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5.知らないキャラが意味深に出るから詰んでる。

正直ゲームくらいでしか見たことないから、吟遊詩人と聞いても竪琴を持った色男のイメージしかないけれど。


今日酒場に来ている人とはかなり印象が違う。帽子とスカーフを巻いた服装で、清潔で人のよさそうなおじさん、って感じだ。


じゃらん、と琵琶みたいな弦楽器を一弾きすると、馴染みのひとだったのか酒場の人の目がそちらに行くのがわかる。


「ほー…人気なんですね、あの方」


「吟遊詩人のトルドーだ。よくうちで歌ってもらってるよ」


つま弾く曲はオリジナルなんだろうか。いや、単調で馴染みやすい曲調だから、もしかしたら昔からこの国にある曲なのかもしれない。トルドーの歌に、誰かか口ずさんだのが重なって聞こえてくる。


何曲か短い曲を弾き終えると、たん、とトルドーのブーツが床をかるく鳴らした。


繰り返しの単純な曲が始まったかと思えば、すぐ周囲の何人かが輪になって、御題に沿った替え歌を、順番に即興で披露するゲームが始まっている。


……なるほど。歌とゲームと物語を披露する、今でいう芸人や、エンターテイナーのようなものかな。


確かに、ローエンの言うように、下手なことしたら怒られそうだ。誰も催しものに酒をまずくしたくないよね。テレビなら消すのにスイッチ一つだけど、吟遊詩人なら瓶でも飛んできそうだ。


「楽しそうですねぇあのゲーム!」


「そうか?俺はどうにも苦手だ」


「あんた、『最高のお嫁さん』で振られると照れて黙り込んじまうからね。いいカモなんだよ」


「そんっ…!!なの今からわかるかよ!!」


「なんだい、あんたも色気づいて、女の子連れてくるようになったんだ。そう遠くない話だろ」


「……は?」


ローエンが錆びた金属ロッカー並みに、ぎぎぎ、とゆっくりとこっちを見たので笑っておいてやる。


ははははは。こっちから男なんてひとっことも言ってないのに、鋭いね女将さん。いったいこんな鶏ガラみたいな体のどこ見て気付いたんだか。


「えー、僕じゃ役者が足りませんて!兄貴なら、もうちょっと触れたら崩れそうな可憐系好きそうだし!」


「おい…」


「よく言うよ、随分うまく猫被ったね。それが下働きのガキの手かい!」


「あー…そこかぁ。次から気をつけまっす!」


栄養失調で不健康な爪も、日に一回は手入れに来るからね。痩せた手には不釣り合いなほどぴかぴかだ。ただでさえ薄いとこを磨くもんだから、超割れやすそうで恐いのだ。


髪もそうだけど、なんでこう中途半端に世話焼くかって、自分以外の誰かがつけた傷、と言うのも大変面倒になるヤバ王だからね。


自分が割り振られた仕事でアラが出始めると、追及された時に首が飛ぶ。だからこそ嫌がらせも、我儘で手を付けない、とか言い訳がつく食事主体なんだけど。


「……おい、女ってどういうことだ。結局何者なんだお前……!」


「僕もよく分からないんで、教えようがないっていうか?知らない方が、安らかにいられることもありやすぜ兄貴!」


「そのチンピラ臭い話し方を止めろ!」


悔し気に頭を掻きむしっているから、よほど騙されて悔しかったのだろう。言えよ、と申されましても、当方このまま誤魔化して、今日限りのおつき合いと思ってましたからね。そうもいかないっていうか。一人ひとり腹割って話せるような事情じゃないし?


だいたい君が先輩から聞いたままに忠告したように、あの城にいるのがそういい奴とも限らないんだから。今日の失敗を糧に、そしてこの出会いを、うまい具合に悪い夢と思ってくれたら幸いだ。


他人の嗜好と性格の矯正なんて無理難題に繰り出せるほど、私は暇じゃないからね。ヤバ王殴って、さっさと元の世界に戻る糸口を探さなきゃならないんだから。


「で?あんた、小銭が稼ぎたいって言ったね」


「はい、そっちは割と死活問題で…」


「見りゃ分かるよ。何だい、あのパンは。あれなら街の浮浪者のが、炊き出しでよっぽどいいもん食ってるよ。……ほら」


「……ん?」


放るように渡されたのは、弦楽器だ。つやつやしたちっちゃいギター、みたいな。あのトルドーが使ってるのにも似てる。なんだこれ……何かこう…楽器……ハワイっぽいやつ……何だっけ。あの…なんかのお笑いの再放送でも見たあれだよ。そう。


「ウクレレ!」


「マンドリンだよ…なんだうくれれって」


「愛称!」


「ひとのものに勝手にあだ名つけてる場合か!」


細かいことはいい。なんだこの…マンドリン?の弦張った表面?って言い方でいいのかなこれ。青い塗料で、ちょっと凝った模様が描いてあってかわいい。なんか色使いもかわいい大ぶりな柄ついてたらとりあえず北欧系、って言っちゃう癖はどうにもならない。


「これ鳴らせたらやるから、なんとか稼いでみな」


「鳴らせたら?」


「曰く付きなんだよ。持ち主になるべき奴以外弾けないって触れ込みで、ツケ溜めたバカが質代わりに置いてってもう数年だ。誰も弾けない楽器なんかあっても仕方ないからね」


なんだそれぇ。触った瞬間祟られそうなんだけど。あのゲーム、魔法の類は出てなかった気がするんだけどなぁ。


楽器とかまともに触ったことはなかったんだけど。恐る恐る触れてみると、普通にじゃん、とどこかちょっと狂ったような音がする。急に響いた不協和音に、何人かがこっちを見た気がする。


良い木を使っているのか、すべすべして触り心地のいい楽器は、子どもの手には大きく感じるけど。うん、何か悪くはない。


はははでもなんだこれ、弾き方さっぱり訳わからない。ギターみたいにコードがどうのこうのってあるのかな。


「弾けるのか?」


「鳴るならアンタのだね」


「やった!でも女将さん、これの持ち主ってどんな人だったんで?」


「………目の青いバカだよ。そんな昔の奴、詳しく覚えちゃいるもんか」


たくましい女将さんが、少しばかり私の目を覗き見て言う。


そう、忘れちゃいけない。主人公シャロンの目は、深い青である。


……いや、そんな意味深にしないで、思ってることあるならすっきり言お~?多分これ、人を選ばないで普通に鳴る楽器だよね?


気兼ねせずに譲る理由にする気なら、突っ込むのも野暮だけどさ。


なんでこんな放置されてても埃ひとつない楽器、客に譲ろうと思ったのって聞いた時に、本編で登場する前に死んだ主人公父が、昔やんちゃしてた設定まで出てきそうでやなんだよ!


「おい、女将さん!そのマンドリン…!」


「いいとこに来たねトルドー。酒代もってやるから、この子に弾き方教えてやんな」


「馬鹿言うな!なんでそんな子どもにあいつ、の……」


一体どこから話を聞いていたかは知らないけど。囲んでいた客を振り切って、こっちに走って来たトルドーが、私の顔を見て言葉を失う。


……ほら見ろ、まーた旗がばたばたしてるじゃないか。

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