第4部第1話[母]
いつからだろう、私がお母さんを愛せなくなったのは。
今までずっと一緒だった。
なのに、ある日を境にお母さんは夜、出かける様になった。
一人で過ごす夜はとても怖く、家が軋む度に私は体を震わせた。
それでも、帰ってきた時は抱きしめてくれるし、温かいご飯も用意してくれる。
だが、その生活もそんなに長くは続かなかった。
ある日、私が家に帰宅すると机の上にお寿司が置いてあった。
キッチンには冷めた味噌汁。
私は味噌汁を温めて、お寿司と一緒に食べる。
確かに美味しい。
だけど、とっても冷たかった。
温かそうに湯気が出ている味噌汁を前にして私は泣いた。
更に月日は流れ、机の上にはお金が置かれる様になった。
お釣りは自由に使ってもいい。
そうメモには書いてあったが、ちっとも嬉しくなかった。
帰ってきて私を抱きしめても、誕生日の日にお金を置いてくれても嬉しくない。
私はただ、お母さんとクリスマスを過ごしたり、誕生日の日に一緒にケーキを食べたりしたいだけなのに……。
どうして、お母さんはそんな当たり前の事をしてくれないのだろうか?
メモに書かれた愛してるの文字。
どのメモにも必ず愛してるの文字がある。
ああ、そうか……。
お母さんは私を愛していないのだ。
私を愛していたら、こんな事しないもの。
私はいつも一人。
この孤独の家でいつも一人なんだ……。




