姫様、チートの出番ですぞ!
「遂に辿り着いたわ。伝説通りなら、ここで私が勇者召喚を行えば世界を救う事が出来るのよね」
年齢は17程の金髪碧眼の美しい少女が、胸の前で両手を組み、目前に聳える白っぽい石造りの西洋古代神殿を彷彿させる建造物を見つめ、期待に瞳を輝かせながら囁いた。
「左様で御座います。姫様、爺はこの日を心待ちにしておりましたぞ。伝説の勇者の子孫である姫様が、御伽噺とまで言われていた伝説を遂に実現するこの瞬間を!」
涙を流し、語りながらも決して取り乱す事の無い、白髪の初老の執事風の男が深くお辞儀をした。
「では、早速中に入りましょう。行くわよ、セバス」
「はっ!」
やはり白髪の男は執事確定である。
セバス=執事は、何故か異世界も含み万国共通のテンプレであったのだ。
扉を開け建造物の中に入ると、真っ暗だった10メートル四方程の空間に自然と明かりが灯り、石造りの床に召喚魔法陣がぼんやりと浮かび上がった。
召喚するのなら此処でやれ!と誰でも分かる仕様になっていた。
二人は魔法陣の中心まで進み、金髪の姫は持って来た荷物から赤子程もある大きさの青く透き通る宝石を、執事のセバスは煌びやかに輝く白銀の美しい剣と盾を取り出し、背中合わせに立ち、目を瞑った。
「始めるわよ。セバス!」
「御意!」
金髪の姫から凄まじい魔力が溢れ出し、二人を翻弄すると同時に、持っていた青い大きな宝石と執事の持つ剣と盾が輝き出し、足元の魔法陣も共鳴するかのように輝き出した。
そして、その輝きは増し続け、遂に二人の姿が見えなくなる程の輝きとなり、二人は意識を失ったのだった。
☆ ☆ ☆
「・・・う・・ん・・?ここは?」
「おぉ!姫様。お目覚めですか!」
「セバス?・・・召喚はどうなったの?私、気を失ってしまって・・・っ!」
金髪の姫が目を覚まし、執事のセバスに話し掛けながら辺りを見渡すと、見慣れない風景が目前に広がっていた。
「セバス!これは一体どういう事?ここは何処なの?」
金髪の姫がセバスを掴み、問いただすが、セバスは困ったような顔をしながら顔を反らしてしまった。
「それは私が答えましょう。アリシア王女様」
セバスの背後から黒髪黒目の男が現れ、金髪の姫をアリシア王女様と呼んで話し掛けた。
「私は月影大和と申します。大和とお呼びください。それから、アリシア王女様のお名前はそちらのセバス様から聞きました」
アリシア王女が何か言いたそうな顔をしていたが、大和はそのまま話を続ける。
「まず、質問の答えですが、ここはお二人の住んでいた世界ではなく、地球という別の異世界です。勇者召喚をしたとの事ですが、結果として逆召喚となり此方に来てしまったようです。」
そして、大和はアリシアとセバスに二人が此方に現れた時の状況を伝え、二人からは召喚に至るまでの経緯を確認したのだった。
判明した事は・・・
言葉も通じるし、何故か文字も読めるようだ。
現時点では二人は元の世界に帰る方法が無い。
魔法陣は大和の足元に現れたらしく、大和が勇者の可能性が濃厚なので、向こうの世界に勇者は召喚されていない。
あちらはファンタジーな剣と魔法の世界で、魔王も居て絶賛暴走中らしく、勇者が居ないと多分ヤバイらしい。
伝承では、魔王は聖女が召喚した黒髪黒目の勇者に倒されたらしく、その後聖女と二人で国を作りアリシア王女の時代まで繁栄し続けているとの事である。
ちなみにアリシア王女の他に兄が三人居るが、召喚出来るのは聖女であるアリシア王女のみで、このままだと詰みらしい。
「アリシア王女様。私の国の異世界小説でも読んでみますか?現実の話では無いはずなので役に立たないとは思いますが、数だけは沢山持ってますので・・・」
大和が趣味で読んでいたという異世界モノのラノベをアリシアとセバスに紹介すると、何冊かはヒントになりそうな物があったようだ。
結局、しばらくの間、大和の家で読書する事で落ち着いたようだ。
☆ ☆ ☆
あれから三ヶ月が経った。
アリシアとセバスの二人はまだ大和の家で居候生活をしていた。
大和の家の両親が仕事で海外にいるお陰で出て行く必要が無かったのと、アリシアが大和を異性として意識し始めてしまったらしく、料理を作ったり一緒に出掛けたりすることで幸福感を感じてしまい、恋する乙女になってしまったのだ。
一方の大和は全くそんな気は無さそうで、セバスがガックリと肩を落とす日々を過ごしていた。
と言いつつも、元の世界に戻る為の準備も進めていた。
大和が自分が召喚された時に、念の為カメラに収めていた魔法陣を解析しつつ、改良を重ねていたのだ。
どうやらこの魔法陣は転移する際、肉体を移動するだけでなく、転移先に対応する為に肉体を改変していたのだ。
となると、アリシアもセバスもラノベから得た知識を反映したくなったようで、無限収納や鑑定眼、言語翻訳などのサポートチートや限界突破やステータス極大補正、成長速度極大補正の身体的チート、全属性魔法や武術系スキル、耐性スキル等詰め込めるだけ詰め込もうとするのだ。
