タイヤ
星新一さんが好きです。
それは特にメンテナンスというものは無く、異常がないか点検するくらいである。 不具合・異常が発見された場合は、新しい物と交換。快適かつ円滑な道は、それが正しく唯一の方法である事は周知の事実。
「お疲れ様です。」
少し汚れた仕事着で男は帰ってきた。
「お?意外と早かったな。」
迎え入れた男は無表情だ。
報告書のやりとりは馴れたもの。最早やっつけ仕事とも言える程。担当エリア外の仕事は本来引き継ぎが面倒であるが、今回はあっさり片付いた。近頃は良くも悪くもなんでもかんでも、永く使う事を美徳にするので、大概はリペア・経過観察・定期訪問など、過密なスケジュール調整こそが仕事と思えてしまう。本来は悪くなる前に交換し、効率的かつ効果的なリサイクルが理想なのだが。
「今回ぐらい分かり易いと、話が早くてたすかりますよ。」
仕事着の男は握った拳を顔の前でパッと開く。
「バーストで全交換。上も納得だ、此方もやり易いよ。」
無表情の男は少し口角が上がる。
「しかしまぁ、治せば使えるってのは分かるんですけどね。」
「擦り切れてボロボロになるまでが主流だからな。」
「昔みたいにマメに交換した方が良いと思うんですけどね。」
「だから皆、頭を抱えているんだろ。」
「やりづらくなりましたね。」
「死神なんて、いつの時代もやり易くは無いよ。」
そう言うと無表情の男は仕事の礼も兼ねて、仕事着の男を酒に誘う。誘われた方は満面の笑みで応える。
「流石は閻魔様!御馳走なります!」
「俺達も魂のメンテナンスはしないとな。」
➖おわり➖
説明不足な作品かもしれませんが、そこは皆様の想像力をお借りします。