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19.あなただけは違うって思ってた、って陳腐だけどな

・・・

・・


「いや、ぎんぼぉん!!」


大臣の説明で余計なことから思い出した。膝を叩いて叫んだ私に大臣がむせた。


何でこんな濃い記憶忘れてたんだって?時間が全て解決するもんだよ、どんな衝撃もさぁ!ていうか覚えていたくないでしょこんなん!


座ったままちょっとだけ上に跳ねた大臣は、急にしどろもどろになって片眼鏡をみがき始めた。


そうだね。話の前提が激しすぎたね。もう完璧におぞましい?事件とやら?インパクト薄れ始めてるもん。無理。あの後何年かしても、見知った顔の銀盆が来ることなかったからすっかり忘れてた。


翌朝ご馳走してもらった、巣ごもり卵がおいしかった方が覚えてるもん。千切りキャベツで巣みたいにして、真ん中に卵落として蒸したやつ。カリカリに焼いたベーコンにとろけた黄身絡めて食べるの最高でした。


「違うそこじゃない。その…その件もあまりよろしくはないが、これ以上におぞましい事件がこの後に待っていたのだ…」


無理だよぉ~!大臣頑張って重苦しい雰囲気出そうとしてるとこ悪いけど、父親が自分の娘の首をちょんっとするのに勝てるインパクトある~?いや、これまで結構『それ以上』があったから、こんなことあったかすら曖昧だったけどね。


人間の記憶力って自衛が効いてるから儚いんだよぉ。基本はな!


「……笑う悪魔だぞ?こわいぞ!」


「あ、そうだわ元々トルドーさんの話だったねごめん……なんかもう聞きたくなくなってきた」


「話が進まんから聞け!いいか、実はあの出来事の翌日、私は貴方の件で職場へ押しかけて来たバルドゥルと、我が傘下に入れと交渉をした」


「何やってんのあのひと。……ああ、部下にしたら?って言ったねそういえば。勇気あるねー」


「貴様他人事と思って」


しかし、私の言ったことを真に受けるとは思わなかった。いつ頃からか、トルドーさんが大臣の指示で動いていることがあったけど。そんな昔からだったのか。どうりでトルドーさんも、いつの間にか静かになった訳だ。定職に就いてたせいだね。


「そこでこう言った。きっと貴方がこの国に何の未練もなく、去る時に貴様を省みることはないだろうとな」


「なんでそういうことするの?」


「………あいつも薄々感じていたらしい。あることを条件に、二つ返事で私の傘下に入った」


「いや、待って待ってそこ一番訊きたい話だよ」


なんかついでのように言ってるけど、聞きたいのはむしろそっちの方だからな!何が起きてるのか未だに説明無いまま、銀盆ショックの話しかしてないよ!


タイムを取ったけど、流石にやばい連中ばっかりまとめてるお人だ。小娘ひとりの睨みなんて気にもしてない。適当にいなして話を始めたから大人しく聞く他ない。


覚えてろよ、その片眼鏡いつか絶対指紋だらけにしてやるからな。


「メイドの件で『貴方が』有力貴族4家の支持を集めた。願ってもないことだ……が、貴方の孤立を誘い、狙いまで潰された宰相派も黙ってはおるまい。貴方を直接手に落とし、事態の掌握を計るだろう。宰相派閥のメイドが一言他のメイドを告発しさえすれば、事態はひっくり返ってしまう」


「無視は止めよ~?」


「そこで事態を知った奴はこう言った。『大丈夫大丈夫、ちょっと僕に任せてくれたら穏便に済ませられるよ。死体ひとつで済むなら安いよね』」


「似てないし、何でそれ任せちゃったの?惨事になるの目に見えてるじゃん」


「止めるべく振り向いたら既に奴はいなかったのだ!!!!」


アッやばい目に浮かぶようだ。浮かんじゃったらこれ以上責められないなこれは。当時を思い出して、目元を抑えてふさぎ込んでる。話が進まない。こんなことより聞きたい話は他にあるから、渋々続きを促した。