現実は、ベースとなる肉体の基本能力がアリシアとセバスでは違うのでアリシアの方が遥かに強くなるだろう。
そして、魔法陣が完成し、遂に元の世界に帰る日を迎えた。
「ようやく私達の世界に帰る事が出来るわね。戻ったら忙しくなるわよセバス」
「はい、姫様の目の前でこのセバス、ひと華咲かせて見せましょう」
アリシアとセバスが瞳をきらきらさせながら嬉しそうに話している。
「アリシア、セバス。魔王は強いんだろ?頑張らないとな!チートまで盛り沢山だし問題無いだろ」
「当然ね」
「無敵なり」
大和もこの三ヶ月で打ち解けたようで、初めの頃とは大分口調も変わり、余所余所しさが無くなった。
「んじゃそろそろ行きますか?アリシア、セバス、準備開始だ」
「了解よ!」
「御意!」
大和が魔法陣の中心から二人に声を掛けた。
魔法陣の中央に三人が揃った。
「セバスがここで、アリシアがこの辺だな。よし、魔力は温存しておけよ。俺が注ぎ込むからな。みんな目を瞑って集中だぞ!」
大和が移動して、膝をつき、両手を魔法陣に乗せて魔力を全開で注ぎ込むと、魔法陣が光だし、濃厚な魔力で魔法陣内が満たされた。
「凄い魔力ね。流石勇者大和ね。期待してるからね!」
アリシアが目を開き、微笑みながら大和の方を見た。
「えっ?大和ぉー?どうして魔法陣の外に出ているの?」
アリシアが不思議そうな顔で大和を見つめる。
「だってこの魔法陣、元々二人用だろ?三人は無理だし、二人共帰る気満々だったからなぁ。まぁ、頑張れよ!」
大和があっけらかんと返答した。
「そうであった。このセバス、不覚である」
セバスが囁くと同時に、大和の魔力が高まった。
そして、大和はアリシアの方を見てニヤリと笑った。
「さぁ、姫様、チートの出番ですぞ!」
大和の声と同時にアリシアとセバスが光の中へ消えていった。
「えぇぇぇーーっ!私、大和のことGaーsuーk・・・」
アリシアの叫びも光の中へ消えていった。
☆ ☆ ☆
「何とか無事に送れたみたいね」
大和の後ろから抱きつき肩に顔を乗せながら話し掛けてきた金髪碧眼の美女。
たった今、光の中へ消えていったアリシアと似ているが、こちらの美女は髪が長く、大和の背中で変形している二つのモノの質量が圧倒的に上回っている。
アリシアよりも大人びており、お姉さんと言われたら信じてしまいそうだ。
もっとも、アリシアには姉は居ないが・・・
「そっちの方は・・・その様子じゃ問題ないか」
話しながら肩に顔を乗せている美女の方を向き、唇を重ねる大和。
「・・・ん・・っ・・n・ねぇ、大和?さっきのアリシアの気持ちに気付いてたんでしょ?私あの後向こうに着いた時、セバスの前で大泣きしたんだからね。本当に悲しかったのよ!大和と一緒に行けると思ってたんだから、あんな別れはもう嫌よ。まぁ、大和を上手く召喚してさっき届けられたからいいけど」
美女が頬を膨らませながら甘えた感じで軽く大和を睨む。
「ゴメンな、アリシア!でもさ、俺も大変だったんだぜ。いきなり異世界に飛ばされて途方に暮れてたらセバスとアリシアが凄い形相で追いかけて来たんだぜ。二人は俺の事知ってたけど、俺は初対面だったから本気で殺されるかと思ったんだからな!アリシアとセバスもその後に自分達が伝承の頃の時代に飛ばされたのに気付いて驚いてたけど、結局そのまま魔王倒して王国を三人で作ったんだよな。」
どうやら伝承になった聖女と勇者は今さっき帰ったアリシアと初めて召喚された若き大和のようだ。
「懐かしいわね。でも、20歳になるまで成長出来て良かったわ。」
アリシアはそう言うと、悪戯な微笑みを浮かべ大和の背中の密着度を高めた。
「出会った頃た比べると、弾力が雲泥の差ではあるな。ま、それは置いといて、まさか神格化してしまうとはね、びっくりだったよ。子供達の方が年上に見えてきた時に王位譲って正解だったな」
「セバスも神格化してるのに未だに王国を影から守ってくれてるものね。お陰で私達は私の故郷と大和の故郷と神界で自由に暮らせてるものね。有難いわね」
二人は遠くを見つめながらセバスの事を思い出していた。
「あっ、そう言えばさ、アリシアとセバスが召喚失敗した時代の魔王ってどうなったんだ?」
大和が思い出した時だった。
大和とアリシアの足元に魔法陣が現れ、二人は光に包まれて消えていった。
☆ ☆ ☆
「「セバス!」」
「お久し振りでございます。大和様、姫様」
久方振りのの再会に盛り上がる三人。
どうやら倒しそびれた魔王を同窓会を兼ねて討伐しようとセバスが企画して召喚したようだ。
三人は今、魔王軍約30万の軍勢の目の前に降り立った。
そして、セバスと大和が、
「「姫様、チートの出番ですぞ!!」」
そう言って駆け出していった。
そして、アリシアが、
「薙ぎ払え!」
叫びながら満面の笑みで極大魔法をぶっ放したのだった。
お わ り




