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異世界征服物語2  作者: COCO
第一章 天界編
17/21

#17 転校生

次の日の朝、イカロスとテンマは徒歩で森を脱出。彼らを捜索していた者たちに保護された。テンマはすぐペガサスの屋敷の者たちに引き取られた。イカロスはアテナ、ヘルメスの配慮でマスコミに大きく取り上げられることはなかった。


ポセイドンがやられ、最強とうたわれたアルカイオスすら『首』を倒すことが出来なかったという事実は、オリンポスの首脳陣に衝撃を与えた。

同時に、『首』にさらわれたテンマを取り戻し、かつ『首』に手傷を負わせたイカロスの評価は急上昇していた・・・


ここはオリンポスの中枢、ゼウス神殿


「あ~~、あのくそ兄貴ポセイドンがいなくなって清々したぜ」


そんな不穏な言葉を吐くのはゼウスであった。


「父上、伯父上をそのようにいうのはどうかと思いますが?」


そういうのはアテナである。


「構わんさ、やりたい放題やってきて、石にされてりゃ世話ないぜ。お前だってそう思ったろ?いつも『あの馬鹿野郎が』っていってたもんな!」


このゼウスの発言に、アテナは肯定も否定もしなかった。


「それより、あの俺の息子はどうしてる?お前のところにいるんだろ?連れて来いよ!」


「はあ?誰のことを言ってるんですか?」


「とぼけるなよ!イカロスだよ、イカロス!あのアルカイオスより強い俺の息子だよ!」


ゼウスはあの事件以来、イカロスにぞっこん惚れ込んでしまっていた。彼があの『首』を追い詰めていたことを独自の情報網で知っていたのだ。そして過去生において自分の息子であったことが、それに拍車をかけていた。


「彼ならあの後、すぐにカナーンに帰しました」


あっけらかんと返答するアテナ。それを聞いて、愕然とするゼウス。


「帰しましたって!お前、そんな簡単に帰しちゃったのか!」


「はい、帰しました。マスコミのいいネタにされてしまいますので」


「マスコミなんかどうにでもなるだろ!なんで帰したんだよ、あんな大器を!我々の宝だぞ!手元に置いて我らの一員として育てるべきだろ!なにせイカロスは間違いなくあの子の生まれ変わりなんだから!」


もうイカロスを自分の物にしたつもりでいるゼウス。


「お言葉ですが父上、彼は今、カナーン側の神族です。で、あちら側としても、あまり長い間、彼を外に出しておきたくないようなのです。他所に取られちゃたまらないんで。本当のこと言いますと、今回、危ない目に合わせたことで、あちら側から『早く返せ』と言われちゃったんですよ!」


イカロスのみならずユニまで事件現場にいたということで、ミカエル、ガブリエルが卒倒しそうなほど心配したらしい。それで急遽、イカロス、ユニ、ラファエルの3人は帰国することとなったのだ。


それを聞いても諦め切れないゼウス、今度はヘルメスに話しかけた。


「そうだ!留学だ!確かイカロスを留学させるって話になってたよな?今すぐその話進めていいぞ!留学にかかる費用全部こっちで持つからっていってさ!」


そんなゼウスに言いにくそうにヘルメスが返答した。


「それなんですけど、先ほど、丁寧に断られました。イカロス、ユニ、両名ともまだ心身ともに未熟なため、外には出せないと」


口をあんぐりさせるゼウス。


「見事に先手を打たれてしまいましたね」


アテナも今回はお手上げだった。


「わ、わしは諦めんぞ!何としても手に入れてやる!」


虚しく吠えるゼウスだった。




血生臭い場所、そこかしこでみんなが戦っている。

そして軍団の先頭に立つのはイカロス、体中に返り血を浴びている。

向かう先には・・・


えっ?わたし?なんで?


(だめ!来ちゃダメ!来たら殺されるわ!来ないでイカロス!罠なのよ!)


それとわかっていても止まらない彼・・・


(ダメ!来ないで!本当に殺されちゃう!)


ハッと気が付くユニ。今のが夢だと気づく。


汗だくで、心臓はいまだドクドク高鳴っていた。


(またこの夢、一体何なの?)


ユニはカナーンへの帰国途中の宿泊所にいた。

あの事件で急遽、帰国となったのだ。イカロス、ラファエルももちろん一緒である。

そしてあの日以来、毎夜この夢を見ているのだ。

彼女はこれが何かの前触れのような気がしてならなかった。


(大神さま、お願い、イカロスをどうかお守りください)


ユニは、イカロスにこの先何か悪いことが起こるような気がしてならなかった。

だが、今の自分はこうして大神に祈ることしか出来なかった。



そして数日後、ここはカナーン、ミカエルの屋敷。



イカロス、ユニ、ラファエルはようやくアテネから帰ってきていた。

ラファエルは、今回の事件の報告があるため、すぐさまミカエル、ガブリエルのところに行った。

イカロス、ユニは荷物を部屋に運んでようやく一息ついていた。


「ふう」


イカロスは久しぶりに自分の部屋に戻り、ベッドに横になりこの間の『首』について改めて考えていた。

あのパーティー会場で、『首』と呼ばれていた女性がポセイドンを石にした。

そのあとアテナさまから『因果を吸われて石にされる』と言われた。

『因果』とはなんだ?

