追求
新たに変えた拠点の近くで、またエゾと会った。
「これはもう偶然じゃないよね」
「確かに。運命かもな」
「それだったら良かったのにね」
私はエゾの足を引っ掛ける。
音沙汰もなく行動にしたので、受け身はとったが地面へと吸い込まれるよう倒れた。
「何のつもりだ?」
「分かってるくせに」
もう誤魔化すような言葉は要らない。
私は馬乗りになってとぼけているエゾの体を探る。
「ちょ、お前どこ触って……。やめろっ」
「いいからいいから」
ジタバタ暴れるエゾを抑えつけながら、お目当てのものを探す。
顔を真っ赤にして、女のような高い声を出さなくてもいいのに。
女性の免疫がなかったのかな。
「見つけた」
私が探していたものは盗聴することができる魔道具だ。
二つで一つの魔道具で、エゾが持っていたほうは音を拾うほうだ。
前見かけたときとは違う場所に隠してあったから、探し出すのに時間がかかった。
「これはなに?」
「……盗聴の魔道具だな」
「そうだね。けっこう魔力を消費すると思うんだけど、エゾはずっと使っているの?」
魔道具は使用しているのを示す小さな弱い光を発していた。
きっと今でもどこか安全な場所で会話を聞いている者がいるだろう。
「忘れていたんだ」
「まだ誤魔化すの?」
以外と口が固い。
口を割るために脅そうかと考え始めたとき、魔道具が点滅をし熱を帯びた。
「僕がエゾに頼んだのですよ」
「……バレても良かったのか?」
「そこまで期待や信用はしていなかったので」
「なら、さっさと吐けば良かった。リミがだんだん怖くなっていくからな」
魔道具は盗聴のほかにも通信できる機能があったようだ。
聞こえてくるのは少年の声で、どこかで聞いた覚えがある。
「誰?」
「……忘れていても仕方がないですか。僕にとっては強烈な記憶だったのですが」
しばらく思い出そうとするが無理だった。
記憶力は優れている方ではないし、わざわざ盗聴するような物好きは心当たりがない。
しかし子供でだ。
「公爵家の者、と言ったら思い出しますか?」
「んー……あぁ!あのちっちゃい子!」
「僕はそこまで小さくはありませんよ。少しあなたより小さいぐらいです」
不満な声が聞こえてくる。
確かに私もちびっことか言われたことがあってムカッてきたことがある。
でも名前は知らないからしょうがない。
寝ている時間に暗殺しにいくし、特徴さえ知っていれば名前など必要ない。
そう伝えると、イディスだと名乗ってきた。
ちっちゃい子というのが余程嫌らしい。
女の私でも思うから、当たり前か。
「エゾを使ってまで、私の何が知りたかったの?」
「リミ、俺だけじゃなく、尾行者も公爵家手の者だ。徹底的に調べあげられているぞ」
「……え」
そうまでされることを私は何かしただろうか。
ドン引きだ。
「あなたが他の侵入者と雇い主が違ったからです。トカゲのしっぽ切りのように、根本的な黒幕は分かっていませんので。なので探らせたのですが、接触はしませんし撒かれてしまいます」
「だからエゾに探らせたってこと?」
私は回りくどいことが好きではない。
直接聞けば良かったのにと思うが、雇い主のことは話せないので結局はこうすることが一番良かったのだろう。
多分私はエゾにそれとなく誘導されて、雇った貴族のことを話してしまった。
愚痴を話したぐらいなので重要な情報ではないが。
だが身体的特徴や声など、魔法を使えば一時的とはいえいくらでも変えれるので、そこまで情報を欲しがる理由は分からない。
一端の暗殺者だから、重要性は分からないのだ。
「私を調べたかった理由はなんとなく分かった。けど、そのせいで私は最近ストレスが溜まっているんだよね」
尾行されたり仕事を邪魔されたり、ずっと神経を尖らせる日々だった。
私は一応誠意を見せてくれたイディスに、一発殴っておきたい。
何でもかんでも殺しはしないし、女のパンチぐらい受け止めてほしい。
魔法で筋力は強化するけど。
「リミ、なんとなく今考えていることは分かるが、それは止めたほうがいいぞ。相手は貴族だ」
「それだと気がすまないっ。……じゃあ、殴る相手はエゾでもいいけど?」
「なんで俺!?」
「そんなの私を探ることをしたからに決まってるよ」
「俺だって好きでこの依頼を受けたわけじゃないっ」
取り敢えず、ごたごた言うエゾを殴っておいた。
我ながら見事なストレート。
エゾは「ひでぇ」と言っているが、こっちの方が被害を受けている。
「……気はすみましたか?」
「まだ物足りないけどね。貴族相手に宣言して殴りに行くのは難しいから、終わりにしてあげる」
「そうですか。ならエゾには感謝しなければなりませんね。あなたとは敵対したくはないですので」
「なら、もう関わり合わないでね。次同じようなことをされると、我慢していられるか分からないから」
「それは無理な話ですね。僕はあなたに興味を持ってしまいましたから」




