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異世界征服物語2  作者: COCO
第一章 天界編
9/21

#09 首

「因果?」


シェムハザは聞き返した。それにアスタロトは返答する。


「そう因果です。因果とはそれすなわち力です。カルマともいいます」


「カルマ?」


「そうカルマです。これから説明します」


アスタロトはシェムハザを前に熱弁を振るい出した。


「カルマとは、生涯の目標のようなものです。人であれ神であれ、魂を持つものすべてがこれを持ちます。つまり魂を持って生まれたものはその目標を達成するために生まれてきているのです。しかし!」


「しかし?」


「もし、目標がその者の能力では到底達成不可能なものであった場合、どうなるでしょう?」


「えっ?そりゃ達成できないのでは?」


「その通り!」


アスタロトは話を続けた。


「生とは、目標をなんとか達成してこそ意味があるのです。初めから達成不可能な目標を掲げた生など意味がないのです。つまり、誰もが目標をなんとかこなせるだけの能力を持って生まれてきているのです、すなわち!」



「今現在、彼があなたを上回る能力を持っているのは、持って生まれたカルマがあなたのものよりずっと困難なものだということです!」


ここまで説明して、ポカーンとしているシャムハザ。少し話が飛びすぎたと反省するアスタロト。


「まあ、つまり、困難な目標を持って生まれたやつは、強力な能力も持って生まれているということです」


それを言われてシェムハザが反論してきた。


「それって、才能のことなんじゃ?俺はあいつより才能で劣っているといいたいんすか?」


彼がそういうのも当然である。しかし、それをさえぎってアスタロトは続けた。


「彼の力は才能というにはあまりにも強大すぎる力です。しかし、あるのですよ、それを手に入れる方法が」


そして、彼はシェムハザに向き直り語気を強めて言った。


「手に入れるのです、その力を。その力の源泉『覇蛇の首』を!」


その言葉に異常な興味をそそられるシェムハザだった。





ヘルメスはアテナと対面していた。


「どこにいるんだい、あいつは?」


アテナはヘルメス相手に全く遠慮なく聞いてきた。


「カナーン地方の大天使の屋敷に匿われております。使用人として」


「記憶は?」


「過去生は憶えてないようです。私に気づきませんでしたから」


「まだ、誰にも気付かれてないんだろうね?」


「いまのところは。しかし、先だってアスタロトを撃退しました。その勇名はすでにカナン中に轟いております。彼の過去生がバレるのも時間の問題かと」


アテナはヘルメスの言を受けて、腕組みをして考え込んでしまった。


「なにか理由をつけてこちら側に引き取れないかな?『首のカギ』を放置しておくわけにはいかないよ」


「では、姉上、今回、私を救ったことへのお礼ということでオリンポスへの留学を持ちかけてはどうでしょう?それなら不自然なく彼をこちら側に引き寄せられます」


このヘルメスの提案に首を縦に振るアテナ。


「それがいい、その方向で話を進めてくれ。アテネの大学に特待生で入れてやるといってね」


ヘルメスはニンマリとした顔をして頷いた。アテナは続けた。


「それにしても、ペガサスの姫が生まれたときから怪しいと思っていたのさ。そして、彼が現れた。因果の糸が引き合ってるんだよ。おそらくこの天界のどこかに帰ってきてるんだよ、『首』が」


それを聞いてヘルメスが口を開いた。


「因果の糸に引かれ合っているのは2人だけではありませんよ。もう1人います」


「なんだって?!」


「アンドロメダも神族に転生していたようですよ。ユニコーン族の姫としてね」


「ぷっ、あの優等生がかい?!そりゃあ、あいつも大変だな。なにせ2人とも・・・」


「女難の相は相変わらずでしたね」


2人は大声で笑い出した。


その部屋の隅には、大きな穴の開いた盾と翼のついたサンダルが置いてあった。





ヘルメスがアテナを訪ねてから数日後。

ここはイカロス、ユニの通う学校。

シェムハザの殴り込み後の混乱も終息し、平穏さが戻ってきていた。

シェムハザの行方は分からないまま、彼の去就も棚上げされたままのようだった。

アスタロト、シェムハザを撃退したイカロスは、マスコミの注目の的であったが、学校側の配慮からイカロスの名が公になることはなかった。しかし、学生間の噂話を止める手立てはなかった。

