王城での戦い②
私は息を止めるようにと二人に合図をして、痺れ玉を魔道士を狙って投げ、ノイを抱えて走り出す。
「くそっ、やられた!」
「息を吸うな!動けなくなるぞ!」
投げた痺れ玉の効能は一回息を吸うだけで、私がうけた電撃よりも体が動けなくなる。
それは広範囲なものなので、多くの人が立ったままになったりバランスがとれなくなり床に倒れ込んだ。
「ノイは生きてるー?」
「うん。気絶してるだけだよ」
ネロが息を切らしながらも心配そうに聞いてくるので、安心させるために言う。
「師匠、血が……」
しかし、私の傷をセラグが指摘したせいで、安心にさせることはできなかった。
「私のことはいいから、自分のことだけ考えて」
そう言うが、二人とも泣きそうになっていた。
その様子に頭を撫でてあげたいが、片手にはノイを抱えてもう片方はダガーを持っているせいで無理だった。
「おいっ、リミ!」
聞き覚えがある声を聞き、視線だけで声の主を探すとエゾだった。
他にも二人エゾの仲間らしき者がいる。
「お前、怪我しているじゃねえか!」
「貸せっ」と奪われるようにして、エゾの元にノイがいった。
「ちょっと、大切に扱って」
「分かったから、んなことより、血が流れすぎてるぞ!」
「このぐらい、平気っ」
「強がる前に、さっさと血止めろ!」
確かに止血をしていないせいで、床に血が落ちるぐらいの出血量になっている。
刺されただけかと思っていたが、ノイを助けようと気にせず動いたせいで傷が大きくなっていた。
私はひとまず服の袖を破り、ぐるぐると手早く強く巻いておく。
「ねえ、依頼は達成したの?」
「失敗だ。今回のことが事前にバレてた。王は偽物だったし、俺らが後手に回っている」
だから対応が速かったのか。
一部のグループが見つかってしまっていることは数の少なさから思っていたが、情報がそこまで漏れていたとは。
雇う人数が多かったからとエゾはそのことを予想していたようだったが、それなら私に教えてくれても良かったのに。
他にも話を簡潔にまとめられたのを聞くと、今はまだ私達が逃げれるほどの劣勢らしい。
それほど詳しく情報が漏れていた訳ではなく、私達襲撃者が相手の予想以上に多かったからだ。
塀の外からの襲撃は完全に予想外で、そっちの対応もあり人手不足らしい。
「詳しいんだね」
「まあな。それに、騎士が言ってたからな」
こうして話している間にも、騎士や魔道士を対応している。
中にはドレスを来た女の人が剣で斬りかかってくるので、驚きだ。
しかし避けまくっているエゾを除くが、二人エゾの仲間が増えたので立ち止まるということはなく、逃げるのをとにかく優先していたので、あっという間に窓まで到着した。
「先行ってて!足止めする」
私はそう言って、立ち止まる。
エゾは二階の窓から飛び降りている最中だったので、目を見開いて私の行動に驚いているようだった。
「この、バカ野郎!死ぬんじゃねえぞ!」
今までの私は自分第一だったので驚かれても仕方ないが、私は死ぬつもりで残った訳ではないのだから、そこまで言わなくてもいいのに。
心配してくれているのだろうが、言い方どうにかならないとかと思った。
エゾの仲間はチラリと私を見た。
あの人達は途中でバテ初めていて走るのが遅いネロとセラグを担いでもらっているので、二人をお願い、と目で訴えた。
「嬢ちゃん、死ぬなよ!」
「直ぐに来いよ!」
見事伝わったようだが、だから私は死ぬつもりで残った訳ではない。
不満に感じたが、足手まといとなっている弟子を見捨てることなく当たり前のように助けてくれた二人なので、まあいっかと許す。
ただエゾは後で殴っておこうと思った。
よし、と気合を入れて武器を握る。
そんな私を警戒して、何人かの騎士と魔道士が見ていた。
私がここで残らないと、こいつらも一緒になって窓から飛び降りていたことは想像が付く。
夜会の会場を見渡すと、偽物だった王を囲んでいた襲撃者は捕縛されているか殺されているかで、残るは私達しか脅威な者は残っていなかった。
窓の近くで立っていて剣戟の響きは遠くで聴こえてくるので、まだ塀の外から攻める襲撃者は残っているようだが、呻き声や悲鳴から決着がつき終わるのはもうすぐだった。
だから、外へ応援を駆けつける必要はなく、目の前の脅威を片付ければいいだけなのだ。
私は自身の特徴的な黒髪と金の瞳をさらけ出していた。
有名な暗殺者の私なら、放って先に行った弟子やエゾ達を追いかけないと分かっていた。
ただ、誤算なのがエゾの仲間が抱えて行ったと思っていたセラグが隠れるようにして残っていたことだろうか。
名前を呼ぶと、「…バレた?」とトコトコと私の元まで歩いて来た。
「なんで、エゾ達と行かなかったの?」
「だって師匠、死ぬ気なんでしょ。だから救いに来た。おじさんもいいよ、て送り出してくれた」
確かセラグを抱えていたのは「すぐに来いよ!」と言っていたほうのエゾの仲間だった気がする。
唯一、一人だけ死ぬなよと言わなかった人だから、私の気持ちは伝わっていたと思っていたが、そうではなかったらしい。
「……師匠、心配しないで。僕、凄いの持ってる」
今から戦うぞという雰囲気を前に、マイペースに話しているセラグを、戸惑いながらも騎士や魔道士は待ってくれるらしかった。
詠唱や私に対しての応援が続々来るのでただ待っているだけではないが、この人数を相手だと時間はセラグのおかげで稼いだが、
魔道具を切らしている私には逃げきれるかが半々なので何かあるのならなんでも嬉しいことだった。
「ほら、これ。威力特大」
「ひっ」
引きつった声を出してしまった。
私が準備して渡していた小爆発させるものが出てくるのかと思っていたが、バチバチと今にも破裂しそうな巨大な爆弾だった。
凄いでしょ、とドヤァとしているが、そんな場合じゃない。
どこからそんなもの拾ってきたの、と問いかける前に、私は爆弾を奪ってとにかく遠く遠くへと思いっきり投げつける。
そして「……え?」と不思議そうにしているセラグを抱えて、窓から飛び降た瞬間、巨大な爆発音と共に外へと吹き飛ばされた。




