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契約の禊

作者: 篠川 霖雨
掲載日:2017/06/17

今から数千年も前の話、海には小さな人魚達が住んでいた。その小さき者達は人々から海獣種と呼ばれ問題なく共存していた。しかし、人間はある日を境に変わってしまった。種の1人が金儲けにしか目が無い人間に捕まった。その人間達は他国に海獣種を見せにいくと他国の人間は欲しがった。高く売れることを知った人間は海獣種を乱獲し始めた。海獣種はわけもわからず戸惑い、逃げる事しか出来ず1匹、また1匹と数を減らし続け遂には海は赤く染まりその海に海獣種が現れる事は無かった。



それから現在、海獣種がいたと裏の世界に情報が入った。石油王、マフィア、そして国までもが海獣種の捜索に躍起になっていた。それもその筈、海獣種喰らえば不老長寿の生命が手に入るとされていたからだ。髪は黄金と同じ価値があり、眼は盲目の眼ですら蘇らせ、そして血肉には不老長寿の生命。そんな話が彼らの中に流れたのだ。それは誰が聞いても欲しくなる代物だ。

そんなものが今自分の手の中にありそれを自由に出来るとしたら、君らはどうするだろうか。喜ぶか?悲しむは無いにしてもラッキーとは思うだろう。だが俺は、そんなラッキーは要らない。そんな状況必ずと言っていいほど嫌な事が付いて回る。それは多かれ少なかれ命の危機があるという事だ。俺は平和に平凡に暮らしているのがお似合いの筈だが、


「神様がいるならこんな運命無いだろぉぉぉ!!」


現在海獣種入りの瓶を籠に入れ自転車で全速力で爆走している真っ最中だ。後ろには黒い車が数台だろうか、追ってきているが後ろを気にしながら走れる器量を俺は持ち合わせていない。


俺、神無月真は海竜学校の二年生だ。平凡でそこら辺にいるモブで自慢ではないが俺は運が無い。厄介な事に毎度毎度巻き込まれており、今回も普通に自転車で登校していると突然マフィアの抗争に巻き込まれ今に至る。


「どう考えてもおかしいだろ……!!なんで俺が……!!」


そう呟き自転車の籠を見やる。瓶の中ですやすやと眠る青い髪の小さな海獣種。正直教科書でしか見たことの無い生き物だったがまさか実物を見れるとは思っていなかった。そんな呑気なことを考えているとマフィアの車が横につき窓が少しだけ開く。その隙間から拳銃の銃口がこちらを向きカチリと音が鳴った。


「それを今すぐ渡しなさい。差もなくば殺す」


それは間違い様のない殺気で動かしている足が震える。こういう時、海竜の生徒は自身の契約海竜を呼び出し危機を脱するのだが俺には契約海竜は居ない。今だに運命の海竜とは会えていないのだ。

俺もここまでかと思い覚悟を決め、目を強く瞑った。


『あきらめるの?』


何処からともなく声が聞こえてくる。その声は美しくそれでいて儚い声だった。声がまた問いかけてくる、諦めるのかと。俺は反射的に本能で叫んだ。


「……諦めたくねぇよ……!!」


『なら、私と一緒に海の底まで沈みましょう?』


突如海獣種が光り始め目を開けた。俺を見て優しく微笑むと突然、瓶が割れ俺の胸に飛び込むと鎖骨の辺りにキスをした。すると淡く俺の胸に見たことの無い紋様が浮かび上がり海獣種が再び微笑みかける。


『さぁ、契約の言葉を。それで私と貴方を縛って?』


頭の中には契約の言葉と海獣種の名前が浮かんでおり、俺はその声の言う通りに契約の言葉を叫んでいた。


「汝、我の問いかけに答えよ!!我、汝と契約しその力を解放せん!!汝に名を授ける!!我を助けよ!!【エーテル·プロフォール】!!」


契約の言葉を叫んだ後、俺の周りに突然水が地面から溢れ出てきた。その水は俺やマフィア達を巻き込みながら巨大な水の球になり、その場にいた者達を溺れさせた。


「(し、死ぬ……!!)」


俺は息が出来ず、そのまま意識が遠のいていった。

意識がなくなる前に見たのは淡く輝きながら優雅に泳ぐ海獣種の姿だった。



俺は気が付くと目の前には水の波紋がゆらゆら揺れていた。場所はよくわからないが俺が息できる程の空気が丸い形となっており溺死は免れたようだった。改めて周りを見渡すと何も無くただ静寂と日の光がゆらゆらと揺れているだけの場所だった。途方も無く暮れていると小さな何かが近付いてくるのに気がついた。よく目を凝らし見てみると先程まで瓶詰めにされていた小さな海獣種だった。

