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ゼロへ生きる命の話

作者: ましろ

彼女ーーー由実がいない人生に、

生きる価値なんてない。

彼女がいなくなってから、そう気づいた。

だから、価値のない人生なんて、

終わらせてしまおう。

そう思ったら、気が楽になった。

そして僕は、死を決意した


ーーーーーーーーーーーーーー

××××××××××××××××××××××

ーーーーーーーーーーーーーー


僕「まぁ、こんな感じだけど」


僕は、目の前の死神に死ぬ理由を話した。


死「…いや、それはおかしいよ」


僕「何がおかしいんだ?」


死「それじゃあまるで、彼女と出会うまで生きる意味がなかった事になるじゃないの?」


僕「…まぁ、たしかに」


たしかに死神の言っている事は一理ある。しかし、死神のくせして、なぜそこまでして死のうとする僕を止めるんだ?何か引っかかるものを感じる。だいたい、『あなたが生きる意味とはなんですか?』と問われて答えられる人なんてそう多くはないと思う。生きる意味なんていちいち意識して生きていたら、疲れてしまうだろう。


僕「というかそもそも、人が生きる意味って何なんだ?」


死「そんな事、私に聞かれたって答えられる訳がないでしょ。それは、一人一人が考える事なんだから。自分で探して」


まぁ、そりゃそうだよね。でもこれだけは言えることとして、僕はこう返した。


僕「少なくとも今僕が生きてる意味なんてないと思うけど」


死「生きる意味が無く生きている人間なんて、この世のどこにもいないよ?あなたはただ、今は生きる意味に迷ってるだけ」


迷ってるだけ?そんなはずはない。彼女は僕の全てだった。それほどまでに、愛していたんだ。ただ、あるとするなら、


僕「じゃあ、僕は死ぬために生きてるのかも」


死「いや、それも変だよ。それは生きる意味がないのと同じ」


僕「でもさ、これって自然な事じゃない?人はいずれ、ただ一人の例外もなく死んでしまうんだ。だったら、人はみんな死ぬために生きてるとも言えるよね?」


死ぬなんて言葉を使ってしまったために、急に彼女を思い出してしまった。寂しさがこみ上げてきた。やるせなさがこみ上げてきた。


僕「……彼女もまた、死んでしまったんだ…結婚を、約束していたんだ。いよいよこれからって時に、彼女の人生は、急に切り上げられてしまったんだ。中途半端なところで…人生を断ち切られてしまった…幸せを、目前にしたまま…」


死「……君が生きてるのは紛れも無い今だよ。過去でも未来でもない。たしかに死ぬことは人生の終わりだけど、人生の目的地は、他にある」


死「私も昔は、生きていたんだ。私は、人を幸せにすることが生きる意味だった。それこそが、私にとっての幸せだった」


死神のくせに幸せな奴だと僕は感じた。そんなの、人に分けるだけの幸せがなきゃ根本的に成立しないじゃないか。とにかく、そんなのは幻想か何かだ。


僕「彼女を失った悲しみが大きすぎて僕はもう幸せになることはできない」


死「いや、辛くない人生に幸せなんてやってきてくれないよ。困難を乗り越えた先に、本当の幸せが待ってるんだから。辛い経験をしなきゃ、本当の幸せになんか気づけないよ」


僕は気が立った。なんだこいつ、人生を舐めてやがる。楽観主義にも程がある。この世には、乗り越えられない悲しみだってあるんだ!


僕「なんだそれ、ふざけんな、ふざけんなよ。困難を乗り越えた先になにがあるだって?そんな簡単に立ち直れるとでも思ってるのか!?残りの人生一生かけても立ち直れる気がしないものをそんな安易な言葉で片付けるな!そんな…簡単に言わないで…くれよ…」


つい激昂してしまった。僕は慌てて冷静を取り戻す。


僕「……ごめん、少し取り乱した」


死「…こっちこそ、配慮が足りなかったよ。ごめん」


僕「もう、笑うことも出来ないんだよ。一生心の底から笑えないかもしれない。幸せを感じる心なんて、全部ぐしゃぐしゃに壊れてしまったんだ。こんな辛い人生、一刻も早くやめたい。希望のあるところに、行きたいんだ」


死「あぁ。そうか。仕方ないか。そんなに言うならここで、その腐ったその人生を、終わらせようじゃないか」


僕の切実な思いが伝わったのか、死神は僕の喉にナイフを当てた。


死「今ならまだ許してあげるけど?」


まだためらっているのか?僕はこう返す。


僕「いや、いい」


死「あそう。じゃあいくよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーー


その瞬間、

世界が急に、遅く感じられた。

ナイフが後ろに振り上げられ、

そして喉へと弧を描いて迫ってくる。


これでやっと終われるのか。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


痛みは、感じなかった。まるで何も切れなかったかのように。




実際、僕の首は切れていなかった。なら死んでもないか。


ところが、不思議なことがあった。目の前に、由実がいた。


由「一度は死んだみたいなもんだから、またここからやり直せるんじゃない?」


由「どうしても心配だったから、死神として、あなたの前にいきなり出てきちゃった。ごめんね?びっくりしちゃった?」


呆気にとられ、僕は声が出せなくなってしまった。


由「悪いけど、あなたが死んでも私はこれっぽっちも嬉しくないんだからね」


僕「…ゆみ……」


由「あなたには生きていて欲しいの」


僕「そん、な…むり、だ」


僕「きみ、の、いない、せかいに、どう、いきていけば、いいんだ…」


僕「きみが、いなくなっても、せかいは、あいかわらず、動いて、いるんだ。それが、僕にとって、耐え、がたいんだ。僕のせかいは、まだ、時がとまったままなんだ。理不尽な、世界に、絶望して、しまった…」


涙で視界がぐしゃぐしゃに歪んでしまう。由実は諭すように僕に言葉をかけた。


由「まぁ、私のいない世界は、あなたにとって意味を失った世界に見えるかもしれない」


そうだ。そうに決まっている。


由「じゃあ、私のいない世界に何が残っているかを探してきて。世界に散りばめられた、たくさんの幸せを見つけてきて」


君は、本当に辛い事を頼むなぁ。


由「あなたには生きて欲しいの。たったそれだけでも、私の生きた意味はあった。私は自分の人生を、成し遂げられたと思う」


由「大きな目的を成し遂げられた私の人生って、幸せじゃない?」


君は幸せだったのか。そうか、 そうか。僕は勘違いをしていたみたいだな。


僕「世界に散りばめられたたくさんの幸せってなんだよ。そんなもの見つかるか?」


由「いくらでもあるよ。またいつか会えたら、その時に教えてね」


ぼくは、いつのまにか生きようって気になった。


由「じゃあね。また、いつの日か」


僕「…あぁ。また会う日まで」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ーーーーーーーーーーーーーーーー


目が、覚めた。

なんだ、夢か。

夢の中でも助けてもらうなんて、

まだまだ君がいなきゃダメだな。

ありがとう、ゆみ。

また新しい人生を始めてみようと思う。

僕は、生きる。明日に向かって。



















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