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光と影の世界

 眩しい世界だ。

 視覚的にも、精神的にも。


 道を行き交う人々は、皆どこか楽しそうだッタ。

 恋人と笑いあったり、おいしいねと屋台で買った焼き鳥を食べたり、きょろきょろと瞳を輝かせながら辺りを見渡していたり、忙しそうに表情をころころ変えている。

 日陰者の私達によく見られる暗い表情など浮かべない、幸せに満ち溢れたキラキラした世界。



 私は魔法で猫に変身して、その世界の片隅を見ていた。

 正確にいうと、王都の大通り。

 王都には光がある反面、もちろん闇もある。

 光が強ければ強いほど反対も大きくなり、様々な思案が渦巻く。

 そんな場所は依頼が多いので、私は王都を中心に暗殺者として活動している。


 にゃぁ、と時々鳴きながら歩く。

 こんなことをしている目的は情報収集だ。

 歩いているだけで人との会話が聞けるし、動物相手に愚痴をいう男からもポロッと有益なものが聞ける。


 猫の姿とは便利なものだ。

 警戒されることはなく、簡単に情報が集められる。

 流石に自分の容姿と同じ色の猫にすると、不吉がられたり、裏や表でも有名になってしまった私だと感づかれてしまう可能性があるので、魔力をいつもより消費して白猫にはしているのは面倒だが。


 だが昔よりかは、情報収集はやりやすくはある。

 白猫の姿はふわふわとした毛並みを意識しているので、触りたいという人が続出する。

 さらっとした毛並みで体のラインが分かる黒猫のほうが私的には好きだが、白猫のほうが万人受けはいい。


 閑話休題。

 現在はお喋り好きの屋台を営んでいるおばちゃんから話を聞いている。

 暇つぶしに猫の私に話しかけているようだが、これが長い。

 わざと客が少なくなるような時間帯に行っている弊害であるが、表側で情報を得る最大の相手だから、丁寧ににゃあにゃあ相槌を打てばいっぱい一人で話してくれる。

 それがお気に召されたのか、一度連れていかれそうになったほどだ。

 いくら可愛い猫で健気だとしても、猫には十分の食事量だと人間の私には足りなく、なんだか目がキラリと狙いを定めるかのように見てくるのが怖ったので慌てて逃げたのだが。


 そんなことを考えている傍らでも、おばちゃんの話は続いている。

 中には今一番知りたかった傭兵崩れの話があった。

 なかなか傭兵として有名だったらしくて、詳しい情報だ。

 名前はザハロスといい、人を甚振ったり殺すことに快感を覚える奴だったようだ。

 そのことで捕まえられそうになったところを、盗賊とかした農民を率いながら逃げたり撃退したり、村を襲ったりしていたらしい。


 そんな連中がどうやって侵入したかは知らないが、この王都内にいるという噂が広まっているらしい。

 おばちゃんは「不安だわぁ」と困ったようにしていたが、私に出来ることはない。

 王都の治安維持に尽力している人達に期待して欲しい。



 客が一人来たところで私はおばちゃんのところから去る。

 こういうときに離れないと、いつまで経っても話し相手として捕まえられ続けるからだ。

 貰った魚を加えながら、ぽてぽてと歩く。

 やはりおばちゃんの話の後は疲労が大きい。

 最後の情報収集相手にしていて良かったと思った。



 私は大通りから細い道へと曲がる。

 弱者が多くいる暗い道だ。

 そんな場所には生きるのに必死な者がいた。

 猫の私でも食べ物と認識しているような少年。

 その妹なのか寄り添ってじっと私を見ている少女。


 そんな彼らに私はぽんっとくわえていた魚を目の前に置いた。

 少年は奪い取るようにさっと魚を取り、猫の私をじいっと見た。

 にゃあにゃあ別に食べていいよと声と半歩下がることで示す。

 そして彼らは魚を食べることに夢中となった。


 注意が向いていないことを確認して、変身をとく。

 私は手持ちに自分用で持っていた小さな果実も彼らにあげた。

 差し出した手にびくりと反応し、私がいつの間にかいたことに目を大きく見開いて驚いていた。

 あまりの驚きようだったので、私が暗殺者だって分かったかもしれない。

 けれども素直に受け取った。

 甘いものは久しぶりだったのか目を輝かせ、少女にいたっては涙を流していた。

 私は二人の頭を撫でた。


 こんなもの偽善だ。

 一時の食を与えられたって、未来が良い方向へ変わるわけないってことを私は知っている。

 けれど毎回頼りない小さな体で生きようとしている姿を見ると、昔の自分を重ねてしまうのだ。

 だからだろう。

 何もせずにはいられなくなる。

 そして「頑張ってね」と言って別れる。


 私は最後まで助けられない。

 自分自身も生きるのに必死で、いつ死ぬかも分からない腐った仕事だ。

 私は狙われることが日常茶飯事だから危ないのだ。

 だから、いつか救いがもたらされるよう、少しでも生きながられるようにと食べ物を与える。


 そうすることが、私に出来る最大限のことなのだから。

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