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まつとし聞かば  作者: 夏野
第五幕 草の縁
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二十一

「こそこそしてないで、姿を見せたら?」


 和泉は弥勒(みろく)屋からの帰り道、つけられている気配を感じていた。

 しかも()ける人数ではなさそうだ。


 姿を現したのは、六人の男たち。


 闇夜に浮かぶ顔には見覚えがない。


 名も言わず、男たちは一斉に抜刀する。用件を言われずとも、和泉には彼らの目的がわかった。


 辰巳がかつて、過去の因果により襲われたように、今度は自分も襲われているということだ。


 剣客けんかく時代の恨みか、それとも用心棒をしているときに買ってしまった恨みか。


 どちらにせよ、和泉に逃げ道はなかった。

 前方に三人、後方に三人。完全に囲まれている。


(やばいかも……)


 襲い掛かってきた刃を受け止める。しかし背中はがら空きだった。


(お雪ちゃん……)


 最後に思い出すのは、想い人だった。

 彼女は振り向いてくれなかったのに、未練が脳裏に浮かぶ。


 もうすぐ、斬撃が押し寄せる。


 和泉が覚悟を決めたとき、影が背後に躍り出た。


 刀と刀がぶつかる甲高い音。痛みは訪れない。

 何者かが背後で、共に戦ってくれている。


 剣客をしていたときにも同じようなことがあったと、和泉はふっと笑った。


 頼もしい背中に、襲い来る男たちを蹴散らすことに成功した。


(まげ)姿、なかなか似合ってるじゃん」


「……うるせぇ」


 間に合ってよかったと、辰巳は安堵(あんど)の息を吐く。


 今日こそは和泉と話そうと弥勒屋を訪れた辰巳であったが、すれ違ってしまい後を追うと、和泉が不逞ふていやからに囲まれているところに出くわしたのだ。


 少しでも遅れていたら、または彼を追わなかったら、和泉は今ごろ無残な姿になっていたかもしれない。


「和泉、わ……」


「いいよ、謝らなくても」


 振り返った和泉は、彼に似合う穏やかで柔和な表情だった。


「今ので許してあげる。何となくだけど、辰巳がいなくなった理由もわかる気がするから」


「お前にも、俺がしてきたことをすべて話す」


「辰巳はすぐ酔いが回るから一日じゃ足りなさそうだ」


「ふん、俺の方が強い」


 和泉が許してくれたからといって、すぐに昔のようには戻れない。

 それは雪との関係も、同じことである。


 罪と向き合うことを、忘れてはいけないのだ。


「今度は相談してよ」


 一人で抱え込んだ辰巳は、訳を告げずに姿を消した。

 親友なのに何も言ってくれなかったことが、和泉が怒っていた理由の一つである。

 大半は、雪のことだが……


 雪と辰巳。二人の性格は似ていないようで似ている。

 だが二人は誰かに、(すが)る術を覚えたのだ。


「ああ。頼りにしてるぜ」

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