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15.一方その頃的に事件起きてるのやめない?

「あだだだだだだへいトルドー氏落ち着いて深呼吸だよやればできるちょっと待てこら!!」


手の関節がミシミシいってきた痛みで、現実逃避していたいけどそれどころじゃなくなってきた。


私の餓死寸前経験してか弱い骨密度だと本当に洒落にならないんだって!頑張って私の手根骨とか中手骨ガッツ見せて!ここで折れたら多分結構ひしゃげてくっついちゃう!


「離したら君はどこかに行ってしまうだろ……?昔約束したじゃないか、きっと役に立つから僕を君の傍に置いてほしいって。いいよって、言ったじゃないか。……裏切るのシャロン?僕を置いて、遠いところに行ってしまうのかい?なら尚更離す訳にいかないよ!」


トルドー氏めっちゃ怒ってるけど、どっから来てるのこの感情?唐突過ぎて戸惑うー!そう言うのに悩んだら事前に相談してよ逃げるからさぁ!


シャロンの父親のマクラーレン氏に自分が盛り立てるべき特別な人、って形で入れ込んでいたのは知ってるから、理想の【それ】を作るのに失敗したせいかなって思ったけど。


他に誰もいない豪奢な廊下で、何が目的なのかさっぱりな様子のおかしい男に捕まっている。


そんなそろそろバッドエンドも視野に入れて、遺書でも書いた方が良い状況だけれど。


事ここに至って取り乱さずにいられるのは、単純に疲労感である。まあ何とかなるだろ、と言ったヤマ勘でもある。


折ったと思ったフラグが全然違う理由を含んで復活していた。そして何人かの連中が共同戦線を張っているらしいのはわかった。


私が知る中で群を抜いておかしくて、出会いの初めから周囲の真っ当な方々より口々に警告を受けていたこの男を、そんな連中は決して野放しにはしないだろう。


たとえば、と思い返した矢先。聞き慣れた足音が、絨毯に吸われることもなくどっすんどっすんと響いてくるのに気づいた。


すっかりとゲームの展開から離れたこの世界でも同様に、この8年で運悪く私に味方になってしまったゲームキャラがいる。


よくいるじゃないか。ゲームではキャラとの親愛度を教えてくれるお助けキャラが。


このゲームの世界では、それは一人の中年親父である。この国の何とか大臣であった。


…何とか大臣、なのはシャロンが理解し、知識にあること以外は、ゲームでは決して出てこなかったからだ。誰かにこの中年男が、大臣とだけ呼ばれているのを知っていた。


落ち着かなくなると口ひげをいじり、ふっくらとしたほっぺたで、片眼鏡を抑えている。全体的にころころした人だ。


どう接すればいいのか分からないから口が悪くて、人より気が利く分仕事が増える苦労性で、ストレスによる過食で少しばかり出てしまった腹を気にしている。


おかしな連中に注意しろと忠告し、不器用ながら気遣う姿は……まあ普通に近くに居たらもうちょっと言葉くらいは選んでほしいめんどくさい人、で済むんだろうけど。


攻略キャラ全員が手の付けられないヤンデレで、大抵生命の危機に瀕した状況にあるシャロンを庇う理由が、真っ当に可哀想に思ったからなんだそうだ。事態に頭を抱えながら、悪態をつきながら自身に被害が及ばない範囲で何とかしてくれる。そういう大臣である。


私は外に飛び出したけど、ゲームでは城しか世界のないシャロンの唯一の味方であった。


……まだ彼は、私のせいで余分に働いた。もしくは投資した分を取り戻せていないから。多分顔を出すとは思うんだけどなぁ。


「バアアルドゥルテェエエリヒェン!!貴様は!使いすら!こなせなくなったのかぁあああこの穀潰しめが!!」


「うっるさいなぁ!!何でここにいるの!!部屋で待っていればいいだろう!」


「愚図がいつまでも仕事を終えんからだろうがぁあ!!」


ほらきた。


トルドー氏に握られた私の手がかわいそうなことになる寸前。廊下のちょっと離れたところから、大変脱力させられる絶叫が響く。賢明だ。トルドー氏の得物が届かないからね。


大臣には悪いが、この訳わからん状況に至るまでに、散々聞いてきた叫びにちょっとほっとした。


お前は何か私に恨みでもあるのか、を口癖にさせてしまったのは、私の不徳がいたすところだけど。そもそも大臣に限っては、私に関わったが最後だった。もうどうにもならない。諦めてほしい。


トルドー氏が大臣と喧嘩を初めて、ようやく離れた手はまだ痛むけれど。多少痣にはなっても、骨折の徴候はないかな。後で冷やしておかなくっちゃ。


ふう、と一つ息を吐いて、喧嘩している大臣に歩み寄って胸倉をつかむ。


「大臣、ちょっと面貸してくれるかな」


「奇遇ですな。私も貴女にお伝えすることがあります」


幸いなことに、このバカ騒ぎの原因が何か。ようやくまともに尋ねられる人間がいたようだ。


どうしてこんなことが起きているのか。……そんな疑問と疲労感に満ちた顔をしているのは、何も私だけではなかったらしい。


大臣……ランドルフ・アンガーマン。この国随一の嫌われ者な常識人。


暴れるトルドー氏は、大臣と一緒に来た兵士に羽交い絞めにされた為、大臣に案内されるがまま足早に部屋へと向かう。


綺麗に掃除された…華美な装飾のない、それでいて安らげる造りの部屋だ。応接室なのだろうか、とか。部屋の用途など気にしている余裕はない。


部屋に入って、互い深々と息を吐いたあと。そっと大臣と目線を交わして、手分けして部屋のカーテンや窓、ドアに至るまでをきつく閉め切り、声を潜めた。


「……革命でも起こってるの?予定あったなら先に言ってよ、手引きしたのに」


「お前は本当……本当にもう……」


息を整えるのに必死だ。


あの程度で息切れとは肥りすぎだよ大臣。肺とか心臓とか大丈夫?


