シナリオがアップを始めたようです・・・
生涯最推しとの出会いとか母性本能とか庇護欲とかですっかり忘れていた。
私には幽閉ルートの回避という大きな目標がある。
その為には攻略対象とは関わっちゃいけないわ。幸い、ギルと遊ぶのは王妃様のお部屋か庭か私の部屋くらいだからいいし、私もあまり出歩かないようにしなくちゃと、基本的には自室に籠っているようにしていた。
しかし、インドア派とはいえTVもねぇ、PCもねぇ、庭しか見えねぇ!な部屋で出来ることなんて限られている。
退屈で死ぬかも、と悩んだ結果、慎重に外に出るようになった。
「君が『ロス』?」
1ヶ月程経ちギルの朝の訪問生活にも慣れたお昼前、勉強時間だと言うギルから離れふらふらしていると後ろから声をかけられた。振り返ると王妃様と同じプラチナブロンドの少年が立っている。
見覚えがありまくりのその人をみた私はバカだ。
「アルバート王子・・・。はい、ロザムンド・シャポーと申します」
「なんだ、僕のこと知ってたんだ」
勿論です。良く存じておりますとも。なんて言ったてメイン攻略キャラですもんね。
「ええ、王妃様からお噂はかねがね」
「母上から?そうかぁ・・・ギルから聞いたのかと思ったよ」
アルバート王子は少し残念そうである。
「ギルは僕のこと何か言っている?」
「そうですね・・・」
なんも言ってないよ。ギルはお兄様方の事話さないし、というか私の状況を知ったらしく家族の話全般に、してこない。基本私をじっと見てるか私の質問に答えるだけだもん。
ただそれを正直に言うのは可哀想な気もする。
うーん、なんて誤摩化そう。
「そうですね、王妃様譲りのプラチナブロンドに、剣がとてもお上手ってお聞きしました」
ニコっとゲーム由来の知識で答えれば、アルバートは嬉しそうに笑った。
「本当かい?嬉しいなぁ、あの子は全然話をしてくれないから嫌われているのかと思っていたよ」
「そんなことありませんよ」
はい、嫌われてはいませんが、興味もなさそうです。
「そうかー。なら今日は午後の休みに3人・・・いやロバートも誘って4人で遊ぼう!」
「え?!」
「嫌なのかい?」
嫌です!って言いたい・・・。しかも第2王子のロバートもだと!?ここで死ねと申すか!!
なんて言ったってロバートは私の幽閉コース確率が他の誰よりも高い。バットエンディングは当然のことノーマルエンドにハッピーエンド全て幽閉コースと言う訳がわからない状況なのだ。なんだよ、ハッピーエンドなのに幽閉されるって。あ、アルバートの場合もバットエンディングは勿論幽閉コースだ!(泣
急に跳ね上がる幽閉ルートに顔が強ばる。
「とんでもございません。ただ恐れ多いと思ったもので」
「何をそんなこと。ギルのお友達なら僕らの友達だとも!」
キラキラっとしながら白い歯を覗かせてそう言われると眩しさに目がくらみそう。
陰キャに陽キャの考え方は理解出来ない。身内の友達はただの『知り合い』だろうよ。真っすぐな性格にぶち当てられくらっと貧血のようによろめいた。
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ午後に3人で迎えに行くからねー」
ぶんぶん手を振ってアルバート王子は立ち去って行った。
弱々しく手を振り返えしながらこめかみに汗がたれてくる。
まずいまずい、まずーーーーい!!
放っておいた幽閉フラグが助走つけて襲って来た。
「まずいわ!!」
アルバートの姿が見えなくなったのを確認してから、壁沿いにしゃがみ込み、隠し持っていたノートを広げる。
まずはアルバートの場合、結ばれた場合にはそのまま結婚して…幽閉はされない。ノーマルでも、大丈夫。
で、バッドエンドだと反対勢力からないことでっあげられて幽閉エンド。反対勢力って誰だっけ…ああ、ライバル候補側だった。
ロバートの場合は…全部幽閉だわ。ハッピーエンドではシーンこそないけど処刑だったはず。
とグリグリ図を書き込んだ。
「ということは、接点をもたなきゃいい…だめだわ。別の候補者と結ばれても幽閉されてた」
八方塞がりじゃん!
頭を抱えて唸っているとノートの上に影がかかった。
「ねぇ、それどこの文字?」
見上げるとサラサラとした黒髪の少年が興味深そうに私の書いた文字を眺めていた。
「も、文字?」
「そう、その文字。ねぇ君外国からきたの?」
指先で私が書いた文字をなぞりながらそう問いかけられ、ハッとする。
私が書いてるの日本語じゃん…この国って日本語じゃないの?
「ちょっとこの国の文字を書いていただけませんか」
「ん、いいよ」
少年はペンを受け取ると、サラサラとアルファベットのような文字を書き出した。運営、手が込んでるなと愕然とした。
言葉通じてるから書いてるのもこっちの言葉に変換されてると思ってたのにー!!
いやいやまだ慌てるような時間じゃない。この1ヶ月間で言い訳レベルは格段に上がったのだ。
「私はまだ文字が書けませんから…これは適当に書いた落書きなんです」
恥ずかしそうにノートを閉じて書いていた文字を隠した。
「そうなの?それにしてはちゃんと法則があったみたいだけど」
少年は顔をあげて、意味深に笑った…って、この顔はーーロバートだ。
アルバートといいロバートといいなんで王子が一人歩きしてんだ。今は勉強の時間じゃないのか。
一難去ってまた一難。
まだ考えがまとまっていないのに!しかも日本語書いてるのも見られたし、変なヤツだって怪しまれちゃう。
「って、適当です!ホント、本当に適当です!!」
詰め寄ってそう言えば、吹き出された。
「わかった。『適当』だね」
わかったわかったと小さく笑いながら返されたのが、なんだか大人が子どもを宥める感じがする…私アラサーなのに、悔しい。
「…恥ずかしいので誰かに言ったりしないで下さいね」
実際は恥ずかしさよりも、怪しい文字を使う事で不審がられる方の恐怖がある。無駄かもしれないけれど、一応念押しをした。
「うん。内緒だ」
とロバートは唇に人差し指を当てて内緒というポーズをして立ち去っていった。
子どもらしくない、その一連の仕草に一瞬魂が抜かれた。
はっいかんいかん。ほっぺたを叩いて正気に戻した。
午後への対策は何も案は浮かんでいない。