第1話[弱者]
誰かの声と共に、体が揺さぶられる。
目を開け、顔に制服の痕をつけながら私は顔を上げた。
「んっ、隣の席の…。」
「香恵だよ。」
「笹西香恵、移動教室だよ。」
「んっ?」
「ああ、私は矢守狂美だ。」
「そっか、移動教室か。」
私は眠気を我慢し、音楽の授業を受ける用意をして、酔っ払いの様にフラフラとした足取りで音楽室へ向かった。
「大丈夫、肩貸すよ。」
香恵に体を預け、私は何とか音楽室へと辿り着く。
これで寝れる。
そう思ったが…。
「だー、うるさくて寝れやしねぇ。」
そう叫ぶ私を見て、隣にいた香恵がクスクスと笑う。
音楽の授業で完全に目が覚めた私は真面目に授業を受ける事にした。
そして放課後、私の後ろを歩く香恵。
そんな香恵に私は振り返り、話しかけた。
「帰り道こっちなのか?」
「えっと、違うけど…、その…、一緒に帰りたくて…。」
予想外の答えに何だか恥ずかしくなり顔が赤くなる。
私と一緒に帰りたい?
そんな事、言われたの初めてだぞ…。
とりあえず私は香恵と一緒に帰る事にした。
一生懸命、話しかけてくれる彼女に、私は緊張しながらも答える。
何だか落ちつかない。
これが人付き合いとか言う奴なのか?
それでも、何だか悪くない気分だ。
この日を境に私は毎日学校へ通う様になった。
「狂美、行ってらっしゃい。」
「ああ、行ってきます。」
私が学校へ通う様になって、両親が何だか嬉しそうだ。
口では好きにしていい何て言ってたけど、何だかんだ心配していたのだろう。
二人を安心させてあげられたのも、香恵のおかげだ。
香恵と一緒だと、学校も楽しい。
私の生まれて初めて出来た友達。
休日、私達はファーストフード店の前に居た。
ハンバーガーが不味いハンバーガー店。
香恵がお昼は此処がいいと言うから来たが、正直、気は進まない。
香恵と同じメニューを注文し、食べてみる。
するとどうだろうか、前来たよりか遥かに美味しくなっていた。
(友達と一緒だから美味しく感じるのかな?)




