第3話[悪意]
「真奈、前も洗って差し上げますわ。」
真奈の背中に胸を押しつけ、両肩から抱きしめる様に腕を侍らせる。
「い、いいよ。」
「そこまでしなくても。」
真奈に逃げられアリスは残念そうな表情を浮かべた。
お風呂が終わり、パジャマに着替えると二人はベッドに横になり、これからについて話しを始める。
魔法少女の説得は勿論、困っている人が居ないかのパトロール。
後はゴミ拾いの日程。
それらを話し終え、真奈はウトウトしながら、ある言葉を口にした。
「今度家に泊まりに来てよ。」
「一人暮らしって意外と寂しくて…。」
寝息を立てながら眠りにつく真奈。
そんな真奈を他所に、アリスは一人興奮していた。
(合鍵案件ですわ。)
(一人暮らしで寂しい=私とずっと側に居たい。)
(ハッ、もしかして結婚も視野に入れての話しなのでは?)
そう思うと何だか、胸が締め付ける様に苦しい。
こんなにドキドキしたのは初めてだ。
側に居る真奈の顔を見つめ、真奈の唇を指でなぞる。
「あなたの事が愛おしい。」
「私を受け入れてくださったあなたの事が…」
妖精達はそんなアリスの行動に顔を赤くする。
(チューとかいう奴をやっちゃうの?)
(キャー、アリスったら大胆なのね。)
産まれて初めて見る生の人間達の接吻。
ツツは興奮し、目を血走らせた。
そんなツツを横に、真奈のパートナーの妖精は溜め息を吐いた。
(そろそろか。)
真奈のパートナーの妖精はその場から離れる。
それに気づいたツツが何処に行くのか尋ねた時だった。
豪快ないびきにツツは思わず耳を塞いだ。
アリスもツツ同様に耳を塞ぐ。
「何ですの、このいびき…。」
ふと、客室へ行きたがってた真奈の事を思い出す。
この事だったんですのね。
だから嫌われまいと…。
フフフ、上等ですわ。
いびきが何ですの。
どんな真奈でも、このアリス。
受け入れて差し上げますわ。
そう強く思いベッドに横になるアリス。
ああ、愛しの真奈のいびき。
まるでクラシック音楽を聴いているかの様ですわ。
そう、クラシック音楽を…。
ギリギリと歯軋りを始める真奈。
しばらく沈黙し、アリスは考えを改めた。
「そうですわ。」
「これは立派な音楽。」
「ロックとかいう奴ですわ。」
いびきは荒々しく叩くドラムの音。
歯軋りは胸に響くギターの音。
これらが合わさり、完成された最強のロック。
「そう、これは真奈が私の為に演奏している最強のロックですわ。」
「何処がロックなのよ。」
「超ド下手なボーカルが超ド下手なギターを演奏している感じの立派な騒音よ。」
そうアリスにツッコミを入れ、ツツは広い部屋の隅へ逃げて行った。




