最終話[正義]
きっと彼女は、あなたに救われたんじゃないかしら。
優衣を庇いながら戦うあなたに。
自分のして来た事は間違いだと気づき、そしてそれに気づかせてくれた、あなたに殺される。
だから、あの子はあなたにお礼を言った。
それらの話しを聞いたアリスは動揺し、悲鳴を上げた。
「どうしたの?」
「何故泣いてるの?」
取り乱すアリスを見て彼女の心が満たされていく。
「あなたは狂美を救ったのよ」
「苦しむ必要なんて無いじゃない」
「それに、憎んでいたんでしょ?」
「魔法少女の事を……」
真奈が殺され、華や可奈も殺された。
だからこそ、アリスは魔法少女を全て殺そうと考えた。
それなのに、この取り乱し様。
恐らくアリスは自分の悪を受け入れられないのね。
アリスを見下ろしながら、最後の魔法少女はそう考えていた。
(さて、そろそろ仕上げに取り掛からなくっちゃね)
深い穴の空いたアリスの心。
そこに悪の花の種を植え付ける。
「あなたは何も悪くないわ」
「だって狂美は凶悪な殺人犯よ」
アリスの顔を掴み、彼女が優しく語りかける。
「あなたの正義は間違っていないの」
「桃香や愛歌だって、自分にとって都合の悪い人間を大勢殺してきた」
「これからも殺され続けたと思う」
「あなたはソレを止めたのよ」
顔を上げるアリス、そんなアリスに彼女は優しい笑顔を送り、ナイフを握らせた。
「さあ、このナイフで私を刺しなさい」
「私という悪をあなたが終わらせるの」
彼女に言われるがまま、アリスはナイフで彼女の胸を突き刺した。
ただ、彼女にとって想定外だった事は、魔法少女を殺し、魔力を得た肉体はそう簡単に死ねない事だった。
(それならそれでいいわ)
(アリスの心に植えた悪の種、ちゃんと咲かせてから死んでやる)
アリスの頬に両手を添える。
彼女の血が頬につく中、彼女はアリスに向かって言葉を贈る。
「どうか信念を曲げず、正義を貫いて」
「この世界に住む、悪に苦しめられている人をあなたが救うの」
「あなたの正義を待っている人達をあなたが救うの」
アリスの頬に涙が伝い、赤く染まった手に落ちていく。
アリスの涙と彼女の血が混ざり、アリスは手に持っていたナイフを引き抜き、彼女の首筋に突き刺した。
何度も何度も、彼女が死ぬまでナイフを突き刺した。
そんなアリスを見て、彼女は幸せそうに笑う。
何故、笑っていられるのか。
アリスには彼女の気持ちが理解出来なかった……。
そして、アリスの心に植えられた悪の花の種が綺麗に咲く。
枯れる事の無い、悪の花が……。
数年後、アリスは世界を支配し、お城を建てた。
彼女が法であり、彼女が人々を裁く。
世界中から罪人がこのお城に集まり、アリスは寝る間も惜しんで裁きを下して行く。




