第1話[規律]
私は言い返さずに下を向いた。
奈緒香が正論を述べ、何も言い返せないからでは無い。
言い返しても無駄だと理解しているから何も言い返さないのだ。
マナーを守って行動すれば、私も注意何てしない。
そもそも逆上して私に手をあげようとしなければ奈緒香やお父様だって何も行動せずに済んだはず、それをどうして皆んな分からない。
皆んながマナーやルールを守れば、こういう事にならないというのに…。
「私、先に帰りますわね。」
そう言って私は足早にその場から立ち去った。
正しい事をしているつもりなのに、皆んなから非難される。
誰からも理解されない孤独感。
それらがアリスの感情を揺さぶり、瞳から涙を滲ませた。
そんな時だった。
「大丈夫ですか?」
「良かったらハンカチ使います?」
見知らぬ同い年くらいの女性。
「いえ、大丈夫ですわ。」
「お気遣いありがとうございます。」
アリスはそう言うとハンカチを取り出して涙を拭う。
涙を拭って視界が良くなったアリスは真奈が持つゴミ袋に視点がいった。
「こんな時間にゴミ出しですの?」
ゴミ出しは朝方だと思っていたのですが…、こんな夕方からやっている所もあるのかしら?
まさか、不法投棄?
いや、そんな方が私の心配など、なさる訳がありませんわ。
一人で考え込むアリスに真奈は笑顔で答える。
「あっ、これ、一人ボランティアだよ。」
「一人…なんですって?」
「一人ボランティア。」
「一人でゴミ拾いとかしてるの。」
一人でゴミ拾い…。
何て事ですの。
私ったら一度でも不法投棄などと考えてしまって、本当に恥ずかしいですわ。
この方は一人で頑張っていらっしゃるというのに…。
でも…。
「どうして、そこまでするんですの?」
「あなた一人頑張った所で大勢の心無い人達がゴミを捨てる。」
「だったら、そこまでする必要なんて…。」
「あるよ。」
「大勢の人がゴミを捨てるのなら、私がその分拾えばいい。」
「そうする事で街が綺麗になり、色んな人が気持ちよく過ごせるようになる。」
「捨てる神あれば拾う神あるだよ。」
真っ直ぐ見つめ、堂々と言葉を返す真奈を見て、アリスが笑う。
「捨てる神って意味が違うんじゃなくって。」
お腹を抱え笑うアリス。
真奈の顔がどんどん赤くなる。
「えっ、そうなの?」
「うぅぅ、なんか恥ずかしいなぁ。」
真奈との会話で先程までの悲しい気持ちが消える。
そして、アリスはもっと真奈とお喋りがしたくて、真奈を公園に誘った。
自販機でお茶を二つ買い、真奈に一つ手渡すアリス。
「くれるの?」
「勿論ですわ。」
「えっと…。」
アリスは真奈に自己紹介をする。
真奈もアリスに自己紹介をして、お互い名前で呼び合う事にした。




