人生の墓場
彼の死に際はきっと誰もいなかったのだろうと感じられる。
膝の上の高さまで積まれ溢れかえったゴミと食べかけのカップ麺に蓋の空いたワンカップの日本酒だけがライトの当たったかのごとく、目立っていた。
それ以外は全てゴミだ。
その横で仰向けで黒くなってハエがたかっている彼にスポットライトが当たってはいなかった。
鼻の中に入ってくる
強烈な腐乱臭と生ゴミなのか他のゴミなのか色々な臭いが部屋の中を埋め尽くしていた。
彼はきっと、どういう思いをしてこの世を去ったのかはきっと誰にもわからないだろう、司法解剖をしたといても彼の気持ちまではわからないはずだ。
プロファイリングとやらで彼の情報を精査して考えてみれば、ある程度の推測はつくだろうが確実なものはない。
独りぼっちで人生を終えた。
彼は何を考えて生きていたのだろうかとふと頭をよぎった。
彼は所謂常連さんと呼ばれる分類の人物でよく救急要請をかけては我々救急隊を呼んでいた。
前に来た時は彼の家に行った時は彼は寂しそうにしながらも拒否され続けている精神科病院への入院を希望して救急車を呼んでいた。
病院側は暴力的だからということで搬送を拒否してくる。
要はもう彼に行ける病院はない状態だった。
歩いていけば、渋々病院も診てはくれるだろうが、金のない遠い病院へはどういけと?というのが彼の言い分だった。
この前の当務に彼の身の上話を特に聴きたいわけではなかったが、顔なじみになったのか
彼も誰ともほぼ喋らない時間を長く過ごしていたのだろうか、過去のライトの当たっていた日を語っていた。
彼は高校卒業後に地元の工場に就職した。家族とも仲が良くて、一年に一度は父、母、妹と共にどこかに旅行に行っていたらしい。部屋の中には20年くらい前の写真が数枚写真たてとともに置かれていた。
高校を卒業して数年はとても毎日が輝いていたようだ。だけど、何かがだんだんとライトを隠して行って暗い部が現れてきた。
真面目に働いてら、普通の人だったらストレスも溜まるだろう。毎日お酒を飲むようになった。
だんだんと量は増えて行った、減ることはなかった。仕事の時間もアルコールを手放すことが出来なかった。
お酒を飲むと気が良くなって、鬱憤を大爆発させていたらしい。
そして、どうだろうか。
彼の世界を照らしていたライトは彼だけを照らすスポットライトになってしまった。
仕事をクビになり、暴力に耐えられなくなった家族は彼から逃げるようの姿を消した。
友人達もだんだんと彼の粗暴な態度に耐えきれなくなって離れて行った。
気がつけば、一人ぼっちになっていた。
甘く差し伸べられた手を握った先は、薬物の世界だった。
だけど、そこには行くことを躊躇できた。一歩踏みとどまれた。そこは自分自身が守りきれたと言っていた。
そして、時は経った。
彼はひとりぼっちのまま人生を終えた。
彼の人生の概要は聞いたが、実際の彼自身がどう思い歩んでいたかは誰にもわからない。
人には色々な人生があるのは確かだ、
それをどう選ぶかは難しいことかもしれないが、この人生を歩みたいという人はきっといないだろう。
だが、彼も元々は普通の人で気がつけば周りは暗い世界にいた。ただそれだけの話だ。
詳しくは干渉しない、あとは警察の仕事だ。
救急隊の仕事ではないし、個人的に干渉するものでもないと感じた。
何だかんだ、知った仲だから
そっと心の中で手を合わせた。