#13 パーティーの惨劇 その壱
「アルカイオス、どうやら首が動き出したらしい。また犠牲者だ」
ヘルメスはパーティー会場の近くでアルカイオスと首の話をしていた。
「おそらく今回も目標はペガサスの女王『テンマ』さまだ。警備を厳重にしないと」
狼狽するヘルメス。しかしアルカイオスはまったく動じていなかった。
「ご心配めさるな、ヘルメス殿。このアルカイオス、たとえどんな敵が現れようと姫には指一本触らせません!」
そういうと豪快に笑い出した。天界無敵の自分に勝てるものなどいない。その自信がこのような態度をとらせた。
「おい、アルカイオス!首は確実にパワーアップしている。前回の記録から推測できる強さとは限らんぞ!」
しかし、その言葉は彼の耳には届かなかった。
(ふん!首なぞ、パーティーを盛り上げる余興に丁度いいじゃないか)
アルカイオスはそう思っていた。しかし、この過信が後に禍根を残すこととなる。
(くそ!アルカイオスめ!1番しっかりしてくれなければ困る奴なのに、危機感がなさすぎる。プライドが高すぎるんだ!これではどこまで当てにできるやら。仕方ない、姉上に手を貸してもらうか・・・)
ヘルメスはアテナの元へと走った。
◇
パーティーは厳かに始まった。
このアテネにオリンポス中の神々が集っていた。
主神ゼウス、海神ポセイドン、冥王ハデス、この3人を中心に様々な神々がパーティーを彩った。
そんな中、今日の主役が登場した。
「カナーンの勇者イカロスさまです!」
司会の紹介とともにイカロスは会場の真ん中を歩き渡った。その先には主神ゼウスがいた。
会場の両脇で神々はどよめいていた。ヘルメスを救った英雄がこんな少年とは思っていなかったのだ。
しかし、その少年ながらも凛々しい顔立ちに会場は色めき立った。
「おい、あいつは」
「ああ、あの男は」
「どこかで見たことのある顔だ」
そんな会話がちらほら聞こえてきていた。
そんな中アテナは
(彼のことに気づいてるやつも多そうだね。ただ誰も彼の名前を口にしない。タブーはさすがに侵さないね。しかし、イカロス、これでも思い出さないのか・・・)
内心、その鈍感さにイライラするアテナ。しかし、それだけ彼を気にしているのである。
(少しでいい、思い出してくれ。出なければ首は仕留められない)
そんなことを思うアテナの目の前で、イカロスはついにゼウスに謁見となった。
ゼウス「我が忠実なる部下であり息子たるヘルメスを救ったこと感謝する、勇者イカロスよ」
イカロス「ありがとうございます、非才の身に過分のお言葉、身に余る光栄にございます」
そんなゼウスの頬に涙がこぼれていた。それを見て驚くイカロス。しまった!と思い、すぐ涙を拭うゼウス。
「すまんな、年のせいか涙もろくなってな。つまらぬところを見せた。忘れてくれ」
そう、イカロスに語るゼウスだった。
(父上も可哀そうに。本当は抱きしめて頬にキスしまくりたいだろうに。さすがにできないよね、今は)
アテナはゼウスの心中を察していた。人間との間に多数の子をもうけてきたゼウスであるが、彼はその中でもとびぬけた存在だったのだ。その彼がまた自分の前に戻ってきてくれたのだ。うれしくないわけはない。
そんなイカロスを横からそれとなく見つめるポセイドン、どことなく怯えているようである。
謁見が終了すると、会場はしばらく懇親会となった。
ユニはその美しさで会場中の男神の視線を釘づけにしていた。
ラファエルはラファエルで、カナーン一の戦士としてオリンポスでも有名であった。
そして今回の主役イカロスである。
この3人を中心に大きな輪ができていた。
「こちらシェム、まだ目標は現れていません、どうぞ」
「こちらアス、そろそろ登場すると思われます。引き続き監視してください、どうぞ」
会場の隅で何かがうごめいていた。
◇
「アルカイオス、まだ~~」
「もうそろそろです、しばらくお待ちを」
そういうや否や、司会の伝令係が入ってきて、テンマの登場の準備ができたことを知らせてきた。
「さあ姫、いよいよデビューです。みんなあなたを心待ちにしていますよ」
数千年ぶりに生まれたペガサスの女王は、天界の注目の的であった。それがいよいよ社交デビューするのだ。会場は大いに盛り上がっていた。
