『死ね』と言われたので
今日もまた、くだらない一日が始まる。
”イジメ”今の私を取り巻く状況を一言で表すと、イジメられている女の子だろう。話しかけても無視されることはいつものことだ。暴力にも慣れてしまった。だけど、物を取られるのは、少し嫌だと思う。親に新しい物を買ってもらうことになってしまうからだ。その度に、心配させてしまう。
学校用のスリッパは、二か月前に隠されてしまって、未だに見つけられない。最近は、学校の来客用スリッパを借りている。
教室に入ると、私の机にクジラ幕と菊の花が飾られている。いつも飾ってあるが、とても綺麗だと思う。
「キモイ」
私もそう思う。
「あっち行け」
どいてあげるよ。
私の机が廊下に出されていた日は、一日中廊下で授業を受けた。
イジメは、半年程続いていた。
一時間目が始まるまで、少し時間があったので、窓の外を眺めていた時。
「お前さぁ、いつまで学校来るんだよ。」
いつも私を殴っている子の一人が話しかけてきた。
「卒業まで来る予定だよ。」
「その予定、変わったりしないの。」
「うん。今のところは。」
暴言を吐く時はだけは、彼女たちも私に話しかけてくれる。しかし、私の返答が気に入らなかったのか、一人の女の子が
「死ねよ。」
と言った。
”死ぬ”ということが、私はよくわからなかった。
「死ぬとどうなるの。」
深く考えることをしないで訊いた。
「ん~?私たちが喜ぶ。かな?」
一人がそう言うと、周りの子たちと一緒に笑い始めた。
「じゃあ、どうやったら死ねるの。」
「その窓から飛び降りれば死ねるんじゃない?」
四階校舎の最上階。教室の窓から下を覗くと、先生たちの駐車場が見える。
「あなた達は、私が死んだら嬉しいの。」
「うん。もちろんよ。」
「お前が死んだ方がみんな喜ぶよ。」
ケラケラ笑う彼女たち。教室を見回すと、ほとんどの子が私から顔を逸らしている。
なんだか面白くなってきて、少し口角が上がる。
「なに笑ってんだよ。死ぬんなら早く死ねよ。」
死んだらどうなるのか、興味が湧いたので死んでみようと思った。開いた窓に足を掛けると、冷たい風がビュウと吹いた。真下には、花壇があったが、花は一輪も咲いていなかった。
飛んでみようと、足に力を籠めた。
「お、おい!何やろうとしてるんだよ。」
私に”死ね”と言った子が、声をあげた。
「貴女が、貴女方が”死ね”と言いましたよね。」
思ったことを口にすると、教室の隅で俯いていた子が一人、教室を飛び出して行った。大方、先生を呼びに行ったのだろう。
「私は”死ね”と言われたので、今から死んでみます。」
顔面蒼白になった彼女たちは、何か言いたそうに口を動かしているが、声が出ていない。
「それでは。」
思い切り外に飛び出した。教室の中は、多くの悲鳴で満たされていた。
一秒もしないうちに、地面に叩き付けられた。
想像したよりも痛くて、声が出せない。起き上がろうと思っても、身体がまったく動かない。何も聞こえない。何も見えない。
この時私は、『死ぬ』と二度と”生きる”ことが出来なくなるのだと知った。