6歳って未就学児だよ
「つまり、モーリー夫人っていうのは私のおばあさまなのね」
メアリ達に話を聞き、そうまとめた。
「ええ、お父上ーー侯爵のご母堂です。派手好きでご夫妻亡き後、侯爵様の財産をほとんど持って行ってしまいました。本当はお嬢様の物ですのに・・・」
メアリが悔しげに歯を食いしばる。
ロザムンドは子どもで、しかも病弱、執事を中心とした古参も辞めさせられてしまい、なす術がなかったのだろう。
家の中を見て私はため息をついた。
「にしても、この2ヶ月で随分お嬢様はかわっちゃいまして」
「お元気になられたってのもございますが」
「「「あのばぁさんを追い出しちゃうなんて!」」」
トム、リリー、ベンの3人は声を揃えていた。
そうかもね。だって中身別人だし、とは言わない方が良いだろう。私はリリーが用意してくれた紅茶を飲んだ・・・美味しいけど、薄い。
初日のご飯はおいしかったけど、あれは卵とベーコンくらいだから準備出来ていた訳か。
これは問題が多い。
まず、今の私には保護者が居ない。後見人は伯母さまなのかモーリー夫人なのかどのどちらかが居るだろうが、実質的に一緒に住んでくれている人はいない。
次に家の状態。お金がないのもそうだけど、家の管理をしてくれる人達も居ない。
3つ目として、この家の経済状況。財産の問題もあるようだ。
4つ目にモーリー夫人への対応。今日は私の変わり様もあり帰ってくれたが、次があるのは間違いない。
最後に私の年齢、子どもでこれらを立て直すというのは無理だろう。この世界の状況も分からない上に、6歳児が表に立てるか?と言われれば無理だ。
頭が痛くなってきた・・・これは王宮で幽閉ルートを歩んだ方が考える事は少なかったかもしれない。
でもここで諦める訳にはいかない。この世界を楽しんでやるんだ。
「メアリ、スチュワードさん達を呼び戻す事はできないかしら」
「スチュワードさんとアンナさんですか。もう大分経ちますからね・・・」
「俺居場所知ってるよ!」
満面の笑みでトムは手を挙げた。
「じゃあトムは2人に連絡を取って下さい」
「了解、お嬢様」
「ベンは伯母さま、グーピュル夫人のところへ状況を伝えてもらえる?」
「俺で良いのかい?メアリとかの方が良いんじゃないか?」
「伯母さまは身分で差別はされないし、グーピュル商会だったら貴方の方が慣れてるんじゃないの?」
「確かに、商会には前の仕事やらで知り合いは多いな。・・・そうか」
「そう、察しが良いわね」
「お嬢様、本当に子どもなのか?」
ベンは企んだように笑う私を見て、ニヤりとした。
そのやり取りの中、リリーがおずおずと声をだす。
「あのぅ、私はどうしたら良いですか?新参者ですし、お掃除も行き届かないですし、クビですか」
「リリー、お嬢様はそんな事をなさいませんよ。第一、今人手が足りない状況なのに、私1人でどうしろって言うんですか。そうでなくとも1週間で王子がここに来て良いようにしなきゃならないんですよ」
メアリの言葉にビクッとなる。そうだ、ギルが週1回来るんだ・・・。
おばあさんとか、家のあまりのボロさに記憶から抹消してた。
「お、王子さまですかぁ〜〜!?この家に?」
リリーは周囲を見回して焦り始めた。
「カーペットはオンボロですし、カーテンもボロボロですし、と言いますか、独りでは手が回らなくてこの部屋とお嬢様のお部屋くらいしか普段お掃除出来ていません」
「この広さじゃ仕方がないわ。カーペット含め調度品とか諸々は伯母さまに相談してみましょう。ベン、商会に行く時にその件も伝えておいて」
「俺は貴族のセンスなんぞ分からないが」
「多分伯母さまが選んでくれると思うわ」
伯母さま頼みが何処まできくか分からないけど、困ってる事をアピールしておいて損はないだろう。
保護者問題も伯母さまとスチュワードさん達が来てくれてからではないと決められないので、まずは出来る事ーー掃除から始めよう。
「お嬢様、俺の知り合いの庭師や花屋に声をかけても良い?」
トムがそう言うので「タダでやってくれるのなら是非」と伝えておいた。