それに確か師匠に問われたとき、『首は僕の因果です』と答えた。

でもそう答えた自分がその意味をわかっていない。

なぜあの時そう答えたのだ?

自分の中にもう一人の自分がいるのか?


イカロスは結論の出ない自問自答を繰り返していた。


トントン・・


すると、不意に部屋のドアがノックされた。


「イカロス、いる?」


ユニが訪ねてきたのだ。


「どうしたの、ユニ?」

 

「夕食の後、いつものところで」


そういうとユニはすぐにいなくなった。


周りの目があるため、屋敷の中ではあまりじっくり話すことは出来ないのだ。

そのため何か話したいときには、屋敷の裏の森の奥にある泉に、こっそり集まって話すのが2人の決まりになっていた。


イカロスは夕食後、使用人としての仕事を終えると、こっそり泉へと向かった。

ユニは先に来ていた。一人で泉を眺めているようだった。だが、なんか様子が変だ。


(泣いている?)


そんな彼女の姿を見ていたたまれなくなったイカロスは後ろから声を掛けた。


「ユニ!」


その声に気づいた彼女は後ろを向くと彼に向かって走ってきた。

そんな彼女を抱きしめるイカロス。


「イカロスいなくなっちゃいや!」


「えっ?」


突然のセリフになにがなんだかわからないイカロスだった・・・





「少しは落ち着いた?」


イカロスがユニに声を掛ける。

泉の近くに寄り添いながら座る2人。


「とても怖い夢を見たの、あなたがいなくなる夢・・・」


「えっ」


「あの夜からずっとなの・・・」


そういうとユニはまた泣き出した。


たまりかねて彼女を抱きしめるイカロス。


「どこにもいかないよ、ずっと君のそばにいる。なにがあっても君を守ってみせるよ」


そういうイカロス。


しかし夢の内容が、自分を守るために彼が死ぬ、というものだということをユニは言えなかった。


「お願い、決して無理はしないで。誰かのためじゃない、自分のために」


ユニはそういうのが精いっぱいだった。


「ありがとう、ユニ。わかった、無理はしないよ」


「絶対よ」


「うん、絶対だ」


そのセリフを聞いて安心したユニ。

彼女はイカロスに正面から抱きしめられた状態で、またなにかしゃべり出した。


「ところでイカロス~~」


「なに?ユニ」


「あのテンマって子とはどんな関係だったの?」


固まるイカロス。


にこやかに笑うユニ。


彼が初めて彼女に恐怖を感じた瞬間だった・・・





「ペガサス族の始祖の生まれ変わり、ペガサスの女王。数千年ぶりに天界に転生してきた。そんなすごい方とどんな関係でいらっしゃったのかしら?」


その丁寧な口調がイカロスには恐ろしくてならなかった。しかし、答えないわけにはいかない。


「あの、ちょっとしか思い出せてないんですけど、高いところから落ちた時、助けてもらったんです」


「へ~~~、今回もそれで落ちるところを助けてもらったと?」


「そ、そうなんです」


「他には?」


「え?」


「他には思い出してないの?」


「思い出してないです!それだけです!」


「ホントに?別にいいのよ?あたし以外に奥さんがいても?何度も転生してるんだし」


その鋭いセリフに生きた心地がしないイカロス。


(嘘はついてない!決して嘘はついてない!ホントにこれしか思い出してない!)


心の中でイカロスはそう叫んでいた。


ジーっとイカロスを見つめるユニ。嘘をついているかどうか考えているようだ。


「まあ、いいわ。そういうことにしておくわ」


(あっちはアテネにいるわけだし、もう会うこともないだろうし)


そういうとユニはまたイカロスに抱き着いた。


「ねえ、イカロス?」


「はい?」


「新婚旅行はアテネ以外にしましょうね!」


そのセリフにビビるイカロス。


「ね!」


にっこり笑って同意を求めるユニ。


「はい・・・」


イカロスは承諾した・・・



だが、因果の糸は引かれ合う。そのつながりの強さはユニの想像を遥かに超えているのだ。


次の日の学校、イカロス、ユニの教室。


「ペガサス族のテンマと申します、アテネから来ました。どうぞよろしくお願いいたします!」


突然の転校生に戸惑うユニ、顔面蒼白のイカロス。


テンマはキョロキョロ教室を見渡し、イカロスを見つけた。

イカロスも彼女を見ていた。

ユニも彼女を見ていた。

因果の糸に引かれた3人が集結したのだった・・・


さらに


学校から、ずっと離れた小高い丘。

そこからは学校全体が見渡せた。

その丘から女性が一人、学校を眺めていた。


「見つけた」


彼女はそうつぶやくと、薄笑いを浮かべ、そこから消えていった。


そう、因果の糸は引かれ合うのだ・・・


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