第7部第1話[可哀相]
早朝、私は飼っているハムスターを二匹捕まえ、大きめのゲージの中に捕まえた二匹のハムスターを放した。
そして二匹が交尾し始めたのを見計らい、私は飼っているトカゲを放した。
雄に食らいつき悲鳴をあげるハムスター、その隙に雌は逃げ、私はその雌を捕まえ元のゲージに戻してあげる。
ああ、上手く行った。
生き物は気まぐれだから、交尾中の雄だけを狙ったりしない時もある。
さっきだって、逃げる雌を襲い二匹を殺した後で一匹を食べて後は放置って事もよくある。
「思い通りに行くと気持ちがいいわ」
断末魔をあげ逃げようとするハムスターを見つめながら私は胸が締め付けられる様な苦しさを堪能する。
つい先程までは、子孫を残そうという本能に夢中だったハムスターも、今や死にたく無いと必死になって抵抗している。
だが、トカゲも腹を満たそうと咥えたハムスターを離そうとしない。
今、このゲージの中では死への恐怖と腹を満たそうという至福が入り混じっている。
そして、これらを作り出したのは私だ。
ハムスターが食われるのを見届けると私はトカゲを元のゲージに戻し、学校へ行く準備をする。
こんな事、学校の皆んなに話せば変な目で見られるでしょうね。
そんな事を考えながら歯を磨き、朝食を食べ、また歯を磨く。
よく子供の頃の出来事が人格を変えると言うけれど、私の場合は小さい頃に経験した野良猫の死だろう。
あの出来事が起こる前までは、私は死に対して何の感情も抱かなかった。
もっとも、小さな子供で身近に死を感じる物と言えば、せいぜい虫を殺す事くらいでしょうけど。
テレビドラマや映画、どれも人が死んだ場面が出て来たけれど何も感じない。
そんな中、私は一匹の野良猫と出会った。
特に何かした訳でも無い。
ただ道を歩いていただけ。
そんな私に驚き、猫は道路に飛び出して、そして……。
潰れた猫の死体を見て、私は生まれて初めて可哀相という感情を抱く。
胸が苦しくて、何処か心地良い。
私にもこんな感情があるんだ。
それから私は可哀相を追い求める様になった。
そして今に至る。
「おはよう朱音」
「おはよう」
「ねぇ、今話題の子犬の動画何だけどさ、朱音は見た?」
「うん、見たよ」
「めちゃ可愛いよね」
ああ、退屈だ。
周りに合わせる為に観たくも無い動画を観て時間を無駄にしたり、勉強や運動で時間を費やす何て本当に退屈で窮屈だ。
このクラスでは頭が良かったり、運動が出来ればチヤホヤされる。
安定した立ち位置が手に入るから努力しているが……。
もっと自由に生きたい。
(来年のクラス替えの事を考えると溜め息しか出ないわ)
勉強ができる奴がウザがられる教室なら、わざとテストの点を落とすし。
体育などに興味がない教室なら手を抜きヤル気の無い感じを出す。
結局、人は周りに合わせて生きていかなければならない。
そうなる様に仕組まれているんだわ。
本当に息が詰まりそう。