番外編:ご飯を食べよう
「うわっ蜘蛛の巣!」
「だからお嬢様は休んでいてください!」
「何言ってるの、2人じゃ何も進まないじゃない」
私、メアリ、リリーの3人は出来る所から、まずは入り口と広間までの廊下を今日中に綺麗にすると決めた。選んだ理由は、絶対通る部分で、かつ動かすものも少なくて済みそうだから。
リリーが「まずは上からやって行きましょう」と指示をしてくれたので、壁に着いた燭台の煤を払うことから始めている。台に乗ってはたきがけをしたり、布で拭いたり、それからブラシのようなものでカーペットを梳かして・・・。
これは3人、しかも女2人と子ども1人では地獄のようだ。
ようやく一区切り着いた所で、トムが戻って来た。
「スチュワードさんは少しかかるそうだけど、アンナさんは明日にも来るってさ!」
トムはそう言って帽子を脱いだ。そして天井を向いて一言。
「ーー凄い明るくなったじゃん!」
その感想でこれまでの苦労が救われた気持ちになる。
「トム、アンナさんすぐ来れるって言うけど、どこにいらっしゃるの」
「この近所の自宅で暇してたらしいよ」
「お嬢様〜、メアリさ〜ん。ーーあ、トムも帰ってた〜。御夕食の準備ができたので、そろそろ大広間にお越し下さい〜」
少し前に食事の準備をすると言って台所に行っていたリリーからそう呼びかけられる。
「お嬢様、まずはシャワーとお召し替えをして下さい。私達は夕食の準備を致しますので」
「そうね。でも自分でやるからメアリは自分のシャワーと着替えをして、大広間に行けば良いんでしょう?トムも手を洗ってから来てね」
私のその言葉に二人は顔を見合わせていた。
「お嬢様、まさかとは思いますが『皆で』食べるとお思いですか」
「違うの!?」
「何処の世界に主人と一緒に食事をとる使用人がおりますか!」
メアリの叫び声が館に響くが、そこは譲らない。
「だって皆で食べた方が美味しいじゃない」
しょぼんとしてそう言うと、メアリは言葉をつまらせている。その姿をみてチャンスだと思い付け加えた。
「独りで食べるのは寂しいし・・・」
そう言うと、メアリは大きくため息をついた。そしてその姿を見ていたトムが「いいじゃん。お嬢様のご希望なんだから」とあっけらかんと言って皆で食事をする事となった。
そうと決まって、では30分後に大広間に集まる事となった。しかし私のお風呂は1人ではダメだと言われ、少し部屋で待たされた後、私は浴室に連れて行かれた。
お風呂くらい1人で入れると思うけど、貴族って面倒だ。
お湯を貼った浴槽に浸かり、じゃぶじゃぶと洗われていく。
目に入らないように丁寧に洗われて、とても気持ちがいいと上機嫌の中、浴室に蛇口とシャワーがあるのが目に入った。
そう言えば、王宮には蛇口もシャワーもあって(王宮の侍女さん達に洗われながら)普通に入浴していたが、今日お風呂に入る際にはメアリがお湯の準備をし、こうして洗ってくれている。多分、今頭に乗っている泡は、横に置かれている水差しを使って泡を流されるのだろう。
この家にはシャワーがないのかと思っていたが、あるじゃん。
「ねえ、メアリ。何故シャワーを使わないの?」
すぐさま聞いてみると、メアリは変な顔をした。
ただの飾りか、はたまた壊れているのだろうか。
「あれは使いものにならないんです。お嬢様触っちゃダメですよ」
「えー?だって使った方がメアリも楽じゃない」
止めるのを聞かず、浴槽から飛び出て裸のままでそこまで行って蛇口を捻ると・・・・
「キャーーーっ!!!」
弱々しい水量の濁った水と、そして虫が出て来たのである。
「だから触っちゃいけないと言ったじゃないですか!!」
「むっ虫がぁぁ」
私はげっそりとした顔で夕食の席に着き、リリーとトムが気まずそうにしている中で美味しいスープと黒いパンを食べた。
味は問題なかったが、無駄に細かい部分を歴史に忠実に作っているゲーム制作会社を呪いつつ、この家の上下水道の修繕を庭よりも先にする事を考えていた。