二十一
「こそこそしてないで、姿を見せたら?」
和泉は弥勒屋からの帰り道、つけられている気配を感じていた。
しかも撒ける人数ではなさそうだ。
姿を現したのは、六人の男たち。
闇夜に浮かぶ顔には見覚えがない。
名も言わず、男たちは一斉に抜刀する。用件を言われずとも、和泉には彼らの目的がわかった。
辰巳がかつて、過去の因果により襲われたように、今度は自分も襲われているということだ。
剣客時代の恨みか、それとも用心棒をしているときに買ってしまった恨みか。
どちらにせよ、和泉に逃げ道はなかった。
前方に三人、後方に三人。完全に囲まれている。
(やばいかも……)
襲い掛かってきた刃を受け止める。しかし背中はがら空きだった。
(お雪ちゃん……)
最後に思い出すのは、想い人だった。
彼女は振り向いてくれなかったのに、未練が脳裏に浮かぶ。
もうすぐ、斬撃が押し寄せる。
和泉が覚悟を決めたとき、影が背後に躍り出た。
刀と刀がぶつかる甲高い音。痛みは訪れない。
何者かが背後で、共に戦ってくれている。
剣客をしていたときにも同じようなことがあったと、和泉はふっと笑った。
頼もしい背中に、襲い来る男たちを蹴散らすことに成功した。
「髷姿、なかなか似合ってるじゃん」
「……うるせぇ」
間に合ってよかったと、辰巳は安堵の息を吐く。
今日こそは和泉と話そうと弥勒屋を訪れた辰巳であったが、すれ違ってしまい後を追うと、和泉が不逞の輩に囲まれているところに出くわしたのだ。
少しでも遅れていたら、または彼を追わなかったら、和泉は今ごろ無残な姿になっていたかもしれない。
「和泉、わ……」
「いいよ、謝らなくても」
振り返った和泉は、彼に似合う穏やかで柔和な表情だった。
「今ので許してあげる。何となくだけど、辰巳がいなくなった理由もわかる気がするから」
「お前にも、俺がしてきたことをすべて話す」
「辰巳はすぐ酔いが回るから一日じゃ足りなさそうだ」
「ふん、俺の方が強い」
和泉が許してくれたからといって、すぐに昔のようには戻れない。
それは雪との関係も、同じことである。
罪と向き合うことを、忘れてはいけないのだ。
「今度は相談してよ」
一人で抱え込んだ辰巳は、訳を告げずに姿を消した。
親友なのに何も言ってくれなかったことが、和泉が怒っていた理由の一つである。
大半は、雪のことだが……
雪と辰巳。二人の性格は似ていないようで似ている。
だが二人は誰かに、縋る術を覚えたのだ。
「ああ。頼りにしてるぜ」




