冒険者、ミミックを拾う
マシロの森の東には、スベリという名の町があった。
元々は何の取柄もない平凡な町であったが、ここから一人の勇者が輩出されたことで様相が一変。今では聖地として扱われ、わざわざ遠くからこの町に来る人々も多い。
とりわけ多いのは冒険者だ。勇者は魔王を倒した英雄というだけでなく、冒険者として多くの実績を残し、モンスター退治に関しては右に出る者はいないと言われている。
そのため冒険者は勇者に憧れ、誰もがこの町に訪れる。今ではマシロの森に近いこともあり、冒険の始まりの町として認知され、それに呼応するように町並みも発展して行った。
例えば、武器屋の店員に話しかけると、武器は装備しないと意味ないよ、と初心者向けのアドバイスなどがされる。売っているものも安価で、低コストで装備一式を揃えることができる。近辺の地図に至っては入口で無料の配布がされている。
さて、今ちょうどスベリの町に冒険者二人組が入ってきた。一人は赤くとがった髪型をした青年で、名をランドという。もう一人は角刈りで重装備に斧を携えた男で、名をハシルクという。
彼らはたった今近くのマシロの森から帰ってきたところで、その収穫として背中には、ずた袋を背負っている。
まだ陽は高いが、クエストが完了したので報告と報酬の受け取りをしようと考えていた。内容は単純な採集作業で、他の冒険者が大量に採ってくると、その時点でクエストは終了し、報酬はもらえなくなってしまう。だから、大抵の場合はこういう依頼を複数引き受けておき、ダンジョンと町の間を何度も往復しながら稼ぐのが基本となる。
もっともモンスター討伐依頼を受ける方が稼げるし評価も上がるのだが、実力の足りない彼らには無理な話。
大通りをまっすぐ進み、台座の前に来た。事故により壊れてしまったのだが、本来ならここに勇者の像が立てられていたのだ。そして冒険者はダンジョンから戻ると、ここでお辞儀をするのが一種の儀礼となっている。それに倣って二人もお辞儀をした。
それが終わると右手にあるギルドに入る。一階建ての木造建築物で横に広い。さすがスベリの町のギルドというだけあって、多くの冒険者が出入りしており、それぞれが情報の交換を行っている。
正面には複数の受付窓口がある。一番右奥の窓口に進むと、ずた袋を机に置く。
「依頼番号は、3、9、11だ」
「中身を確認させてもらいますね」
受付のギルド職員は、張り付いた笑顔で対応した。
袋の中身を作業台の上に取り出す。薬草や果実、毛皮など。種類は少なく質も悪そうだが、数だけはやたらと多い。とりあえず採れるだけ採ってきたという印象がある。
職員はそれを秤のような計測器に黙々と置いていく。それから表示された結果を見ると、手元の分厚い本と見比べて何かを確認していく。同じことを何度か繰り返す。
これはいわゆる査定作業で結果次第では報酬が増減する。この窓口にいる職員は特に甘い査定を行うので報酬が増加することが多い。
とはいえ、作業自体はわりと時間がかかり面倒だ。それにランド達にとってはもう飽きるほど見てきた光景である。
大あくびをしながら周りを見渡していると、後方のテーブルで仲間と話している先輩冒険者と目が合った。
挨拶すると、軽く手を上げて返してくれる。もともと気さくな先輩だが、今日はいつにもまして上機嫌だ。よく見ると手には白い球体が握られている。
「あれはキマイラの眼だな」
ハシルクが横から説明を入れる。キマイラといえば様々な獣の特徴を取り入れた合成獣で、強力なモンスターだと聞く。
それを討伐したのだとしたら、そりゃあ機嫌もよくなるだろう。ランド達はキマイラの討伐どころか見たことすらない。
彼らが見た中で一番のレアモンスターはミミック。マシロの森で宝箱に擬態していたところを偶然に発見しただけだ。正直なところかなりしょぼい。
