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黒猫の暗殺者 ※イディス視点

 イディス・ローファアングは真夜中に鳴り響く警報の音で眠りから起きた。

 これまでにこの音を聞く経験はしたことがあり、あきらかに異変を知らせるようなけたたましい音。

 僕は公爵家が誇る兵達が直ぐに片付くかと思っていた。

 それがいつも通りのことであり、多少の被害はあるものの十四年生きてきたなかで慣れてきたことだった。


 しかし、今日は違った。

 侵入者が多かったことや父が不在なことで兵が少なかったことから駆除に時間がかかり部屋にいることは危険だと報告を受けた。

 僕は母や妹、夜番で屋敷にいた非戦闘員の者達を守れる護衛を連れ、屋敷からこっそり出た。

 侵入者は屋敷に向かっているようなので、外にいたほうが安全だと護衛と話して判断したからだ。



「お兄様、これは何?」

「魔道具です。父からもしものときにと渡されていたもので、気配や魔力を一定範囲内なら消すことが出来ます」


 怖がって僕の服を掴んでいた妹のカロルが興味を示した。

 僕は少しでも恐怖が和らぐよう、安心出来るように優しく言う。


「時間は限られていますが、魔力を込めれば何回でも使えます。カロル、手伝ってくれますか?」

「ええ、私に出来る事なら」


 この魔道具は必要な魔力が多いため、一人でなんとかするのは無理だ。

 カロルは魔力が僕よりも多いため、そうしてくれて助かった。




「にゃあ」


 二、三回目の魔力を込めた後のこと。

 リンとなるように錯覚するような、心地よい猫の鳴き声を聴いた。


「猫?」


 カロルが気になって、護衛で隠れてしまっている猫を見ようとする。


「下がってください」


 カロルは「なんで」と言おうとしたのだろうが、口をつむんだ。

 言葉を発した護衛から剣の柄を掴み、肌を刺すようなものを感じて止めたのだ。


「こんばんは。いい夜だね」

「そんなわけあるか。この賊め」


 猫が話した。

 数人の護衛を除き、驚いた様子で皆がそう呟いてもいる。

 だが僕の位置からだと何も見えないので、嘘はついていないのだろうが疑ってしまう。


「綺麗な月が見えてるのに。ねえ、貴族様ならどう思う?とってもいい夜だと思わない?」


 目的は貴族。

 つまり、僕、妹、母。

 猫で話す者を雇っていることは僕は知らないので、侵入者に違いない。

「行ってはいけません!」と護衛に止められるが無視した。

 護衛は最低限であり、不意をつかれたらと考えると戦闘になるのはいけない。

 それに相手は会話を望んでいるのだから、応じて妹と母を守るためにも、僕が気を引いて時間を稼がなくては。



「貴方は敵でしょうか?」


 一見普通の黒猫を見て、思わずそう言ってしまった。

 本当にこんななりをしているのが、侵入者なのか。

 護衛が警戒していたのが間違いではないか。

 猫を見る前と違って心が揺らいだ。


「今は敵じゃないかな。私は貴方を殺すように依頼されたけど、一人じゃ難しい」


 目的は貴族ではなく、僕?

 襲う気はない?

 それなのに姿を僕達の前に現して、何がしたいのか分からない。

「睨みつけているお兄さんが怖いからね」と言うが、僕には誤魔化しているようにしか見えない。


「……誰に依頼されたのでしょう」

「そんな安々と教えられるわけない。そのぐらい、分かるよね?」

「……愚問でした。では何故呑気に話しているのでしょう。僕を殺せないのならば、早く逃げればいいのでは?」

「それはね、興味があるからだよ。殺すように依頼されるほど、価値があるのか」


 疑問を次々と投げ、黒猫は律儀に言葉を返した。

 それが僕には以外に思い、また別の質問をしようとしたら、重苦しい圧が全身にかかった。


 どこからでもなく「ぐっ」という呻き声が聞こえる。

 これは威圧だ。

 歯を噛み締めながらも、この現象が何かの正体に当たりをつけた。


 一度だけ、父からされたことがある。

 それは6歳のころのことで、幼かった僕は震えに震えた。

 心の強さを確かめたのだと父は言った。

 お前は弱い、とも。


 そして今回。

 黒猫からもたらされた威圧に僕は打ち勝った。

 もちろん油断したら震えてしまうぐらい、今の黒猫は恐ろしい。護衛にも負けないようにと剣を習ってはいるが、勝てるビジョンなんて想像もつかない。

 けど僕はいつまでも弱いままではいられないのだ。

 貴族は守るべき者にならないといけないのだから。


「威圧をやめてくれませんか。皆が怯えています」

「いいよ」


 地面に倒れる音が背後か聞こえてくる。


「僕は価値ある人間でしたか?」

「うん。それはもう十分に。……君はいい貴族になれるよ。私達を雇った依頼主に対抗出来るぐらい」

「いいのですか?その話だけでも、依頼主だと思われる人物が絞れますよ」

「耐えきったご褒美だからね。それに報酬はなしだから、嫌がらせ。気の進む依頼じゃなかったしね」 


 僕は彼女のことが分からなかった。

 人間が魔法で猫に化けているのだろうが、本当は猫だと言われても納得してしまうかもしれないと思うほど考えが読めない。

 そう思ったことを伝えると、黒猫は嬉しそうにした。

 やはり、よく分からない。


 そうして黒猫は暗殺のセールスをして去っていった。

 ぽんっと音がする煙でいなくなったので、今までのやり取りが夢だったような現実離れしたものに感じた。

今回ので書きたかったことまとめられなかったので、次もイディス視点です。


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