ドラゴンを仕留めた男
冒険者ミズリオは剣帯ごと外して鞘と剣をテーブルに置くと、酒を注文した。
「俺はドラゴンを仕留めた男だ。この店で一番高い酒をくれ」
これには店にいた他の客も驚いた。
最近、街のすぐそばにある火山の主――エンシェントドラゴンが消えたというのが話題になっていたからだ。
「おいおいアンタ、ホラ吹くのはやめときな。剣一本でドラゴンを仕留めただって?」
「冗談きついぜ」
「それともそいつは魔法の剣かい?」
笑い混じりの野次が飛んだが、ミズリオは『やれやれ』とばかりに頭を振った。
「剣は使ってない。ドラゴンなんてイチコロさ、俺にかかればな」
今度こそ店中が笑いに包まれた。店主まで苦笑いで、そこそこいい酒を持ってきてくれた。
「俺は一番高い酒をくれと――」
「もうどこかで一杯ひっかけてきたんだろアンタ。お代はいいから飲んで帰ってくれ」
こうなると、馬鹿にされたミズリオと、彼を肴に飲んで騒ぐ店という図式はもうひっくり返ることはなかった。
すると今まで彼の隣で座っていた、見た目一〇歳そこそこの赤毛の少女がボソッと喋った。
「ミズリオ、おまえ、わらわれてる」
「うるさいぞクソガキ」
「クソガキじゃない。フラム、おまえより年上。ずっとずっと」
「ああ、くそ。そうだったな。ショタコン女め」
「ショタコン、ちがう。口説いてきたの、ミズリオのほう」
「まさか土壇場でトチ狂って愛を囁いたらこうなるとはな……」
「だいじょうぶ、ミズリオ。愛はひとをくるわせる。フラムは『ほうようりょく』あるから、そんなミズリオもうけいれる」
「包容力の意味知ってんのかよペッタンコ……」
「む。このすがた、きらいか? もっとおおきいほうがいい?」
「お前の『大きい』は元の姿的な意味だろそれ。包容力ってのはこう、傷ついた男の子を暖かく包んでくれるムチムチのだな……」
「もとにもどったら、あたためれる」
「だからその『温める』は温度が違うから! 火ぃ吹くってことだろ!」
店主が少女に「ほら、お嬢ちゃんはミルクでも飲みな」と持ってきてくれる。
誰も、ミズリオの言葉が真実だなんて思わなかった。