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尾行者

「まただ……」


 私は困っていた。

 毎日毎日飽きずにつきまとってくる、どことも知れない奴らに。


 魔力や気配を魔法でうまく隠しているようだが、相手が悪い。

 私からしたらバレバレだ。

 その魔法は安定させるのが難しいので魔力の揺れがどうしても起きてしまう。

 人間の手で完全にコントロール出来ることは出来るが、国のお抱えの魔道士の技量ではないと無理だろう。

 それに視線や殺気から、自分からばらしているようなものだ。

 私はそういうものには敏感になれるよう訓練されたので、どうしても未熟だと感じる。



 私はいくつもの視線を受けながら気付いていないふりをして歩く。

 そうして角を曲がったところで、全力で走る。

 尾行者はそれでも追って来る。

 それが仕事なのは分かるが、早いところ諦めてくれないかなと毎度思う。


 離れていく尾行者の中に一人だけ、私の速さについて来れる者がいた。

 そんな人はこれまでいなかったので、新たに投入された戦力だ。

 今日は依頼があるので早く撒きたいものだが、一筋縄ではいかないだろうなと憂鬱になる。


 一度、暗殺をしていた時に発見され邪魔をされたことがあって、依頼が失敗したことがある。

 同じことが起こらないようするためにも、手傷を負わせようと決める。

 相手はやる気満々のようだし。


 走っていた速さを落とさないよう後ろに反転し、驚く相手にダガーで切り刻む。

 つけられたのはかすり傷程度だったが、横幅の狭い道を選んだので相手が使う剣のリーチが長くて思うように扱えないことをいいことに何度も攻撃する。

 相手は強かった。

 私は真正面から剣を打ち合うことは得意としていないので、狭い道ではなかったら、逆にこちらが傷を受けていたかもしれない。


 相手は基本避ける戦法をしているが、隙を伺って剣で反撃する。

 一撃が重いので、ガチっと剣とダガーが交わると弾き返されてしまう。

 私は女で小柄なので力がないので、力負けしてしまうのだ。

 そのたびに衝撃が伝わり、手がビリビリと痺れる。

 しかし追撃をさせないよう痺れる手を無視してダガーで攻撃するので、また私が攻撃し相手が避けるというのに戻る。

 それが短い時のなかで繰り返されていた。


 結局、私は相手が怯むような傷すら受けさせることが出来ないまままた逃げる。


 剣が交わった衝撃を利用してそのままわざと後ろに飛び、今度は魔法を使用して風すら置き去りにして走る。

 仕事があるから魔力を消費したくないが、仕方ない。


 あの相手には魔法を使わなければ、逃げ切れないだろうから。


「くそっ、待て!」「それはこちらのセリフだっ」「一人で行動しては駄目ー!」とどこかで聞いたことがある仲間の声を聞きながら、なんとか今日も撒くことに成功した。


 *


「へえ、だから珍しく元気がなかったのか」


 私は依頼を終わらせた後、グラマにこれまでのことを愚痴っていた。

 お店でだらんと机に体を預け、空っぽのコップをストローでからからと遊びながらである。


「もう二週間ぐらい、つけられてるんだよ。私が何やったんだっていうの?」

「暗殺だろう?」

「そうだけどっ。たまには悲劇のヒロインぶったっていいでしょ」

「……相当疲れているな」

「だから、さっきから言ってるじゃんっ」


 グラマ相手に溜まりに溜まった鬱憤を吐き出す。

 こうでもしないと、明日からやっていけそうにない。


「もうこれストーカーだよね。集団の」

「あぁ、そうだな」

「適当に流さないでよぅ」


 私以外の客が見ているが気にしない。

 尾行させるよりかは格段にマシだ。

 だからグラマが哀れんだ目線を受けていることに、私は気付かなかった。


「リミは変なもんでもでも食ったのか?」


 ぐだぐたしている私を見て店に来たエゾは言う。

 グラマはちょうどいいと私を押し付け、そのまま他の客のところに逃げて行った。


「エゾ、聞いてよー」

「うわっ、俺も逃げ出したい」


 そうはさせないとエゾの腕を掴みながら、苦労を聞かせる。

 エゾは簡潔にまとめろというが、その態度はないと思い逆に長くした。


「……面倒くさい奴らに追いかけ回されているんだな」

「そうなんだよ!私の気持ち分かる?」

「あぁ分かりますとも」


 目が虚ろになりながらも、エゾは私に共感してくれた。

 こういうときこそ、持つべきものは友だと認識する。

 しっかり話を聞いてくれる人がいて嬉しいから。


「どこのもんに尾行されているのか分かっているのか?」

「目星はつけてるよ」


 貴族に依頼されて屋敷に侵入した次の次ぐらいの日からだから、公爵家の手のものだろうとは思う。

 それ以外には、あの強さやチームワークが出来る者達は思いつかない。


「一人二人だったら殺して楽だったのに」

「……裏のもん以外にはいないだろうな?」

「そのぐらいは確認してるよ。グラマに迷惑かけちゃうからね」


 お店にいるのは皆疚しいことをしている人間だけだ。

 エゾは小心ものだ。

 だからここまで生き抜けているのだけど。


「……いつまで続くのかな。私を尾行する意味なんてないと思うけど」

「命を狙ってくるわけじゃないんだろ?」

「そうだね。私の行動を見張っているぐらい」 


 今日みたいに打ち合ったりしたりしてくるが、それは一部の単独行動なだけだ。

 たいていの尾行する者は私が逃げると追いかけてくるが、逆に近づくと逃げていくから、公爵家の意向ではない。


「まあ、相手が諦めるまで頑張れとしか、俺には言いようがないな」

「そこは手伝うっていう気概は見せてよ」

「無理。リミ一人でなんとかしろ」


 エゾに見捨てられ、私はまた項垂れる。

 そしてジュースを一本頼み、グビッと一気に飲みほした。

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