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貴族は嫌な奴

 ドンッと私は苛立ちのままに机を叩きつけた。

 そのことによって、コップに入った氷がからりと音が鳴る。


「どういうこと」

「さっき言った通りだ」


 責める声に、店のオーナーのグラマはそれに臆せずに返した。

 しかし悪いと思っているのか、目線を下に向けている。


「……納得いかない。なんで報酬の額が下げられているの?依頼は完璧にこなして、こっちは非がないっていうのに」

「リミ、気持ちは分かるが少し落ち着けって。グラマに当たったって、意味がないだろ?」


 苛立っている私を髪と瞳が紺色の、特に特徴のない平凡な青年エゾがなだめる。

 エゾは私の数少ない友人だ。

 だが彼はグラマを庇っているようで、私にはそれがなんだか面白くない。


「……でも、依頼は大変だったんだよ。めんどくさい条件を出されていたし、前もった情報にはなかった質の高い護衛者がいた」

「でもお前ならそう手こずらずに出来ただろ?」

「まあ、そうだけど」


 それでも要らない苦労をしたことには違いがない。

 ぶーぶーと不満を言っていると、グラマさんは言い訳するように「相手が悪かったんだ」と言った。


「依頼主は貴族か?」

「ああ。『お前らみたいな連中にはこのぐらいで十分だ』て急に言ってきてな。ぶん殴ってやろうと思ったが、ヤツ自身は大したことはないが後ろ盾となっている貴族がヤバイ。事を荒立てたくなかったんだ」


 オーナーであり、裏稼業の仕事を依頼主との間に入って私達に紹介することで、グラマさんはお金を得ている。

 私はそのことを思い出して、同じ被害者だと考えればグラマさんへの溜飲は下がった。


「貴族ってほんと偉そうで自分勝手。皆首切っちゃえば死んじゃう、同じか弱い人間なのに」

「過激な発言するなぁ」

「綺麗事言ったって、今更過去にやってきたことは変わらないでしょ」


 私は暗殺者。

 人間を何十人、何百人も殺し続けて、お金を得て生きてきた。

 既に汚れた人間なんだから、過激なことを言ったってどうってことにもならない。


「とりあえず、次からその貴族の依頼は受けない」

「それが賢明な判断だな」


 二人は私に同意するように、うんうんと頷いた。



「グラマ、ケーキちょうだい」

「ケーキは取り扱ってないぞ」

「依頼料を下げられたお詫びとして出すんだって」 

「お前……まだ怒っているのか?」

「もちろん」


 貴族のせいだということ分かったが、それとこれとは話が別だ。

 報酬を下げられたのはグラマの仕事の不手際で、こちらにも被害が出ているのだからお詫びはあっていいはず。

 グラマには暗殺者になり始めたころからの付き合いだから、優しい手段でかたをつけさせてあげる。

 私だったから良かったものの、他の人だったら仕事の信用を失う羽目になったかもしれないのだから、ケーキを買いに行くぐらい頑張れるはずだ。


「はぁ………少し待っとけ」


 グラマはそのことが分かっているのか、簡単に折れた。

 私はなるべく早くねと店の奥に行って遠ざかる背中に言った。


「何でケーキなんだ?」

「そんなの、食べたい気分だからに決まってる」

「店が閉まっているだろうに……可哀想だな」


 今が真夜中なことを忘れていた。

あっと声に出せば、「狙って言った訳じゃないのか」と呆れられた。


「いざとなったら自分で作るはずだよ。以前、食べたことがあるし」

「早くという注文には応えられなくなるけどな」

「え?ケーキってそんなに時間がかかるの?」


 料理はからっきししたことがない私は、ぱっと店で出てくるものといっしょに直ぐに出来るものだと思っていた。


「あのなぁ、見た目からして時間がかかるって分かるだろ?」


 馬鹿にするように見られた。

 エゾは裏稼業を行うとある集団の中で生まれたので、先達から教育を受けていて頭がいい。

 日常で使う文字ぐらいしか意味を知らない私とは大違いだ。


 それでも悔しいので「私より弱いくせに」と小さな声で言えば、エゾはイラッとしたようだ。

 バチバチと両者の間で火花を起こしていると「何をやっているんだ」とグラマが戻ってきた。

 その手にはおいしそうなケーキを持っている。


「……甘いものが好きだったの?」


 ケーキがあるには早すぎることに、後で自分で食べようとしていたものかと考える。

 知らなかった新事実に、申し訳ないことをしたなと思っていると、グラマは「違う」と慌てたように言った。


「言いそうなことを予想していたから、前もって準備していたんだ」

「必死になって隠そうとしなくてもいいのに……」

「ほんとはケーキ屋さんを開きたかったんだろ?」


 先程までは睨み合っていたが、共闘してからかう。

 そして額に青筋を立てぴくぴくとさせていたグラマが、ついに怒るために口を開いたところで、乱暴に扉が開いて多くの男達が店に入ってきた。

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