それでもミミックを実際に討伐したという話はこのギルドでは聞いたことがないので、倒せていたら自慢できていたかもしれない。
レベル1でステータスの数値は全て一桁。木の上に逃げられてさえいなければ余裕で倒せていたはずだ。惜しいことをした。
「素材アイテムとは言っても、眼球にあの扱いはよくないな」
ハシルクは質が劣化して、売却するときに値が落ちると言いたいのだろう。
「アイテムボックスを使えばいいのにな」
そう言うと、ハシルクはアイテムボックスを出した。今はギルドの中だが扉は小さいし、出すときも無音無臭。光を発したりもしないので、特に迷惑はかからない。
ちょうど暑かったので装備を脱いで、ボックスの中に放り込んだ。
このボックスはランドとハシルクが二人で共同して使っているもの。ハシルクも同様に装備を脱いで放り込んだ。
「偉い学者はレアな素材をアイテムボックスに保管しているんだ。こんな品のない使い方はしない」
偉い学者は偉いからボックスも立派なのだ。このボックスの中にアイテムを入れても、保存状態は維持できない。重い荷物を突っ込んでおくぐらいしか使い道が思い浮かばない。
ようやく査定が終わったようで、職員が笑顔で声をかける。
「間違いありません。報酬をお渡ししますね」
職員は数枚の紙幣を差し出した。
「たったこれっぽっちかよ」
ランドは嘆いた。報酬は依頼書に書かれた成功報酬ぴったりの額であった。まあ、減るよりはマシだが、もう少し色を付けて欲しかった。
渋々と受け取ると、話を切り替えてギルド職員に質問する。
「この間の件はどうなった」
「申し訳ありません。そういったお話はお隣の相談窓口でお願いいたします」
「並んでんじゃねーか。俺は待つのが面倒臭いんだ。ここでさせてくれよ」
ランドの口調は随分と砕けていたが、それもそのはず。彼女は小さい頃からの知り合いで、いわゆる幼ななじみであった。
名はセーラという。しかし、職務中に名前を呼び捨てにしてきたら普通に怒る。
本当はこんな我儘も通したくはないが、どうせ聞きはしないので応じることにする。
セーラは深いため息を吐いた。
「わかったわ。そのかわりすぐに終わらせるからね」
書類を手に取ると、ランドに渡した。
捜索依頼書だった。ランドとハシルクはマシロの森で偶然にも倒れている子供を発見し、保護をした。今はその子供の身元を特定するために、ギルドの冒険者たちに関係者の捜索を依頼しようとしている、という状況であった。
「ダメね。この依頼書は受理できないわ」
きっぱりと言い切られた。ランドは納得いかないので、理由を求めた。
セーラは理由を言う前に、まずは読み上げてみた。
「名前はヨミ。年齢は推定十三。性別は女?出身地は不明。容姿の特徴は中肉中背。褐色の髪に、赤色の瞳。天使のようにかわいい、と依頼書には書いてあるわけだけど」
ランドはウンウンと相槌を打った。何の脚色もなく事実のみが書かれている。どこに落ち度があるのだろうか。
「この『天使のようにかわいい』って何?」
「言葉通りの意味だ」
「これはただの感想よね」
「感想じゃなく事実だ。なあ、ハシルク」
「いや、ランド違うぞ。たしかに間違いがある。これは酷い」
ハシルクがランドの意見を否定した。
なんだハシルクはちゃんと分かっているじゃないか、とセーラは思う。昔からバカのランドと比べて、ハシルクは冷静に物事を判断できるのだ。
「『天使のように』ではない。『天使』なんだ。ヨミは『天使であり、かわいい』。このように訂正すべきだ」
前言撤回。ハシルクもやはりバカだった。
「この出身地は不明っていうのは?」
「覚えていないんだってよ」
記憶に障害があるということだろうか。触れにくい話題なのでひとまず置いておく。
「じゃあ性別が女?っていうのは。ちゃんとたしかめて欲しいんだけど」
それを聞くと、二人はばつが悪そうに黙り込んだ。
