にしないと知っているからだ。
だから、雪は素直にうれしかった。
大事にしてくれていることは、日々これでもかというほど伝わっていて、でも自分は辰巳に何ができているのかと、ふと思うときがある。
だが自分の想いも、辰巳に伝わっていたのだ。
この人が夫でよかったと、雪は心の底から感じた。
「よかったなぁ、雪……」
そして留五郎も、娘の幸福に安堵していた。
声と身体を震わせて、留五郎は泣いている。
「おとっつぁん、泣かないでよ……」
それは、自然と出た言葉だった。
留五郎と再会してからというもの、雪は留五郎をおとっつぁんとは呼べなかった。
今やっと、昔のように呼べたのだ。
何より、泣くほどに気にかけてくれていたことが雪にとっては予想外で、同時に切ない。
留五郎なりに昔の仕打ちを悔いているのかもしれないと、そう思えば、雪は留五郎に抱いていた戸惑いが消えていく感覚がした。
「いたい、いたいの?」
泣いている留五郎を心配した静介の声で、留五郎は笑顔になった。
「雪から、俺がどれだけ酷いことをしてきたか聞いているだろう」
雪が静介のことを厠に連れて行っている間に、留五郎は辰巳に聞いた。
辰巳もはい、とは言えないので、少しだけ気まずい。
「ろくな親の元で育ってないから……いや、俺は言えないけど、雪も子どもに辛く当たってるんじゃないかって心配したんだ」
母は事あるごとに雪を叱ったという。父は……辰巳は留五郎の前で、雪から聞いた昔のことを思い出すのはやめた。
「静介のことを見ていたら、雪がどんな育て方をしているかわかった」
ろくでもない両親だった。
雪はだから自分も、とはならず、むしろ決して両親のようには育てないという、固い意思を持っている。
「雪も俺も、静介には甘いくらいです」
いけないことをすれば叱りもするが、それ以外は甘やかして育てている。
特に辰巳は、静介を置いて出て行った負い目があるから、余計にであった。
雪はずっと、留五郎を待っていた。今は縁が戻った。
幸福の只中にあって、災いが訪れるなど予想もしなかった。




