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少年との出会い

 屋敷の中もやはり兵は多い。

 なるべく戦闘は避ける方針で対象の部屋に向かってはいるが、この騒ぎでは違う場所に避難している可能性もあり、そうだったら報酬は諦めるしかないだろう。

 案の定、部屋には対象は居らず、代わりに兵がいるだけだった。


 私達は互いにバラバラになって逃げた。

 部屋にいた兵とは戦う意味はなく、単独で散らばったほうが隠れやすいし気配が察知それにくい。


 そうして二階の窓から脱出を図ろうとするとき、自分の索敵範囲でやけに多い人数が固まっているの感じ取った。


「見つけた」


 多分魔法で気配を消していたのだろう。

 効果時間が切れてもう一度かけ直す一瞬が先程の気配だったのだと、今は感じられないことから推測した。


「顔だけでも拝んでおくかな」


 隙があったら殺すが、それは無理だろう。

 それでも依頼者の貴族が殺してほしいと思った相手がどんな人物か気になった。


 魔法の効果が切れるまでまだ時間があることを確認し、空中に身を翻えす。

 この瞬間は楽しい。

 重力以外で私を縛るものはないのだから。


 トンと着地をする。

 そのときには私は猫の姿に変身していた。

 変身した理由は趣味で魔力に余裕があったこと、そして暗殺者としてのトレードマークだからだ。

 余計狙われたりするが依頼量は増えるので、今回消費した道具を補給できるよう金は欲しい。



 私は散歩をするかのように、穏やかな気分で気配があったところに向かう。

 その間は誰にも遭遇しなかった。

 交戦しているだろう場所とは反対だし、本気で闇に紛れているからだ。


 途中、ハンナの事を思い出したが、撤退の合図の光が見えたので逃げているだろう。

 死なないでよとは言ったが、そこまでは心配していない。

 時間を稼ぐためだけならば、ハンナと二人残った者はうまく立ち回れるだろう。

 貴族の子飼いの者達は全体的に質が高く、多くこの依頼に参加していて仲間意識が高いので、まだ逃げ切れなかったとしても応援に駆けつける者がいるのだから私が行ったって無駄だ。

 決して好奇心に負けたわけではない。

 それに一度の死に関わるような攻撃を受けたら防ぐ魔法をこっそりかけてあるし大丈夫だろう。



 そうしているうちに到着。

 気配はないが姿は隠しておらず、猫の嗅覚でも人間がいると分かるので、物陰に隠れているのが分かる。


「にゃあ」


 鳴き声を出し、警戒する者達の前に姿を現してやる。

 強そうな相手が二人いるが、対象を守るほうが私を撃退するより優先すべきことはこれまでの経験上分かってはいる。

 距離をあけて攻撃さえしなければ相手も守りから攻めることには転じないだろう。


 対象は護衛者の影に隠れて見えない。

 私の正体は分かっているのだろう、護衛はピリピリとした殺気を放ってくる。


「こんばんは。いい夜だね」

「そんなわけあるか。この賊め」

「綺麗な月が見えてるのに。ねえ、貴族様ならどう思う?とってもいい夜だと思わない?」


 返答はなし。

 怯えて声も出ないのだろうか。

 貴族が通う学校とかでは剣や魔法の授業があって最低限の自衛は出来るはずだが、実戦になると怖くて何も出来ないということは多い。

 対象もそれと同じかと思っていると、丁寧で流暢な少年の声が聴こえてきた。


「貴方は敵でしょうか?」


 護衛を押しのけるように出てきたのは、私より小さな金髪の少年。

 寝ているところに襲撃だったので寝間着だったが、それでも貴公子然としたものが滲み出ている。

 透明な翡翠の瞳は見通すように、じっと私を見つめていた。


「今は敵じゃないかな。私は貴方を殺すように依頼されたけど、一人じゃ難しい」


 それに睨みつけているお兄さんが怖いからね、と幼い子供を相手にするかのように言う。

 可愛らしい容姿をして小さいから、どうもそう侮ってしまう。


「……誰に依頼されたのでしょう」

「そんな安々と教えられるわけない。そのぐらい、分かるよね?」

「……愚問でした。では何故呑気に話しているのでしょう。僕を殺せないのならば、早く逃げればいいのでは?」

「それはね、興味があるからだよ。殺すように依頼されるほど、価値があるのか」


 威圧をかける。

 そうすると四、五人は立っているのも辛くなって、ガクガクとわかりやすく震えていた。

 他にも呼吸が激しくなったり、恐怖の色を瞳に映す。

 しかし私が予想していたのを上回って、四分の一は耐えきった。

 どうやら公爵家に仕えるものや兵は心の有り様が強いようだ。


 肝心の少年はどうかという、じっと私を見つめていた。

 手が白くなるほど手を握ってはいるが、怯えた様子を見せていない。

 大人でも青白く今にも倒れそうになっているのに、小さいのに肝が太いようだ。


「威圧をやめてくれませんか。皆が怯えています」

「いいよ」


 威圧をやめると、緊張が途切れてバタバタと倒れるものが続出した。

 威圧を受けても全く平気なものは、それでも私から注意をそらさない。

 無情なものだが、少年を守るのが一番重要なのだろうから。


「僕は価値ある人間でしたか?」

「うん。それはもう十分に。……君はいい貴族になれるよ。私達を雇った依頼主に対抗出来るぐらい」

「いいのですか?その話だけでも、依頼主だと思われる人物が絞れますよ」

「耐えきったご褒美だからね。それに報酬はなしだから、嫌がらせ。気の進む依頼じゃなかったしね」 


 悪い顔をすると、私を見ていた人達は皆びくりと怯えた。

 そんな猫での悪い顔は似合わなかったのかな。

 慌てて可愛らしく猫の表情を取り繕う。


「……貴方は不思議な方ですね。殺しに来たと思ったら違いますし、威圧をしたと思ったら急に褒める」

「気まぐれだからね。……褒め言葉かな?」

「そういうことにしておきます」


 気まぐれ、もとい猫のようだ(勝手に意訳)と言われると嬉しくなる。

 てれてれとしていると、地面を蹴る音が聞こえた。


「どうやら、時間だね」


 話しているうちに、仲間は皆逃げ終わったか死んだかで、かたがついてしまったようだ。

 多くの人がこちらへ向かってくる。


「誰か殺してほしいものはいつでも私に依頼をしてね。今日のことでお金に困っているから、誰であっても歓迎するよ」


 ぽんっと煙をサービスする。

 そしてバイバイという言葉を置き去って、私は人の目から逃れながら敷地内から脱出した。

次は少年視点の予定です。

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