「……バカ野郎。力づくでたしかめたら、犯罪になるだろうが」
なんか変なことを言い出した。バカ野郎はおまえだ。
「聞けばいいでしょ。口があるんだから」
「『おまえは女なのか?』って聞くのかよ。無理だ。俺にはできねぇ」
ランドは顔に似合わず度胸のない男であった。
「私が見ようか」
聞けば、その子供は男二人と同じ借家に住んでおり、昼間でも部屋の中にずっとひきこもっているそうだ。そして、男二人は体が大きく、顔がいかつい。
それらを加味すれば、単純に打ち明けることを怖がって、返答をはぐらかしているだけのように思えるのだ。
事情を聞いてあげるなら、女性の方がいくらかは話しやすいはず。
だが、ランドもハシルクもその申し出を断った。しかも、ふざけてる感じがない。むしろ今までも数えるほどしか見たことないような真剣な面持ちで言うのだ。俺たちに任せてくれと。
「けど、この捜索依頼書は使えないわよ」
掲示板に貼り出すので、多くの冒険者が見ることになるものだ。こんな未詳細な部分が多い文書など使うことはできない。
だいたい捜索依頼で誰を探す予定なのだろうか。親でも探す予定なのか。仮にそうだとしたら、本人にちゃんと了承は取ったのか。本人の預かり知らぬところで捜索などしたら、それは却って迷惑になるのではないか。
そもそもあなたたちは依頼の成功報酬を払えるのか。資金の当てはあるのか。
といったようなことをバカにでも分かるように、順を追って説明した。
「何も言い返せねぇ」
二人は閉口した。ここまで考えてはいなかったようだ。
とはいえ、ヨミという子をずっとランド達の借家に住まわせるのはかわいそうな気もする。男二人に囲まれていたら、何があるか分からないし。
まあ、過去にこういう例がなかったわけでもないが。ランド達とも古い付き合いだ。彼らが節度を弁えた行動をすることもよく知っている。
否定するばかりなのも悪いので、セーラも代案を用意した。
「これを使って」
片面が白い薄い板に、筆が付属されている。
「ニガオエールか」
ハシルクがすぐに反応した。彼の言う通り、これはニガオエール。自動で似顔絵を描いてくれるマジックアイテムである。
「これでその子の似顔絵を描いてきて。私が照会するから」
ギルドに登録するとき、冒険者はみんなこのアイテムを使って似顔絵を描いている。その似顔絵はデータファイルとして各ギルドに保管されている。ギルド職員はこのファイルを自由に閲覧できるため、簡単に照会を行えるのだ。
これのおかげで冒険者絡みの事件が減ったとも言われている。
ヨミはダンジョンの中で発見されたので、冒険者または冒険者に関係する人物である可能性が高いはずだ。
「分かった。使ってみよう」
ハシルクがアイテムを受け取る。
要件は済んだので、二人は席を立つことにする。
「何かあったら相談してね」
去り際にセーラが言った。
正直なところ、ヨミを拾ったときすぐに相談に来てくれなかったのは、彼女にとってショックだった。口に出しては言わないが、もっと自分に頼って欲しかったのだ。
「じゃあ、金を貸してくれ」
ランドが小さい声で言った。わりとひっ迫している様子だ。
セーラは溜息を吐く。この返しは予想していた。
「まずくなったら言って。私がなんとかするから」
それを聞くと、ランドが右手を出してきた。セーラはその手を思いっきり叩き落とす。
「まずくなったらよ」
しっかりと念を押した。
* * *
日暮れ時。活気のあったスベリの町もずいぶんと静かになってきた。
ランドとハシルクも今日の分のクエストは全て終了したので、家に帰ることにする。
手にはパンの入った紙袋を背負っている。この時間に行くと、売れ残ったパンを安い値段で譲ってくれるのだ。さらに、無料でパンの耳を大量にくれる。それから、野菜も買っている。こちらも同じ理由で安く手に入るのだ。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……うーん」
