最終話[後悔]
いつもの様に漆と帰宅していた。
溢れる魔力、襲い来る殺人衝動、それらも漆を想うと簡単に制御できる。
やっぱり、愛の力って凄い。
ううん、違うわね。
漆が凄いんだ。
そんな漆と出会えて、そして側に居られて、私は世界一の幸せ者だろう。
そう思っていた……。
漆が私の前で刺し殺されるまでは……。
「やった、殺してやったわ」
「フフフ、ハハハハ」
ヤダッ、漆……。
死なないで、イヤッ、そんな……。
「真奈ちゃん、やったよ」
「華見てる?」
「クククク」
「真奈?」
「華?」
「誰よアンタ、一体何者なのよ……」
「どうして漆を殺したのよ」
彼女の笑顔が鼻につく。
彼女の笑い声が感に触る。
何なのよコイツ、一体誰なのよ。
「ヒヒヒヒ、復讐だよ」
「皆んなの復讐をしたの」
「ねえ、大切な人が殺されるってどんな気持ちか分かるぅ」
漆の血で赤く染まった彼女を見て、私の体は震えていた。
魔法少女の力を使えばこんな奴、楽に殺せる筈なのに……。
今では彼女の笑顔が怖い。
彼女の笑い声が怖くて堪らない。
やがて警察官が駆けつけて彼女は取り押さえられる。
私の前から彼女が居なくなっても、体の震えは治らなかった。
薄暗い部屋の中で私は毛布にうずくまり、体を震わせていた。
あれから学校にも仕事にも行っていない。
部屋の前に置かれた食事を摂り、涙を流す毎日を送っている。
どうしてこんなに怖いのだろうか。
この数日間、毎日考えてようやく答えが出た。
彼女が漆を殺したからだ。
漆を失ったあの時から、私は全てを失ったのだ。
私が積み上げて来た努力も何もかも彼女が奪い去って行った。
生きる希望も何も無い。
だけど死ぬ勇気も無い。
だって、何度刃物で体を傷つけても直ぐに再生しちゃうんだもの。
これ以上の痛み、耐えられないよ。
「呪いだ」
「コレはあの子達の呪いなんだ」
私にもっと苦しめと言ってるんだわ。
「ごめんなさい」
「後悔しているわ」
「だからもう許してよ」
「私を苦しめないで」
「何言ってるの?」
「それより、この部屋臭うわよ」
「あなたも……」
いつの間にか朱音が私の部屋に居た。
ご丁寧に靴は部屋の窓の外にある家の屋根の上に置いて。
そして朱音は漆を殺した少女について語り始めた。
彼女の名前はハル。
漆を殺した後、彼女は精神科に入れられたらしい。
そして今も病室で存在を消された魔法少女達と会話をしているらしい。