#20 捕獲
フレイ、フレイアを連れて挨拶回りをするイカロスとユニ。
彼女たちの妖精のような可愛さの前に誰もが大喜びであった。
そして、ペガサス族への挨拶の順番となった。
フレイ、フレイアは型通りの挨拶をテンマ以下ペガサスの重鎮たちの前で披露した。
拍手喝さいの彼女たち。
「可愛いわね、イカロスさまの妹なの?」
テンマはイカロスに話しかけた。
「イカロスでいいですよ、テンマさま、彼女たちはユニの従姉妹です」
「そうなの、どうりで可愛いわけね。あ、あと、あたしのこともテンマと呼んでくれて構わないわ」
そんなイカロス、テンマの短いやり取りでもユニは気になって仕方がなかった。
「テンマさま、まだまだ廻るところがありますので、ひとまず失礼いたします」
強引にその場を離れようとするユニ。イカロスの手を引っ張った。
「あ、ユニさま、さっきイカロスとも話したんだけど、これから学校も一緒だし、お互い『さま』は無しでいきませんか?」
その言葉にピタッと止まるユニ。
(イカロス、なに余計なこと話してんのよ!)
内心腹立たしい気持ちで一杯だったが、顔に出すわけにはいかない。
「そ、そうですわね。クラスメートで『さま』付けは他人行儀過ぎですもんね」
「ならこれからはユニさまを『ユニ』とお呼びして構いませんか?」
「ええ、わたしもテンマさまを『テンマ』と呼ばせてもらいますわね」
そしてお互い微笑み合う。その光景は周囲からは同年代の微笑ましい場面に映った。
「では、今はこれにて」
ぺこりと礼をしてその場を離れるユニたち。
「あっ、あの!」
離れるイカロスに何か話しかけたようとするテンマ。
イカロス、ユニがテンマを振り返る。
「いえ、別になんでもないですわ。ごめんなさい・・・」
ユニや周囲の目を気にしてか、それ以上の接触はできないと思い、テンマは思いとどまった。
離れるイカロス、それを寂しそうに見送るテンマ。
2人の間には、目に見えない壁がそびえていた。
◇
ぱん!
ユニがイカロスのお尻を軽く叩いた。
「えっ?なに?ユニ?」
イカロスがユニに振り向いた。だが、ユニはふくれっ面で横を向いていた。時々、彼を見ては『フン!』と視線を逸らす。それを繰り返していた。
明らかに先ほどのテンマとの口約束に対して不満があると言っているのが分かった。
「さっきのテンマとのこと?これからクラスメートなんだし、構わないんじゃないの?」
イカロスの返答は正論である。だが、ユニにとってそれは違うのである。なにせ相手はテンマなのだ。
「優しいのね。いいなあ、あたしもペガサスに生まれたかったなあ」
ユニのこの一言にさすがのイカロスもカッとなった。普段どれだけ自分がユニに気を使っているのかわからない。それを彼女は分かってくれていないということなのだ。
「ユニ、僕はいつも君のことを1番に・・・」
イカロスがユニに強い口調で言いかけたその瞬間・・・
ガシャーン!
テーブルがいくつかなぎ倒された。
「やはり現れたか、女狐め!」
「そういうあなたもやっぱりですわね」
アルカイオスと彼女がにらみ合っていた。
◇
彼女は前触れもなくいきなりテンマの前に現れた。
そしてテンマの手を掴むと薄笑いを浮かべながら、その場を立ち去ろうとした。
もちろんテンマの周りにはペガサスの関係者が大勢いたが、警護の者が数人あっという間に彼女に投げ飛ばされると、それ以上手が出せなくなった。
他の警備員たちも殺到しだしたが、テンマが人質にとられているので、彼女の周りを取り巻くだけだった。
だが、
テンマの影が大きく膨らみ、大きな体が実体化する。
「姫、ここは私にお任せを」
そういうのはアルカイオスだった。
「やっぱり現れたのですね、ギリシャの大英雄さま」
彼女が呟く。
「そういう貴様もしつこいな、何度来ようとも姫は渡さん!」
アルカイオスは彼女からテンマを奪い返そうとした。テンマを抱える彼女の腕を力づくで掴みあげる。
その力に抗しきれず、テンマを離す彼女。
テンマはその隙に逃げ出した。
「アルカイオス!」
「姫、お逃げください。こやつは私が仕留めます!」
その場でにらみ合う彼女とアルカイオス。
アテネの再戦が始まった。
◇
「首・・・」
呟くイカロス、その目はいつものイカロスのそれではなかった。
「ユニ、フレイ、フレイアを頼む」
そういうと彼は彼女のところに行こうとした。
「待って、イカロス!今はダメよ!みんなをまず避難させないと!」
パーティー主催側の者として当然のことである。それに今はアルカイオスが闘っている。普通の神ならいざ知らず、彼は大英雄なのである。その彼の闘いに手出しをするような真似はタブー視されていたのだ。
「しかし・・・」
ユニの言葉は正論だ。しかし、すぐそこに彼女がいるのだ。心の中で激しく葛藤するイカロス。
ガシャ~~ン!
