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第六話:専業主夫のお父さん

「ただいま」


 今夜はカレーだ。廊下をふんわりと満たしている温かな香りで分かった。


「お帰り」


 バタバタとスリッパの音を立てて台所からパステルカラーの小花模様のエプロンを着けたお父さんが出てくる。


「遅いじゃないの」


 くぐもった声と眉間の皺に苛立ちが滲んだ。これは本当は他に不機嫌の要因があるのに僕に当たる時の兆候だ。


「自習室で勉強して帰る途中、大橋君おおはしくんに逢ってスタバでちょっとお茶したから」


 本当は彼とは事前に約束して会ったのだが、偶然出くわした風に印象操作しておく。


「今日は予備校の近くで将棋のイベントがあって来てたみたい」


 その折を利用して会ったわけだから、一応嘘は吐いていない。


「今なんか日も短くてすぐ真っ暗になるんだから男の子は早く帰ってこなきゃダメ」


 小学生の頃から変わらず聞かされた言葉だ。


 僕はもう十九歳だが、お父さんは相変わらずパステルカラーの小花模様のエプロンを着けて同じ小言を繰り返すのだ。


「受験前だし、何かあってからじゃ遅いよ」


「分かった」


 小学生だろうが、十九歳の浪人生だろうが、性犯罪の被害者に最もなりやすい「男の子」に変わりはない。


「早く手洗い、うがいして、食べる用意しなさい」


 声は幾分穏やかになったものの、眉間の皺はまだ消えていないお父さんは付け加えた。


「今日はお母さんもお姉ちゃんも外で食べてくるみたいだから、私たちだけで早く食べて寝ましょう」


 返事を待たずにお父さんは背を向けて台所に戻る。


 専業主夫のお父さんがカレーを作って用意するのは家族全員での夕食を見越した時だ。


 しかし、お母さんもお姉ちゃんもしょっちゅう夕飯時になってから外で食べる連絡をしてくる。


 そして、イライラしたやりきれない顔つきのお父さんと僕の二人での夕食になる。

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