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公爵家の夜会

区切りが悪いです。

 ふわりとスカートの裾が舞った。

 次の新月の日に着てくるようにとイディスから送られたドレスは、私には慣れないものだった。

 色が黒いという点はいいのだが、なめらかなことや刺繍が入っていること、普段はズボンばかりだったことが私を落ち着かせなくさせる。

 ただ重たくないことが幸いか。

 今見ているような貴族のようなドレスと違ってシンプルで軽く動きやすい、ワンピースに近いものであったから。



 いつもより早い時間にと指示された通りに来たのだが、公爵家は夜会を開いているようだった。

 私は庭で貴族が談笑しているのを塀の上から眺める。

 キラキラとしていて、私が住むような世界とは別次元だ。


 その中でイディスは目立っていた。

 あらゆる女性に囲まれているのだ。

 キャーっという甲高い声をものともせず、にこやかに相手をしている。


 私はそれをしばらく見ていると、ふとイディスと目があった。

 笑みが深くなったので、気付いたと思う。

 そのことに話しかけていた女性は疑問に思って私の方を見るが、見つけられなかったようだ。

 魔法を発動しているからなのだが、これが普通なのだと再認識する。

 かなり本気で隠れているのだが、兵にも気付かれていない私を簡単にイディスは見つけるようになった。


 原理はよく分からない。

 他の者のは気付けないのだ。

 私だけっというのにプライドを刺激されて、年々私も隠れるのがより上達しているのに。



 イディスは女性達に何かを言ってその場を離れた。

 私は追うことにした。

 ずっと眺めてても暇なのだ。

 それに私と話すためだろうから。


 歩き続けていたのが止まったのは、夜会会場から少し離れたところだった。

 人がいないのが不思議なぐらい、多くの花が咲き誇っていて綺麗だ。


「イディス」


 少しぐらい驚かせたくて、背中の方から呼び慣れた名前を言う。

 しかしびっくりしたということにはやはりならず、ゆっくりとふりかえって私を視界に入れた。


 いつもはすぐに返事を返すのに、今日は様子が違うようだった。

 黙ってじっと見つめ、小さく何かを呟いた。


「……なんだか、とても久しぶりに感じます」

「そう?いつもと同じだよ」

「忙しかったから……かもしれません。最近は特にそうなので」

「確か、引き継ぎだっけ?」


 イディスは公爵家の当主となる。

 貴族が通う学園も卒業したからだ。

 現当主はまだまだ働ける年齢なのだが、領内の田舎で隠居したいらしい。

 任せられると思えるぐらい優秀なのだろう。

 噂でイディスの話があるぐらいなのだから。 


「そういえば、夜会抜け出して大丈夫だった?」

「はい。もう終わりに近いですし、僕以外に父達がいるのでリミと話すぐらいの時間はありますよ」


 そこから私とイディスは花を見て回ることになった。

 いつも屋敷ではイディスのところへ直行しているので、花の名前や花言葉を教えてもらいながらもゆっくりと見るのは楽しかった。


 いつの間にか手を引かれていたが、このようなことは何度かあったことだった。

 イディスは私を猫のように扱っているふしがあり、からかうことだって数え切れないほどあった。

 今回もそうだ。

 私は一つの場にとどまることはなく部屋の中でも歩き回っているので、それを先に阻止しようとしているのだ。


「花、綺麗だね」

「はい。……しかし、それよりもリミも綺麗ですよ」


 イディスの足が止まったので、必然的に私も止まることになった。

 昔から変わらない透明な翡翠の瞳に見つめられる。

 私はパチリと瞬いた。


「ドレス、とても似合っています」

「……そう?私なんかが着ても、服が可哀想なだけじゃない?」

「そんなことないですよ。それに僕が選びましたから」

「ふうん。恥ずかしくなかった?」

「プレゼントすると言ったので。それに仕立ててもらいましたから」


 それもそれで恥ずかしいものではないかと思ったが、貴族と暗殺者の考え方は違うことは今までもよくあったのでやめた。

 というかドレスはわざわざ仕立てたのか。

 返そうと思っていたが、ありがたくもらっておこう。

 大きい荷物にはならないし、お金に困ったら売ればいい。

 今日の記念ともなる。


「私も何かプレゼントしようか?」

「僕が勝手に行ったことなので、お返しということでしたら気にしなくてもいいですよ」

「借りをつくったようで嫌。それに私も何かあげたい」


 イディスは王都から自身の領地に移ることになる。

 王都に学園があるために今いる屋敷に住んでいるので、本当の実家といえる屋敷に戻るのだ。

 そしたら王都を拠点としている私はイディスと滅多に会えなくなる。

 だから友人としてお礼をしたいのだ。


「ほら、何かない?あまりに高価なものなら無理だし、ものじゃなくても私にできることならなんでもいいよ」

「……なら、一つだけ欲しいものがあります」


 言い溜めるような口ぶりだったので、身を乗り出してそれは何?と口を開こうとすると、ぐいっと腕を引き寄せられた。

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