表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火涙の少女  作者:
1/12

序 幕 『炎の記憶』


 炎が、燃えている。

 その炎は燃やしている。

 街を、森を。――人々を。

 そこに在るのはただの赫い炎。

 街を燃やし、森を燃やし、人々を燃やす、無慈悲なまでに赤く、そして綺麗な赫い炎。


「う、ぁ……ぁ」

 

 嗚咽が漏れる。涙が頬を伝う。

 そしてそれが地に触れる前に、拭う。


 泣いてはいけない。泣いてはいけない。


 泣いたらまた、燃えてしまう。それだけは、ダメだ。

 けど、拭いきれなかった涙が、地に触れる。

 刹那、炎が燃え上がった。


「あぁ……ぁ、ぁあ……!」


 ――燃えた、燃えてしまった。

 ――燃やしてしまった。


 それが、決定打となった。


「――――――!」 


 堤防が決壊する。

 涙が溢れる。

 燃える。


「ああああああああああ――――――ッ!!!!!」


 燃えていく。

 生まれ育った街も、駆け回った森も、さっきまで話していた人々も、等しく、燃えていく。

 その光景を、泣きながら、虚ろな眼で見つめる。


「――――――、」


 駄目だ。ここに居てはいけない。

 何処か、遠い場所へ。

 遠く、遠く。誰も来ない場所へ。

 涙を拭う。そうすれば炎は収まる。けど、一度放たれた炎はもうどうすることもできない。


 地獄を歩く。

 己がつくった地獄。その事実に、思わず涙が出そうになる。

 泣いてはいけない。泣いてはいけない。

 これ以上は、もう。

 だから、せめてものも償い。

 この光景をつくってしまった、償いを。

 この光景を、眼に。


「――――、なさい」


 呟く。


「――――ごめん、なさい」 


 その呟きは、誰に向けられたモノか。


「ごめんっ……、なさい……!」


 泣いてはいけない。泣いてはいけない。


 泣いたら、燃えてしまう。

 ――泣いたら、失くしてしまう。

 嗚咽を堪え、涙を拭い、償いの為に光景を眼に焼き付け、そして呟きながら、歩む。


 ――この日、わたしは総てを喪った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