ハシルクが今日の間にクエストで得た報酬を確認する。すでに何度かやったが、枚数が変わるわけではない。ここから冒険にかかる資金を引くと、手元にはほとんど残らない。
「まずい。まずいぞ」
ハシルクが頭を抱える。わりと困っているのに、セーラは金を貸してくれなかった。
まあ当然だ。きついなら家から出て行けばいい。この町での借家の賃金は高い方なので、借家を手放してしまえば生活費の問題はなくなる。だが、この町を拠点にしたいと考えているランド達にこの選択肢はなかった。
「あんまり困っているような素振りするんじゃねーぞ」
ランドが忠告する。
「ヨミが心配しちまうからな」
「ああ。わかってる」
二人が住んでいる借家についた。青い屋根、扉と窓が一つの簡素な造り。
「ただいま」
中に入ると部屋が片付いていた。もともと不要なものはアイテムボックスに放り込んでいるので部屋に物はないのだが、それでも散らかってはいた。
今日は綺麗に整頓され、被っていた埃なども払われている。
「おかえりなさい」
朗らかな笑顔でヨミが応じる。褐色の長い髪に、赤い瞳。薄手のシャツに黒いズボンを履き、エプロンを首からかけている。
手にははたきを持っている。今まで掃除していたのだろう。
「おい。何やっているんだ」
「すみません。何か間違いがありましたか? 二人だけの特別な掃除の仕方があるとか」
「そうじゃねーよ。横になってなきゃダメだろ」
「でも、掃除を」
「掃除なんか俺たちがするからいいんだよ」
してなかったから汚れていたわけだが、言いたかったのはそこではない。
「すみません」
はっとして、ランドが黙る。
ヨミの目が潤んでいるのだ。少し言い方がきつかっただろうか。
「泣かしたな。ランド。おまえは最低な奴だ」
ハシルクが茶化すように言う。
「違う。俺はただ……」
過保護になっているかもしれない。しかし、それも仕方のないことだった。
今でこそ普通に会話できているが、ここまで来るのにかなり苦労したのだ。
三ヶ月ほど前、マシロの森を探索していたランド達は、倒れているヨミを発見した。体中が刺し傷と打ち身だらけ。衰弱しやせ細っており、ほとんど虫の息だった。
ハシルクは急いで家まで連れて行き、ランドはギルドに向かった。二人共治癒魔法を使えなかったので、回復の得意な冒険者を探そうと考えていたのだ。
その日は運が良かった。どこぞの金持ちがダンジョンに潜るというので、雇われ僧侶が念のために町で待機していたというのだ。
事情を説明すると、僧侶は心よく協力してくれた。他にも仲間を連れて来て数人がかりでヨミの治療に当たった。
回復の腕が驚くほど優秀だったおかげで、傷は残らなかった。
その数日後にヨミは意識を取り戻した。
ランド達は喜んだ。だが、ヨミは逆で彼らの姿を見た途端、顔から血の気が引いた。
そして暴れ出したのだ。なんとか取り押さえると今度は泣きじゃくり、それが終わると一言も口を聞かずに窓の外を見ているようになった。
名前を教えてくれるようになったのは、ほんの一ヶ月ほど前。それまではどう扱えばいいのか分からず、二人で右往左往していた。
理由は聞けないが、よほど酷い目に遭ったのだろう。相手は冒険者なのかもしれない。
だから、ヨミの前では極力冒険者らしいところを見せないようにしている。冒険者に関係あるものは家に持ち込まないし、冒険の話題もヨミの前では基本的にしない。
「俺が飯を作ろう。これはおまえに渡しておくぞ」
先ほどセーラから貸し出されたアイテム『ニガオエール』。ハシルクはそれをランドに手渡すと、キッチンに向かった。
「あいつ。逃げやがったな」
面倒なことはいつも押し付けられているような気がする。
「ヨミ。ちょっとこっちに来てくれ」