海獣種は俺の気泡の前で止まり一礼をしながら微笑えんだ。


「お目覚めですか?我が主君」


「え、あ、ああ……」


「はっ!!もしや何処かお怪我でも!?大丈夫ですか!?すぐに手当てを……」


「せんでいい!!」


ついつっこんでしまったが俺は慌ててここはどこだ、あれから何時間たった等、ありきたりな台詞を海獣種にぶつけた。海獣種は少し悩んだ後話す整理が出来たのか話し始めた。


「此処はそうですね、私が創り出した仮初の海とでも言うところでしょうか。そして主君がお休みになられてから2時間程度過ぎています」


「仮初の、海……?」


「はい、主君が契を結んで下さった場所に創らせていただきました」


ああ、頭が追いつかない。俺はもしかしなくてもとんでもない奴と契約してしまったのか。そしてハッとマフィア達の事を思い出した。周りを見渡すがやはり人の気配は無い。まさかと思い疑念の目で海獣種を見ると海獣種は察したのか少し溜息を付いた。それからどうでも良さそうにポツリと呟く。


「………彼等なら大丈夫ですよ、主君。主君を追って、いえ私を追っていた彼等はこの海の外に居ます。死んではおりません」


死んでいないという言葉に俺は安堵した。しかしそれも束の間、空間が揺れた。俺は目を凝らし辺りを見渡すと近くに爆弾の様な物が近づいてきていた。よく見てみると爆弾の様な物が近付いてきている。


「あれって、魚雷……?なんでこんな所に……!?」


「どうやら彼等が私を捕獲、殺そうとしているみたいですね。私はどうなってもいいのですが主君を傷つけられるのは許せません」


平然と自分はどうなってもいいと言い放った海獣種を見て俺は絶句した。よくよく海獣種を見てみると髪や服で隠れていたが尾や腹は傷だらけで体中がボロボロだった。俺はいつの間にか海獣種の近くまで行き肩を掴んでいた。いきなり掴まれ驚いた様子の海獣種に俺は一瞬迷ってから心のままに大声を発した。


「お、お前は!!俺のパートナーだろ!?だったら自分をどうでもいいとか言わないでくれ……!!お願いだから自分を大切にしてくれ……」


意味不明な言葉だっただろうと自分でも思いながら俺は力無くその場に座り込んでしまった。それをどう感じ取ったのか海獣種の小さな手が俺の頬にそっと触れ俺は顔をあげた。


「主君、主君は私をパートナーと言って下さるのですか……?」


海獣種、いやエーテル·プロフォールは悲しそうなそれでいて何かを得ようとするその瞳に俺は吸い込まれた様な感覚を覚えた。その瞳はもう一度人間を信じていいのかもう諦めなくていいのかそう問いかけている様に感じた。俺はその問に素直に答えた。


「当たり前だろ……エルは俺のパートナーだ。だから約束してくれ、俺の前で無茶はしないって!!俺はエルが傷つく姿は見たくない」


エルは俺の返答に目を見開きそして柔らかく笑った。フワッと俺から離れそしてくすくすと口を押さえながら笑っているのが見えた。


「主君、私をパートナーと言ってくれてありがとうございます。主君ならもう一度信じられる気がします。」


そう言うエルの後ろには先程の魚雷がもう目の前まで迫っており助けないとと思い立ち上がり手を伸ばす。しかしエルはそんな事も気にもせず魚雷を手で払うような仕草をした。途端に水流が生まれ魚雷がクルンと反対側を向き来た道を戻っていった。

俺はその光景を見てエルへ伸ばした手を固まらせた。ニコニコと伸ばされている手にエルは近寄り小さな手で掴み頬すりをした。

神様、俺はやっぱりとんでもない子と契約してしまったようです。

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