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第五話:男性専用車両に揺られて

 やっぱり、この時間帯はどの車両も混んでいる。


 鞄から参考書を出して読むのは無理なのでスマホを取り出した。


 実のところ、少しだけホッとしている。浪人生の僕にはこんな合間合間の時間を見つけてTwitterをするのが唯一の息抜きなのだ。


 ただし、十分に自習できる環境でやっていると「こんなことをしていていいのか」という焦りが出てきて楽しめないので、こんな風に「スマホを見るくらいしか出来ない」環境が一番都合が良い。


 ワクワクしつつ青い鳥のアイコンをタップしてTLをチェックする。


“男性専用車両に乗ってるのはとても痴女には遭わないようなブサイクとオッサンばかり”


 またか。何度この種のツイートを目にしたか分からないが、やはりうんざりする。


 一般には地味でイケメンとは言えないような僕ですら今まで痴女には何度も遭っている。特に高校時代はそれなりに名門で知られる学校に通っていたので朝晩に制服姿で電車に乗ると週に一度は痴女に出くわした。


 日本では制服姿のDKこと男子高生は歩く性的アイコンなのだ。


“映画『それでも、ワタシはやってない』のように最近は痴女冤罪の方が問題だ”


“男の一言で女の人生終了”


 何年か前、有名な映画監督が撮った「それでも、ワタシはやってない」という映画では、無実の女性が男子高生から痴女として警察に突き出され、冤罪と苦闘する展開になっていた。


 このフィクションは今ではネットの女性たちの間では「痴女冤罪の悲惨な実態を伝える」バイブルのような扱いだ。


 僕の場合、痴女に遭うとひたすら怖くて、映画やドラマのように「この人、痴女です」と手を掴んで突き出すことなどとても出来なかった。


 犯人は大体、スーツ姿のサラリーウーマン風でいかにもくたびれたオバサンもいれば、一般には美人と言えなくもない若い女性もいたが、どんな風貌・年配でも僕には得体の知れない変質者でしかない。


 遅刻するのも嫌なので黙ってひたすら耐えて学校最寄り駅に着いたら足早に電車を降りて逃げるしかなかった。


 同級生の子たちと話しても全員似たようなものだった。


“日本は世界でも性犯罪の少ない安全な国だ”


 一度も警察には届けていないから、僕らの被害は統計には組み込まれていない。


“男性専用車両のある日本は男尊女卑”


 今、十両の内たった一両しかない男性専用車両で揺られてる僕は優遇されてるの?

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