能力バロメーター、仕事しろ
「私に文字を教えて下さいませんか」
午後、アルバートは予告通り3兄弟で私の部屋にやって来た。
急に皆で会うこととなったことにギルは不満そうであったけど、アルバートから皆で遊んだ方が楽しいと教えられ渋々承知したようだった。
兄らしくアルバートが「さて何をしようかと」言った所で、私が今の提案をしてみた。
「文字を?」
アルバートが不思議そうに言う。
当然だ。普通の貴族はこのくらいの年齢であれば家庭教師がついているので、文字くらい書けるはずだ。きっとここにいるのがロザムンド本人だったなら読み書きが出来るだろう。
ただ、「私」はできない。ルート回避の為にも読み書きは出来ておくべきと思う。
「はい、恥ずかしいお話ですが、私は事情があってまだきちんとしたお勉強をしていないんです」
ロバートはその言葉を聞いて先ほどの何かを思い出し、口を開こうとしているのでしーっと口元で合図した。
ギルは『事情』という言葉に何か察したようで、ハッとした顔をして私の顔を見ていた。きっと私の家庭事情のせいと思ってくれたのだろう。優しい子だ。
「ロス、教えます。文字。それで、一緒に本読みましょう」
「そっかー。なら図書館に行こうか!」
「そうだね」
兄達二人の言葉にギルも同意の様で、私の手を引っ張っていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
2時間程3人からこの国のアルファベットを教えてもらい、大きな事実を、抗いようもない真実を思い出し、私は机に突っ伏した。
完っ全に忘れてた・・・・・・。
「大丈夫ですか」
「ありがとうございます、ギル」
「疲れ、ましたか?休みますか?」
心配そうに覗き込むギルに「大丈夫」と伝える。
いやね、私、中高の英語全く出来なかったんだった。偏差値28って脅威の数字を叩き出した事があるのが自慢。あれ〜ロザムンドって知力は高いはずじゃなかったっけ〜。
能力バロメーターって反映されないもんなのか。
バロメーターという単語を思い出し、ふと3人のキャラクター設定を思い浮かべる。
アルバートはメインキャラらしくオールラウンダーというか、知力体力政治力資金諸々全て、平均より上。
ロバートは体力は少し下がるが知力はアルバートより高く、政治力に関しては相手によって得手不得手が出てくる。資金はアルバートとほとんど一緒。
ギルは・・・攻略キャラクターじゃないからバロメーターはなかったな。キャラクター紹介ではなんでもそつなくこなす設定だ。
「そういえば、ギルは1ヶ月なのに随分言葉の上達が早いですね」
私は1ヶ月経ってもこの文字を取得出来る気がしない。全部で30文字なのに何この難易度。
ロザムンドがやってたように本を持っているポーズとか一生できない、したくない。
「そうでしょうか?」
「ギルは話さないだけで、読めてたし書けてたから頭の中では文章を作ってたんじゃない?」
「今なんて僕らと同じような問題解いてるから、凄いよね」
なるほど、子どもなのにわかり易い状況説明をありがとう。さては君たち頭良いな。
知力バロメーターが高い兄達と同じ問題が出来ているなら、きっとバロメーターも高いのだろう。
「羨ましいです、私も頑張りますね!」
本心からの返事をして、またしばらく机に向かった。
それから1時間程、一緒に本を読んだり、お茶をしたりして特に大きな問題もなく4人の交流を終えられたと思う。
「私、気長にやっていくことにいたします。王子樣方、本日はありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げて微笑んでみせる。
これは『もう皆で遊ぶのはおしまい』というつもりだった。
フラグ達と親交を深めてもよくないし、これから『読み書き』という新たなる敵への対策を練らなくちゃならない。部屋に戻ってメアリに相談して、この世界のことを学ぶようにしなきゃ。
私がお辞儀をすると、ギルはこちらへ走って来て一緒に部屋に行くと言った。
勝手に皆で遊ぶことにしてしまったこともあり、断るのもなんなので手をつないで部屋に戻ろうとすると後ろから声がした。
「ロス、君も今度から一緒に勉強をすればいい。先生には僕らから伝えておく!」
「僕達から習うよりもわかり易いから良いと思うよ」
恐ろしいその提案に足が止まった。攻略対象と一緒に、毎日勉強だと?そんな恐ろしいこと無理に決まってるじゃない!
私は聞こえないフリをしてギルに連れられ自室へ帰った。
誤字のご指摘ありがとうございます。
修正しました。