ホーンテッドマンションってやつだな
自分のバカを強調したり、ギルに泣かれたり、色々したけどなんとか家に帰って来た。
『御見送り』と称してギル含め王子達も家まで送ると言われたが、メアリがマシューさんを通じて丁重にお断りをしていた。同行拒否は私への気遣いかと思っていたが、違ったようで、地味目な馬車で家の門に着いた時に理由が分かった。
ボロい。大きいけど、かなりうっそうとしている。
初日はバタバタと送り出されたから見る暇もなく、問題視していなかったけど、壁には一面ツタが張り付いてしまっているし、門は錆で動かすたびに悲鳴のような音を立てている。庭は見える所はなんとかしているけども少し中に入ると雑草が茂っている。
外だけではなく中もお察しで、廊下の絨毯はすり減ってテカテカと妙に光ってしまっているし、なんと言うか薄暗いし、置かれている調度品や家具は統一性がない妙に派手でケバかった。
これは気が滅入る場所だ。
「御帰りなさいませ」
唯一の家人の帰宅に使用人さん達が総出でーー3人しかいないーー挨拶に出て来た。
この広さに3人は少なすぎるだろう。それぞれ、下男のトム君に屋敷メイドのリリーちゃん、臨時雇いのベンさんである。人懐っこそうな感じはするが全員とても若い。
「おおぅ・・・」
「お分かりいただけましたか」
明かりの少ない空間の中で言葉を選んでいるとメアリが頭を抱えてそう言った。
「メアリ、普通のイメージだと執事さんとかハウスキーパーとかいるかと思うんだけど・・・貴方がそれなの」
「とんでもない!私はただのお嬢様付きです。執事のスチュワードさんも家政婦長のアンナさんも旦那様達が御亡くなりになって辞めさせられてしまったのです」
「辞めさせられたーー?」
とそこへ派手に着飾った、胸元を大きく開けたおばあさんが立っていた。
「相変わらず辛気くさい顔をしてるね」
忌々しそうに私の顔をみて、おばあさんはそう言った。
この世界に来て初めて、真っ向からの罵声だ。なにこのおばあさん。伯母さまには似ていないが、親戚かしら。
黙っているとおばあさんは苛立ったように声をだした。
「挨拶はどうしたんだい。本当、あの暗い嫁にそっくりだね、お前は。ーーふん、今日はあの派手で高慢チキな女は一緒じゃないんだね」
「高慢チキ?どなたの事でしょうか」
「グーピュルの狐だよ!」
伯母さまのことか・・・おばさまは派手じゃない。華やかな容姿だけども、服装は華美ではない。むしろ派手なのはあなたでしょう。
「モーリー夫人、お嬢様に対してあんまりなお言葉です」
「召使い風情が口をだすんじゃないよ!まったく、この家は陰気くさいだけじゃなくて使用人の教育もできていないんだね。ここに来て2ヶ月間、行き届かない事ばかりだよ。ああ、忌々しい!!」
おばあさんはそう叫ぶと、杖を床に何度も叩き付ける。その仕草に昔のパワハラ上司を彷彿させられた。上司も怒ると机をバンバン叩いて怒鳴っていたなぁ。
ーーって2ヶ月?このおばあさん、私たちが出て行ってからここに来て、それからずっと居る訳?
ずっと一緒にいたのならさすがに初日に顔を合わせているだろうし、なんでそんな居ない間に入り込もうとしてる訳?
そう不思議になり、私は知っている限り丁寧な口調で質問をしようと思った。名前はさっきメアリはモーリー夫人って言ってたよね。
「ごきげんよう、モーリー夫人。不在にしており申し訳ございません。何か御用があってお待ちいただいていたのでしょうか」
スカートの両端を持ってゆっくりとお辞儀をすれば、後ろでベンが吹き出し、リリーが小声で窘めていた。
「ちょっと」
「いやだって、御用とかないしな」
「そうそう、勝手に来て、居座って、変な家具買いまくって、散財してるだけじゃん」
「俺たちに無理言って使いっ走りさせてな」
ほほう。有益な情報をありがとう、君らナイス。
3人の話を聞いて。このおばあさんは身内なのかもしれないが、勝手に来ていることが分かる。
振り返って3人に、にこっと微笑んでみせてから、おばあさんへ向き直る。
「御用がないのでしたらここはシャポー家の館です。留守を預かっていただいた中恐縮ですが、そろそろお暇いただきませんと。メアリ、モーリー夫人のお荷物をお家へ送って差し上げて」
「かしこまりました」
「何を勝手な事を!子どもの癖に目上の人間に対する口の聞き方が〜〜」
おばあさんは私の台詞に癇癪を起こした。
「辛気くさいお顔を御見せするのも悪いですし、陰気な家に居ていただくのも申し訳ないので、ご自分の御宅へ御帰りください。それにこの後は、グーピュル夫人がいらっしゃるのです」
お会いしたくはないんでしょう?と、予定もないのに出任せを続けると、予想した通りおばあさんは私が乗って来た馬車に乗って帰って行った。
我ながら子どもらしくない行動だったと思う。が、メアリ含めて褒めてくれたので、このおばあさんに対する応対は問題がなかったようだ。
それにしてもあのおばあさんはロザムンドの何なのだ?
到着早々、思っていたよりもシャポーの家は問題がある事が分かり、メアリ含め4人に話を聞く事にしたのである。
誤字のご指摘ありがとうございました。