ヨミに『ニガオエール』のことについて説明し、やってもらえるよう頼んだ。
「ここに座っているだけでいいんでしょうか?」
「ああ。そうだ。そこでいい」
ベッドの上に座ってもらった。ちなみにこの部屋のベッドは二段で、ランドが上段をハシルクが下段を使っていた。ヨミが来てからはベッドを一つ明け渡し、どちらかが交代で床に寝ていた。ヨミは窓の外が見たいらしいのでいつも下段を使っている。
「これ。どう使うんだ」
ギルドの職員に描いてもらったことはあるが、自分ではどうやって動かすのかも分からない。
「間に紙を挟むんだ」
ハシルクがキッチンに立ったまま説明を入れる。
板は二重になっており、その間に紙を挟めるようになっている。
「そしたら後は、ボタンを押すだけだ」
言われた通りにすると、『ニガオエール』が起動した。付属していた筆が動き出し、板の上に絵を描いていく。
原理はさっぱり不明だが、アイテムというのは便利なものだ。どこのギルドにもあるような量産品でもこれだけの効果を発揮するのだ。全て集めたら世界征服もできるんじゃないのか、とくだらないことを考えてしまう。
ヨミがまばたきもせずにじっとしているので不安になったが、似顔絵は一分程度で描き終わった。
どれどれと言いながらランドが絵を見てみる。濃淡や明暗を使い分けた絶妙な色合い。過剰なところも不足なところも見受けられない。いわゆる写実的という奴で、その人物が正確に描かれている。
「どうでしょうか?」
ヨミが聞いてくる。その顔を改めてみると、本当に綺麗だと思う。
この町は他所から人が来ることも多いし、その中には綺麗な人もいる。女性に免疫がないというわけでもない。
ヨミはそうした美人とは異質というか、浮世離れした印象を受ける。肌はキメ細かく透き通っているし、髪質もつややか。傷があったのが嘘のように完成されている。
しかし、作り物と呼べるほど無機質でもない。
人間らしさをできるだけ追求した人形。製作者は神様。こういうイメージ。
捜索依頼に天使のようだと書いた。
二人とも冗談のつもりだったが、あながち間違いとは言えない。
お世辞を抜きに、いつまでも見ていられるような不思議な魅力を備えた顔なのだ。
「どこかおかしかったですか?」
そう言って、自分の顔をべたべたと触っている。
「よく描けてると思っただけだ。ほら、おまえも見てみろよ」
渡してみると、ヨミは似顔絵をまじまじと見た。
「……ボク、人間みたい」
一言目に出てきた感想がこれだった。
まったく変なことを言うものだ。ヨミはどこから見ても人間だ。それ以外のなんだと言うのだろう。
「飯ができたぞ」
ハシルクの準備が出来たので、みんなで食事をとる。
パンとスープ。パンは買って来たものそのままで、スープは野菜を突っ込んだだけのシンプルなもの。毎日のメニューがこんなものだ。せめて肉があればいいのだが、干し肉は高い。仕方がない。
「ぱくぱく。おいひいです」
ヨミの欠点を一つだけ挙げるとすれば、この汚い食べ方だろう。
とはいえ、スプーンを使っている分だけマシにはなっている。ちょっと前まで犬みたいに口だけで食べていたのだ。
「そういえば、ヨミ。欲しいものはないか」
前々から言おうと思っていたことを尋ねてみた。
「ランド。それは前にも聞いたぞ」
ハシルクが言うように前にも聞いた。
しかし、ヨミはちゃんと答えなかった。食事も与えられたものを食べているだけ。男二人に文句や小言も言ってこない。外に出たいとも言わない。
今後のためにもぜひとも聞いておきたい。
「あの、では……」
「おう。あるのか」
「本、が欲しいです」
本か。ヨミが読書をしたいというタイプだとは思っていなかった。
買おうと思えば高すぎて無理だが、スベリの町には図書館がある。
「よし。任せとけ。明日には用意するからな」
というわけで、翌日ランドは図書館に向かうことになったのだった。