噂話とは誰が学校の序列一位かという話だった。

もちろん一番はイカロスである。異論を挟むものは一人もいなかった。これが公然の事実となっていた。


で、ユニはというと・・・


「イカロス、帰りましょ!」


そう言いつつ、イカロスに強引に腕組みをしてくるユニ。

そうやって他の女子がイカロスに近づくのを防いでいた。

今やイカロスは学校中の女子から熱視線を送られていたからだ。


「ユニ、くっつき過ぎ」


「ダメ、あなたの警護をするように頼まれているんだから」


「ほんとにするの?」


「うふふふふっ!」


ユニは答えず、笑ってはぐらかした。


2人はそのまま、教室を出、校門外に待つ馬車に乗り込んだ。

この間までは2人とも徒歩で通学していた。しかし、今回の件でイカロスが注目を集めすぎてしまい、それはそれで問題となってしまっていたのだ。狙われて襲われでもしたら大変である。なにせ天界の『金の卵』なのだから。常に誰かしらに監視させておかなければならなくなったのだ。


「警護も監視もいりません」


イカロスはそういったが、周りの者がそれを納得しなかった。


「ユニが僕を警護するなんて、その過程でユニになにかあったらどうするんですか?」


このイカロスの問いに対してユニは


「そのときは私を守ってね!」


その答えに苦虫を噛み潰したような顔をするイカロス。


「あはははっ!」


笑い転げるユニ、彼女は初めからイカロスを守る気などないのだ。イカロスの方が圧倒的に強いのだから。

ただ、一緒にいる口実になるから警護を引き受けただけなのだ。


馬車のなかでもべっとりとイカロスにくっつくユニ。その表情は世の男たちをたちまち虜にするであろうものだった。そんなユニを愛おしく思うイカロスだった。


馬車がミカエルの屋敷に到着すると、2人は応接間に呼ばれた。


応接間に入ると、中にはミカエル、ガブリエル、ラファエル、そして異国の天使がいた。


「2人ともおかえり。今日はお前たち2人にお客さんが来ている。こちらにいる天使はオリンポスの方だ。先だってのアスタロトの急襲の際、命を助けられたとヘルメス様がゼウス様に申し上げたらしく、正式な礼状が出たのだ。そしてそれをわざわざ届けてくださったのだ」


それを聞いて、使いの天使に頭を下げるイカロス、ユニ。


「それでだ、是非、直接お礼がしたいということで招待状が届いている。ユニお前の分もだ。2人で行って来い。オリンポスへ!」


2人の顔がはじけ飛んだ。おそらく転生して初めてだろう、こんなにうれしかったのは。


「ただし、2人だけで行かせるのはさすがに心配だ。で、ラファエルに警護役について行ってもらう。2人も知っているだろうが、カナーン一の勇者だ。イカロス、さすがにお前でも勝てんぞ」


そういって笑うミカエル。

この場にいるものでこの招待状の意味がわかるものはひとりもいなかった。




ところ変わって、ここはアテナ神殿の一室。


「留学の誘いじゃなくてパーティの招待状送ったの?しかもアンドロメダの分まで、なんで?」


そうヘルメスに問うのはアテナである。


「実は僕、カナン離れる前にイカロスを誘ったんですよ、オリンポスに来ないかって。そうしたら彼女を守れなくなるからって断られちゃったんですよ。だから単独での留学の誘いをかけても乗ってこないと思ったんです。なら2人とも留学させちゃえばいいと思ったんですけど、イカロスはともかくユニまで同じ条件で留学させるのはさすがに無理がある。で、考えたんですけど、一回2人をこっちに来させて、こっちに留学したいと思わせちゃうのが1番いいと思ったんですよ。一時離れ離れになっても、すぐ一緒になれるとわかっていれば、イカロスも納得するだろうと」


「なるほど、イカロスと同時にアンドロメダまで留学させるのは無理だから、先に彼を留学させて、彼女は別の条件で後で留学させるってことね」


「はい、彼女も優秀ですから、そこそこの難易度の条件を課しても楽にクリアしてくるでしょう」


「まあ、あたしはイカロスさえ手元にあればそれでいいから。あとは任せたよ、ヘルメス」


「はい、姉上」


アテナは両手を組んで天井方向に上げ、大きく伸びをした。


「あ~疲れた。それにしてもイカロスなんて呼びにくいね。昔の名前で呼べないのがこんなに苦痛とは思わなかったよ」


「それは、僕もそうです。でもダメですよ。これが彼との約束ですから」


「『例え、わかっていたとしても教えないでほしい。過去は自分で思い出す』だったっけね」


「そうです、彼が思い出したものはいいでしょう。でも、思い出していないものは口に出してはいけません。この約束は彼の今世のカルマの一つです。因果に影響します」


「今、彼が思い出したものといえば?」


「ユニがアンドロメダだったということ。過去生において彼女と夫婦だったということだけです」


「は~~。はやく、前みたいに呼びたいな~~」


「いずれ呼べますよ」


2人の会話が終わりかけたところに、急使が現れた。


「申し上げます。海岸に流れ着いた漁船から石化した漁師が見つかったとのことです!」


それを聞いてギョッとする2人。


事態は急を告げていた。

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