#07 夢
美しい女性がいる。
こちらを見て微笑んでる。
その笑顔からは周囲を明るく照らすような温かさを感じる。
だが、その背後に、
それとは正反対の黒い影があった。
それはシルエットは女性であったが、黒いモヤモヤでできており、四つん這いになって這っていた。
その影からは、悪意、嫉妬のような感情が溢れ出していた。
ジリジリと美しい女性に近づくと、影は彼女に飛び掛かった。
それを見て驚く女性。
そして次の瞬間、イカロスは目を覚ました。
(夢だったのか…)
イカロスは汗びっしょりであった。
「どうしたの、イカロス?」
隣で寝ていたユニが目を覚まして語りかけてきた。
「うん、なんか変な夢を見てね・・・」
「あなたが夢にうなされるなんて、余程怖い夢だったんでしょうね・・・」
ユニはイカロスに抱きついてきた。
2人とも人間なら小学校の高学年程度である。だがユニはここのところ成長が著しく女性特有の体の丸みが出てきていた。匂いもいい香りがしてきて、そんなユニに抱きつかれたら男は堪らないだろう。
一瞬、そんなユニに気持ちを持って行かれそうになるイカロス、ハッと我に返る。
「ところでユニ、なんで僕のベッドにいるの?」
「えへへ、来ちゃった!」
ユニは少し恥ずかしがりながら、笑って答えた。
「マ、マズイよ、いくらなんでも。僕らまだ子供なんだし!」
「でも私たち夫婦よ。妻が旦那様と一緒に寝てなにがいけないの?」
「それは過去生の話でしょ!今はまた別なんだから!」
そういうイカロスにユニはまた抱きついてきた。そして耳元で呟いた。
「別なんかじゃないわ。私は今でもあなたの妻よ。これからもずっと・・・」
そういうとイカロスをさらに抱きしめだした。万力のような力で。
(絶対、ほかの女になんか渡さない、イカロスは私のもの)
などと、ユニは心の中で考えていたら、どんどんイカロスを抱きしめる力が強くなっていった。
「いっ、痛い!痛いです!ユニさん!」
さすがのイカロスもユニの怪力に悲鳴を上げだした。
すると部屋に明かりが付き、誰かが入ってきた。
「そこまでだ、ユニ。イカロスを放しなさい」
その声はユニの父ミカエルだった。
「小学生で夜這いかよ」
そう言うのはユニの叔父ガブリエルである。
「ユニ、そういうのはまだ早い。部屋に戻りなさい」
ミカエルは静かにユニに命令した。
「嫌よ、ここにいるわ!」
顔をプイッと背けて言うことを聞かないユニ。
「ユニ!」
今度はミカエルが本気で怒った。さすがにそれに逆らうことはできない。
「わ、分かったわ。おやすみ、イカロス」
そういうとユニは自分から部屋を出て自室に戻った。それを見届けるとミカエルはイカロスに向き直った。
「さてイカロス、過去生はどのくらい思い出したんだい?」
過去生は普通思い出せない。しかし、極稀に生まれながらにして憶えていたり、何かの拍子で思い出したりすることがあるのだ。それには大神の意志が隠されていると言われていた。
「それが、ユニを救い出して結婚したということだけなんです。それ以外のことは全く思い出せないんです。なぜ彼女を救い出すことになったのか?とかは思い出せないんです」
イカロスは真剣な表情でミカエルに答えた。その目には不安と焦りが見えた。このことが自分にとってどんな意味があるのかわからないからだ。
「そうか。だが、それだけではなんともいえんな。それが一体何を暗示しているのか・・・」
ミカエルも黙り込んだ。
「兄者、イカロス、明日も早い。そろそろ寝たらどうです?」
黙り込んだ2人にガブリエルが助け船を出した。
「それもそうだな。イカロス、くよくよ考えていても仕方ない。今はここまでとしよう」
そういわれて、イカロスは無言で頷き、この会話は終了した。
ミカエル、ガブリエルはイカロスの部屋を出た。
「どう思います、兄者?」
ガブリエルが聞いてきた。
「さあな。余程の因果を背負っているんだろう。一体この先なにが起こるのやら・・・」
ミカエルは今後何らかの事態に巻き込まれるであろうイカロスが不憫でならなかった。
次の日、イカロス、ユニが登校すると、学校全体が異様な雰囲気に包まれていた。
「イカロス、大変だ!」
担任の天使が、昇降口でイカロスに駆け寄ってきた。
「どうしたんですか、先生?」
「シェムハザが、あいつがやりやがったんだ」
「なにをです?」
「殴り込みだよ!」
物語は加速し始めた・・・