真夜中の交戦
貴族から依頼された日時が近づいてきた。
集合場所に指定されたところに行くと、すでに今夜だけの多くの仲間がいた。
腕の良さはバラバラだ。
あきらかに金目当ての弱そうな人がいるし、ピリッとくるような強者の人もいる。
何人死ぬだろうか。
仲間内での連携は期待できない。
寄せ集めの集団みたいだし、初めて会ったばかりの者にそれを求められるのは酷だ。
となったら、個人が思い思いに好き勝手に動くだろう。
かく言う私もそうだが、そうなったら真っ先に弱いものが死んでいく。
わざわざ助ける気はないが、半分以上残ればいいほうかとメンバーを見て思った。
「おまえが最後だ。もう少し早く来れなかったのか」
誰だと思ったら、依頼主の貴族のもとに先導した子飼いの者だった。
「あまり気が進む依頼じゃないからね。前払いもないし」
「その話はすでに終わったことだ。諦めろ」
あの貴族と同様につれない。
しかし話してみるとさっぱりとした性格のようで、好感が持てた。
「私、危なくなったら逃げるからね」
「知っている。お前と私の立場は違うからな」
「……忠誠心が高いんだね。私にはよく分からないよ」
仕えたことはないから、命をかけてまで誰かのためにするという気持ちが理解できない。
私は自由に生きたい。
それでも誰かに仕える姿は美しく見えた。
「名前は?」
「どうしたんだ、急に」
「聞いていなかったなと思って」
「……ハンナだ」
「やっぱり女の子だったんだ」
可愛いねと言うと、ハンナはそっぽを向いた。
耳が赤いよと指摘してくすくすと笑うと、「おまえはどうなんだ」とじろりと睨んだ。
「リミだよ。ハンナはあまり死んでほしくないから、危なくなったらなるべく助けてあげるね」
「そんな暇があるなら、暗殺のほうに集中して欲しいものだが」
「物事には優先順位があるんだよ」
にっこりとしてやると、深いため息をされた。
よくエゾやグラマにもされるのだけど、皆深刻な悩みでもあるのだろうか気になった。
*
金属同士が交わって起こる音がそこらじゅうでなっている。
闇の中で動くことに慣れていて数も多いはずの暗殺者達だが、相手は質が高く着実に侵入者を倒している。
それでも私達のような実力者は負けてはいないので、膠着した状態となっていた。
「次から次へとうっとおしい!やっぱり受けるんじゃなかったかな」
張られている結界を一部無効化にして侵入したものはいいが警報があって直ぐに気付かれてしまい、現在は庭で交戦中。
さっさと屋敷内へ行きたいが、次々とやってくる兵のせいで出来ない。
早くしないともっと多く集まってきて不利になってしまうが、あぁもうめんどくさい。
私は目の前のやつを持ち前の速さでたたっきり、持っていた大剣を奪う。
めちゃくちゃ重いがそこは魔力で強化をしてなんとかし、兵が多そうなところに適当に投げた。
そうすると慌てて避けたり直撃したことで、屋敷へ行く道が開く。
「先に行くよ!」
他の暗殺者に聞こえるよう声をあげ、呆然としている兵達のすぐ近くと通り過ぎる。
その後にようやく私が行ってしまったのに気付くがもう遅い。
後を追ってくるが徐々に距離を離していく。
「止まれ!」
屋敷の玄関前で幾人かが剣を構え立っている。
それだけではなく魔道士がいて、待機状態にあった魔法いくつか放ってくる。
私は服を焦がしながらも避ける。
他にも風で切り込まれたがかすり傷程度。
大きな被害は火の魔法が立派な木に直撃し、煌々と燃えていることだろうか。
「何やってるんだバカ!」「うわーん、ごめんなさい!」とそんなやり取りがされる中、私は魔法を発動し闇に溶ける。
意識が木に向いた瞬間だったので、一名を除き私のことを見失った。
私はすぐさまその一名にダガーを投げつけたが、防がれる。
「目を閉じて!」
魔術師が闇を照らし尽くすほどの光の魔法で、私が発動させた魔法は効果がなくなった。
もう一度発動させても、相手が私の姿を発見する方が速いので意味がない。
舌打ちをする衝動に駆られていると、数名の暗殺者が私のところにやってきた。
「遅い」
「ついてくる兵を減らしていたんだ」
黒っぽい服を着て顔も見えないので誰が誰だか判別出来なかったが、ハンナがいるようだ。
「ここは私が残って相手をするから、他の者は行け」
「一人じゃ無理だよ」
「俺達も共に残る。それでいいだろう」
ハンナを含めて三人になった。
二人はあの貴族の子飼いで、直ぐに名乗り出たことからハンナが慕われていることが分かる。
これだけだと不安だが、元々少ない人数だからこれ以上は無理だ。
「死なないでよ」
ハンナも連れて逃げたい気分だ。
しかしここまで頑張ったんだから依頼料は欲しいし、逃げるだけなら簡単だ。
私は残る者と共に、ハンナ達が魔道具を用いながら相手の気を引いている隙に屋敷へ侵入した。