司会がアナウンスを開始する。
「ペガサスの女王『テンマ』さま、ご入場~~」
会場の中央が空き、主神ゼウスへの通路ができた。会場の正面扉からテンマはアルカイオスにエスコートされ、ゼウスへの謁見に臨んだ。
静かに通路を歩くテンマ、その凛とした姿に会場中の視線は釘付けとなった。
テンマを見つめるイカロス、なぜか彼女に惹きつけられた。こんな気持ちはユニと会ったとき以来である。
ユニはユニでアルカイオスを見ていた。
(あの人、どことなくイカロスに似てるわ。顔もそうだけど、匂いというか雰囲気が似ているわ)
テンマはゼウスの前に来ると一礼して挨拶した。
ゼウス「おうおう、可愛いのう。どうじゃ?わしのことは憶えておるか?」
ゼウスが聞いているのは、過去生のことである。
アルカイオス「ゼウスさま、姫はほとんど過去生のことは憶えていらっしゃいません」
ゼウス「そうか、少し残念だがそれなら仕方ない。それも大神の意志なのだろう。だが、せっかくまた生まれてきたのだ。まっさらの方がいい。新たに良い経験ができるからな、のうポセイドン?」
不意に隣のポセイドンに話を振るゼウス、ポセイドンはなぜか冷や汗をかきながら苦笑いした。
ゼウス「さあ、テンマよ、数千年ぶりに皆にその顔を見せてあげてきなさい」
テンマとアルカイオスはゼウスに一礼すると、踵を返し会場へと向かった。その先には彼女を見ようと多数の神々が待ち構えていた。
ペガサスの女王テンマ、大英雄ヘーラクレース、今度はこの2人と中心に輪ができ始めた。
「こちらシェム、テンマを確認、どうぞ」
「こちらアス、首らしきなにかは見当たりませんか?」
「特になにも、どうぞ」
「記録によればあれは、気配もなく不意に現れるとのこと。テンマから目を離さないように、どうぞ」
会場の隅も慌ただしくなってきた。
◇
「イカロス、私たちから心ばかりのお礼がしたいんだがいいか?」
アテナとヘルメスはイカロスにそれぞれプレゼントを渡した。
アテナはアイギスの盾、ヘルメスは翼の生えたサンダルである。
「これは?」
「前に会見した部屋に置いてあっただろ?どちらも古い友人が遺したものだがこの世に2つとない代物なんだ。それをお前にもらってほしいんだ」
ヘルメスがイカロスに勧めた。
「そんな、そんなすごいものいただけません。それにヘルメスさまからは前に剣を一振りいただいてますし」
その奥ゆかしいイカロスのセリフに対して、ヘルメスとアテナは内心こう思った。
(いいからもらえよ、その盾もサンダルも元々お前のもんだから!)
しかし、まさかそんなことは言えず、ヘルメスはこう続けた。
「いや、遠慮ことはないぞイカロス。これを与えるのはお前にはそれを身に着ける資格があるからなんだ。これらはお前以外のものが使っても役に立たない代物なんだ。それにそれを着けて君が活躍するのは、我々だけじゃない、ここにいるみんなの願いなんだ。だから受け取ってくれるね」
それでもどうしようか迷うイカロス。困ってユニ、ラファエルを見る。
ユニはそれを身に着けたイカロスが見たくてワクワクしている。
ラファエルは微笑んでいる、そして
「いただきなさい、そしてみんなの期待に応えなさい」
そういってイカロスの背中を押した。
「分かりました、ありがたく頂戴いたします。同時にこれを身に着け皆様の期待に応えられるよう努力することを約束します」
その一言で周囲から歓声が上がった。
「着てみて、イカロス!」
アテナはワクワクしながら、それを身に着けるのをせかした。
そしてついにイカロスはそれらを身に着けた。
ただ、盾を持ち、サンダルを履いただけである。
しかし周囲の反応は・・・
「復活だ・・・」
あるもにはその姿をみて涙を流していた。
アテナもヘルメスも涙ぐんでいた。
ユニは顔に手をあてそのイカロスの姿にうっとりしていた。
そして・・・
そんな彼らを見つめる影がひとつ・・・・
会場入り口付近
「おーい、交代だ」
数人の警備員が入り口の当番警備員たちに話しかけた。しかし、返事がない。
(?)
不審に思った彼らは、彼らの元に急いだ。そして見たものは・・・
「ひぃ~~~~~~」
そこにいるのは石化した当番警備員たちであった。