突然、巨体がイカロス、ユニのそばに降ってきた。その巨体はアルカイオスだった。
「アルカイオス殿!」
「イカロス殿か、不覚をとりました。気を付けられよ、やつは前回より強くなっております」
落ちた時、壊れたテーブルの部品が刺さったらしく、彼は大量に出血していた。
「アルカイオス!」
彼の名前を呼びながらテンマも彼に近寄ってきた。
イカロス、テンマ、ユニ、アルカイオス、フレイ、フレイアが一か所に集まっていた。
そこに
「いい様ね、大英雄さん」
勝ち誇った彼女が近づいてきた。
身構えるイカロス。
だが次の瞬間、突如、会場は闇と化した・・・
◇
「うひょひょひょひょ!やっぱり彼女が現れましたか!これでいいのです!これでアルカイオスが必ず出てきます。奴と彼女がやり合えば、ペガサスはフリーになる。その時こそがさらうチャンスなのです!ああ、なんて美しい作戦でしょう!」
ひとり悦に浸るアスタロト。
「そういうわけです、発射時は会場の照明を落としますんで、よく見えないと思いますが、ぶつかったペガサスをがっちり抱え込んでくださいね。それだけしてくれれば、あとはあなたの背中の蝙蝠の翼が自動的にそこから脱出してくれますから」
アスタロトは筒の中のシュエムハザに最後の確認をした。
「さあ、はやくひとりになりなさい、ペガサス」
アスタロトは双眼鏡で状況を観察していた。
しかし、
「なかなかひとりになりませんね~~」
会場ではアルカイオスと彼女が大立ち回りを繰り広げていたが、テンマはなかなかさらえるポジションに来なかった。ひとりになっても角度的に厳しかったり、2人の陰に隠れる場所にいたりでなかなか発射できなかった。
「困りましたね、このままでは・・・」
アスタロトが焦りを感じ始めたその時だった。
アルカイオスが吹っ飛ばされた、それにともいない、イカロス、ユニ、テンマがそこに集まり出したのだ。
「おお!いい角度です!そのまま、そのまま、ペガサス、もう少し!」
そして丁度、彼女がアルカイオスに近づいた瞬間だった。
「今です!照明を落として!」
その掛け声に応えて、会場の照明を乗っ取ってきた蝙蝠男たちが、一斉に照明を落とした。
会場はいきなり真っ暗闇と化した。
「ファイヤー!」
アスタロトはシェムハザを砲弾とした巨大空気鉄砲の発射ボタンを押した。
狙いはテンマである。
「うおおおおおお!!!!!!」
勢いよく発射されるシェムハザ。
彼は両手を広げた。
どさ!
両腕に柔らかい感触が伝わる。彼は思い切りそれを抱きしめた。両側から女性特有のいい香りがする。
そのまま彼の背中の翼は、彼らをその暗闇から連れ出した。
まさに一瞬の出来事だった。
◇
会場の照明が徐々に復活しだした。
「何だったんだ、今のは?それより彼女は?」
イカロスは周囲を見渡した。しかし、彼女の気配は完全に消え失せていた。
「アルカイオス殿!彼女が」
「はい、イカロス殿、どうやら逃げたようです。なぜかは分かりませんが」
怪我をし身動きがままならないアルカイオス。
「アルカイオス、大丈夫?」
テンマが彼を心配して寄り添っていた。
「姫、ご無事でしたか、また、してやられてしまいました。申し訳ござらん」
「そんなこと気にしないで、ありがとう、アルカイオス」
彼女は彼の腕に抱き着いて泣いていた。
そんな彼女をみながら、イカロスは後ろを振り向いた。だが、そこにはいつもいるはずのユニがいなかった。
「えっ?ユニ?フレイ、フレイア、ユニは?」
イカロスは彼女たちにユニの所在を訪ねた。よく見ると彼女たちは泣いていた。
「いないの・・・」
「え?」
「姉さま、いないの!」
そういうと2人は大声でワンワン泣き出した。
そして顔面蒼白となるイカロス。
「ユニーーー」
会場の夜の空に、彼の声が木霊していた。
ここは廃地下教会、アスタロトとシェムハザは今、ここにいた。
「大戦果といえば大戦果ですよ、これは。色々間違ってますが」
アスタロトがシェムハザに語り掛けた。
そう、2人の目の前には、気絶したユニと彼女が横たわっていた。