「……そこから何でおぞましい事件に発展したの?」


「あいつはこう考えた。『発端である宰相派閥のメイドに罪、全部着せられないかな?』と。そして実際にやってのけたのだ。……貴方と私が初めて会った、翌日の夜にな」


「早い早い早いってまじでなにやってんのあのひと」


なお犯人はその日のうちに片付けておきたいと思って、と供述していたようだ。


城のメイドとも関係を持っていたトルドーさんは、噂話にも通じていた。メイドがどこで盗んだ食事を保管して食べているのかも、把握していたのである。


あの事件の翌日には、メイドたちは酷い流行り病で急に辞職し、家に帰ったことになったらしい。一人残された宰相派閥の家のメイドはそれを報告したら、もう食べられなくなるだろう王女の食事を、今日が最後だと三食独り占めにしていたそうだ。


「運悪く現場に居合わせてしまった見習い騎士から槍を奪い、料理に舌鼓を打つメイドの心臓を背後から槍で刺し貫いた。酷い有り様だったよ。口から詰め込んだ料理はそのまま、目を見開いた女がそれでもナイフとフォークを手放さない。……あいつはその場に面白いものが見れる、と旧知の宮廷画家を帯同していたのだが?」


その見習い騎士誰か知らないけど気の毒だし、できれば宮廷画家の名前は教えてほしい。距離置くから。


まあこの国ではバカな連中の教訓話の絵画を、自身をいさめるために置きたがる人は多いらしい。信心深い人にとっては、お前の手口は分かっているぞと、悪魔を退ける魔除けにもなる。とりわけこの話の絵画をよく依頼されると、いつか知り合いの画家が言っていた。


この国の悪魔は、九官鳥じみた姿で描かれ、誘惑を囁き掛けるものとして扱われている。


そんな悪魔に憑りつかれたメイドは理性を忘れ、主人の子どもの食事を盗み食いし、弱った幼子の機転により告発された。改心を誓い一度は子どもに許されたメイドは、自制できずに再び幼子の食事に手を付け、神によって断罪された。


こうして正義の槍によって盗み食いの最中に心臓を貫かれ、エプロンを食いカスで汚し、なおもカトラリーを手放さない無様なメイドの姿。


これは倫理と忠誠心を持たなければむごたらしい死を迎えることを示唆し、小児には料理を口に詰め込んだまま、目を見開いて絶命する女の形相が純粋なトラウマになる。


この国で特に好まれる題材だ。現場でも見たの?ってくらい精密な描写の物が多い。のは覚えていたけどな!


「『無知蒙昧なロザリンド』って古典じゃないのかよ!!」


「貴方の働き次第で今後そうした地位を得るだろうな。愚かな子の為に家を滅ぼさないように、絵を示して幼少期から言い聞かせるとてきめんらしい。トルドー、テアドール…指折りの吟遊詩人が絵の宣伝として脚色した話を吹聴し、貴方は市民の支持まで得た。……今となってはもう誰も、止める者はいない」


さっきからみょーに引っかかる物言いなんだよねこの人も。一緒に王を追い払って新王を迎えよって約束したのに悲しいなぁ!


「ランドルフ・アンガーマン伯爵?さっきからいい加減引っ張りすぎなんだよ。関係ない話はどうでもいい。……貴方が王と呼ぶ気でいるのは誰だ?」


「ああ、ようやく気付いたか。……バルドゥル・テーリヒェンと協議したある条件とはな、貴方に特注の枷をつけることだ。生半なものでは、貴方なら壊して逃げるだろうよ。後は次に来る男に聞くといい」


話が終わるのを待っていたかのように、こんこん、とノックの音が響く。大臣が鍵を開けると、見慣れた顔が入ってきた。目の下に隈が居座る男は、不本意そうに口を引き結んでいる。


「フォスター医師!シャロン王女が手に怪我をしてな。診察をお願いしたい」


「……おうよ」


伯爵の依頼に大儀そうに片手を上げる白衣のその男。……ゲーム、『病みいる孤月』では墓守を任されたネクロフィリアと名高い青年である。


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