ハンナを通しての依頼
「……予知していたのか」
人気がない道で堂々と待ち構えているとハンナが開口一番に言った。
「そのぐらいは分かるよ」
仕事以来の再会だが、ハンナは昔と変わった様子はなかった。
元々成人であったことや性格が見ないうちに変わるなど、そうそうないことなのだから、それもそのはずなのだが。
「お前も……そう変わらないな」
「なに、その間」
「……特に意味はない」
そうは言っても、背が低いと思っているのはバレバレだ。
隠す様子のない視線で、明らかに同情されている。
話はそこそこに、場所を建物内に変える。
その際に何人かの気配もついて来た。
「誰もいない?」
ハンナの仲間らしき人達はこそこそ隠れてはいるが、貴族らしき者はいなかった。
話を聞くと、私がいると思った貴族は来ないそうだ。
私を相手にするほど時間がないらしい。
それなら昔直接会ったことはどういうこと、と若干イラっもしながら問うと噂でよく聞く暗殺者に興味があっただけらしい。
イディスは例外として、貴族はやっぱり自分勝手な奴らだ。
「おい、仕事の話に入るぞ」
ぶつくさ文句を言っていると、怒りのこもった声で言われる。
私からだと嫌な貴族だけれど、ハンナからだと忠誠を尽くす相手に目の前で文句を言われている状態だ。
さすがに配慮が足りなかった。
隠れているところから殺気が突き刺さるので、殺されることがないよう一言謝った。
仕事内容は難しいを超えるものだった。
前回の公爵家に侵入して殺すというのもそうだったが、今回は王城に忍び込んで王を殺せだ。
なんて無茶苦茶依頼だろうか。
殺すまでの道筋は貴族を使って手助けするらしいが、王殺しの大罪を犯せとは。
難易度が高すぎる。
仮に依頼を達成しても、逃げきることができるかどうか。
「私、この依頼は受けない。無理だよ」
「やはりそうか。だが、王が死ねば国が混乱して依頼が増えるぞ」
「お金に困ってないよ」
他にも色々と誘い文句をされるが、無理なものは無理だ。
依頼を受ける魅力がない。
しかしハンナの主の貴族はこのことを分かっていたようだった。
「エゾ、という男がその依頼を受けていてもか?」
「……」
「お前が面倒を見ている子供も受けるぞ」
「……そんなにも私をやらせたいの?」
「人手は多い方がいい。実力者なら尚更だ」
卑怯だ。
エゾだけなら依頼を受けなかったと思う。
覚悟をもって仕事をしていて、難易度が高すぎる依頼を受けているのは以外だが、ソロではなく集団で組んでいるので自分の意見が通らなかったのだろうと予想がつく。
それにエゾはそう簡単に死ぬとは思わない。
だが、私が面倒を見ている子はだめだ。
才能があるもので生きたいと思う子を、私が暗殺者になるための技術を教えてくれた師匠のように最近は面倒を見ている。
そのぐらいの余裕が出てきたし、誰かが犠牲となる暗殺者としても身近な者は生きていて欲しいと思ってやっている。
一年ぐらいの付き合いの子達だが、愛着が出ている。
「……死ぬことになったら、雇い主を殺しに行くから」
私も死にたくないが、それ以上に私より幼い子達が死ぬのは駄目だ。
強い殺気を帯びて睨む。
「やれるものならな」
ハンナは一瞬だけ体を膠着しただけだったが、そう言って隠れている者を連れて去っていった。
「……準備しなくちゃ」
今から面倒を見ている子達を依頼を受けないように止めてもいいが、きっと止まらないだろう。
意地っ張りなところがあるから、力づくでやっても隙をつかれる可能性がある。
それなら依頼を受けて近くで見ていたほうが安心する。
そのために魔道具でもなんでも役に立つものを揃えないと。