「だってローエンの兄貴を筆頭に騎士団から使用人、トルドー氏までおかしいんだよ。何かあったのなんて聞いたが最期って感じ」


「まさか当人たちに尋ねたのか?!」


「言ってないよ。トルドーさんは勝手に発狂したけど。どうしたのあれ」


「どうしたのあれとは!?」


純粋な疑問だったのに、まるっこい大臣が綺麗に直立したまま後ろに倒れた。


無茶すると骨が折れるんじゃと心配していたが、ぽよんと弾力を活かして見事に跳ね起きると、そのまま詰め寄られる。


「まさか覚えてないのか!お前が8歳の時にあったあのおぞましい騒ぎを!!言うに事欠いてどうしたのあれとは?!」


「8歳児の記憶力に無茶言うなよー!むしろ、そんな記憶なら意識して忘れてるんじゃないかな?私だってどうしてこうなったのか、さっきから考えても分からないんだもの」


「それは…どうなんだ……?」


えっそんな戸惑う?私、各所をウクレレ(マンドリン)漫談で練り歩いて、各所にあれこれそそのかしてた記憶しかないんだけど。


あからさまにぴんと来てない私を見て、大臣が深々と息をついた。


「いいか、よく聞け。私が知る限りのことを伝えよう。あの日あったことを」


そうして大臣が重々しく語りだしたのは、先程まで思い出していた騒動の続きだった。


8年前、私の食事をメイドがちょろまかしていた頃にさかのぼる。


・・・

・・


昔から喧嘩っ早い方だったので、いくら相手が悪くても、だいたい殴った私が怒られた。


幼い私はふざけんなよと更に荒れたけれど、今思えば幼稚園の先生には超迷惑かけたなぁと思わなくもない。報復を容認すると、理性の働かない小児達だと収集がつかなくなるからね。仕方ないさ。皆自分の仕事をするだけだ。


それにその時先生に叱られたからこそ、ちゃんと自分の立場を悪くせず、怒られない仕返しを選ぶようになれたから感謝している。


やり返して心からすっきりしても、そもそも私に悪いと思ってない連中からの逆恨みは確実だ。


他人に原因がある傷に狂った人間ってのは、本当に厄介だしね。ちゃんと最期まで責任取らないのなら、この手は取らない方が良いだろう。


だいたい8歳から食事を取り上げる連中の、忍耐と良心に欠片も期待もできないから。


今後の安寧の為に、出来る限りこれまで起きた酷いことは全部お前の行動のせいだよって、言える状況は保っておきたいじゃん。となれば一番いい嫌がらせは何かな、と調べるじゃん?


そしたらなんかいらない情報が飛び出てきたから、もう何も知らない内に仕返しをしておけばよかったと思ったね。何で調べちゃったかなぁ!そしたら何も気にしないでいられたのにね。


そう、そもそもがおかしいんだ。


私のお付きの侍女は5人、そしてその全員が盗み食いに加担しているし、給料分の仕事をしていない。通常ならばそんな真似、極刑だっておかしくない状況だ。余分な金を使うし、国の面子に関わるからさ。


じゃあなんでそんな状況にしているか?


トルドー氏は虐待による洗脳の可能性を示唆したけど。誰一人として味方がいない王女に、皆既に【仕上がった】と感じているようで、誰もそれ以上の手間暇をかけるつもりはないようだった。


どうせ王族の血が入らない孤児だ。いずれ適当に始末をつける気でいるんだろう。ネグレクトで更に追い詰める、というのなら、わざわざ人員を遊ばせておく必要がない。一人二人つければ十分だ。なのに私についた侍女は5人。


1人の年季の入った侍女を除き、いずれも領地経営がうまくいって、財産が有るので王におもねる必要のない貴族の何番目かのお嬢様連中である。だから侍女の仕事にもやる気がなく、婿を探す気で勤めていた。


もし私が彼女たちを訴えたら、対抗勢力を正当な理由でもって排除して、財産と領地を没収できる訳だ。そして私は王と側近連中の慈悲にすがった形で、借りを作ることになる。


多分ゲームだと、シャロンが相談した片端からこういうことが起きてたんだろうなぁ。彼女が16歳になる頃には、王を諌める人は皆無になっていたようだし。


あ、これ手を出すだけ面倒くさいやつ、と気付いたから、ここで考えるのはやめた。まあ一度できるだけ酷い目に合ってほしい、という気持ちはあるけど。流石に一族郎党の首までは欲しくない。


だからあとはお願いねって、王に隠れてこそこそ悪いことを始めた連中の一人に、お手紙を書いて丸投げすることにしたのだ。


数か月でも城に居れば、誰がどの派閥か、くらいの話は聞こえてくる。その中の、一番反応が予想しやすい…言葉は悪いが、原作で唯一真っ当にひねくれていた大臣っぽいお助けキャラに送ったのが、トルドー氏に絡まれて逃げ出した日の夜。


怒ったおっさ……アンガーマン伯爵が押しかけて来たのが、翌日の昼をいくらか過ぎた頃合いだった。時計?そんなものはないからね。正確な時間なんか分からない。


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